さつきはオレが守る2

 オレ――青峰大輝と幼馴染の桃井さつきは桐皇学園に揃って入学した。オレはバスケ部のエースとしてスカウトされたんだ。
「てかさぁ、おめー、テツが好きなんだろ? テツと同じ誠凛に行けば良かったのに」
「だって、青峰君ほっといたら何するかわからないんだもん」
「オレが馬鹿やるとでも? 今だっておめーの手伝いしてんじゃん」
「当たり前でしょ。――女の子に重い荷物持たせる気?」
「……ちっくしょ」
 本当はプリントの束なんでそんなに重くはない。ただ――どっかの馬鹿が窓開けやがってばぁっと紙が風を舞う。
「うわぁ、ごめんなさい!」
「あん? いいっていいって」
 普段の桜井みてぇな反応する奴だな。名前知らねーけど。――桜井はいいシューターで、普段は自分のこと羽虫とか何とか言ってっけど、スイッチ入ると生意気なんだこれが。
「青峰君」
「んだよ、さつき。そんな呼び方して――今まで言ったかどうか知らんが、おめーがそう呼ぶ度に背筋が薄ら寒くなったもんだぜ。もう慣れたけど」
「何よぉ。慣れたならいいじゃん」
 それにしても紙の臭いがきついなー。俺が山羊だったら食っちまうかな。んで、センコーに怒られる、と。――なんだ。いつものパターンじゃん。
 さつきのピンク色の頭が動く。
「さつき、おめー短いスカートほんと似合うなー。パンツ丸見えだぞー」
「な、何よ! 青峰君のエッチ!」
 オレはさつきのキックをかわす。――おっと。空を切ったな。今。眼福眼福、なんつって。
「こらー! お前ら遊ぶなー!」
 やべっ、センコーだ。え? 名前は何だって? センコーの名前なんかいちいち覚えてられっかよ。
 とにかくオレはとっとと逃げ出した。さつきがどうなったかは知らねぇが、あいつは大人受けいいから大丈夫だろう。

 ふー、あー、いい気持ち。やっぱ屋上での昼寝は最高だな。
「青峰君!」
 ちっ、さつきだ。もう嗅ぎつけてきやがったのか。尤も、オレが来るところなんてここしかない。
「ちゃんと授業に出ようよー」
「ああ?!」
 オレは凄みをきかせてやったが、さつきには効かなかったようだ。
「おめー、わざわざ呼びに来たのかよ……」
「そうよ。悪い?」
「おめーもこっち来いよ。ここの空気は最高だぜ」
「大ちゃん!」
 呼び方が昔に戻ってる。
「ふざけるのもいい加減にしてよ! ちゃんとしなきゃダメでしょ!」
 ――こいつは何でオレを追うように桐皇に来たんだろうな、と考える。でも、はっきりわかることがある。
 こいつはオレと一緒に桐皇に来たんだ。
 そりゃ、それぞれ好きなヤツってのも出来たが――。
「センコー怒ってた?」
「怒ってたよ。……青峰君に」
 だろーな。大体オレはセンコー受けが悪い。さつきもやきもきしてるんだろうな。けれど、べんきょーなんてオレの性に合わねぇし。オレはやっぱりバスケが好きでさ――テツ達に負けた時改めてそう思ったぜ。
 オレは、さつきもこの学校に来ると聞いた時――ほっとしたんだ。
 だって、いつでも守ってやれんじゃん。
 これは恋じゃねぇ。恋と呼ぶにはあまりに馴染み過ぎてる。さつきはテツが好きだしな。
 ……テツを選ぶなんて、さつきも目が高いじゃねーか。
 だからオレは、さつきが誰を見ていようと――テツを見ていようと守るって決めたんだ。ま、さっきは逃げ出したんだけどな。
 でも、ここ一番という時は、オレが守ってやる。
 オレだって巨乳だけど口うるせぇお袋みてぇなさつきよりマイちゃんの方が好みなんだけどな。
 それに――火神。
 火神大我はテツを巡ってのオレのライバルだ。ヤツが現れるまであいつの光はオレだったんだから。でも、ヤツとは反発しながらもどうも気が合うなぁと思う時もあるんだよなぁ……。
(青峰君と火神君て似てますね)
 テツがいつぞや言った言葉だ。
(どこがだよ)
 そう聞くと、テツは困ったような顔で笑っていた。
 まぁ、火神のことはいいや。これ以上考えると藪蛇になりそうだから。
「さつきー」
「ん?」
 ――綺麗になったな。でも、そんなこと言ってやらん。言わなくたって、オレがこいつを守ることには変わんねぇし。
 かんかんと鉄で出来た階段をさつきは上ってきた。
「さつき?」
「――ここの空気は最高なんでしょ?」
「おう。眺めも最高だぜ。今日はおめーも授業サボれや」
「……そうだね」
 何だ。怒るかと思ってたけどな。
「大ちゃんはいつもここから街を見てたんだね」
「おー、目にはいっからな」
「なかなか――いいじゃない。あ、だけど、大目に見るのは今だけだからね! 次からは引きずってでも授業に連れてくよ!」
「――うっぜぇなぁ。てめーはオレのおかんか」
「大ちゃんみたいな息子なんていらないもん」
 ――さつきとはずっと一緒にいたんだ。新鮮さなんて微塵もねぇ。こいつとは腐れ縁だもんな。オレは話題を変えた。
「――テツ、元気にしてっかなぁ」
「私も気になるの。大ちゃんも気になる?」
「だな。一度は光と影と呼ばれてたもんな。オレとテツは」
「いい思い出だよね」
「そうだな――今だからこそ言えることだけどな。またバスケやろうな。今度はさつきもゲームに混ぜてやってもいいぞ」
「え? いいってば私は――でも大ちゃんもちゃんと部活出てくれるようになったのは嬉しいな。授業は相変わらずサボりが多いけれど」
 オレは校長からちゃんと補習出ねぇと留年させるぞ、と脅されている。
「しゃーねぇ。午後の授業には出てやらぁ」
「ほんと?」
 さつきの目が輝いた。

 ――オレ達はつい話し込んでしまった。あっという間に四時限目ももう終わりだ。昼休みを告げるチャイムの音が鳴る。オレの腹も鳴る。
「んじゃ、行きましょうか。よっと」
 オレは高台と勝手に呼んでいるところから飛び降りた。
「青峰君、待って」
 さつきが段を降りてくる。
「先に体育館行ってんぞ」
「うん。――今日は青峰君にお弁当持ってきたの」
「――は?」
 オレはさぞかしげっそりした顔になっていたことだろう。
「無理無理無理! 大体、オレの弁当は桜井が作ってくれてるからな! デコはマイちゃんで!」
 さつきの目からはじわーっと涙が盛り上がる。
「……食べてくれないの?」
 昔のオレはこの涙に弱かった。そのせいで気絶したことも何度かある。
「もっとちゃんと弁当が作れるようになってから食ってやらぁ」
「あ。お弁当作り上達したらテツ君に食べてもらうの」
 ――オレは実験台かよ!
 オレは思いっきり心の中で突っ込んだ。――そういやさつきの母も料理が下手だった。
 やっぱり、こいつ守るってオレに誓った約束、どっかに丸めて捨ててしまおうかな……。
 でも――さつきがオレを放っておけないように、オレもこいつを放っておけなくて……。
 さつき。オレがついてんぜ。お前は、オレの大切な――幼馴染なんだもんな。バスケだってテツ達に負けねぇように頑張ってやらぁ!

後書き
高校生になった青峰君と桃井さんです。
いつも一緒にいる二人。個人的に青峰君には桃井さんを守ってあげて欲しいのです。
2018.03.25

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