さつきはオレが守る

「ふぇ~ん、大ちゃ~ん」
 オレの名前は青峰大輝だから、おさななじみの桃井さつきには『大ちゃん』と呼ばれてる。
「どうした? さつき。またいじめられたか?」
「うん、そうなの~」
 なんでさつきはいじめられるのかなぁ……。さつきばっかり……。
「よし、さつき! おまえをいじめたヤツの名前全部言え!」
「……どうするつもり?」
 さつきが上目づかいでこっちを見る。泣いてやがる!
「決まってんだろ、さつきをいじめるヤツら全部ぶっ殺してやんよ!」
「や……やめて、大ちゃん! 大ちゃんが行くともめるから……」
「でもなぁ……さつきのことはおさななじみだし、その……」
「なぁに?」
「なんでもねぇよ」
 オレはチッと舌打ちした。さつきはかわいい。でもいじめられっ子だ。
「大体おめーはなぁ……やられたらやり返せよ」
「わたし、大ちゃんとちがうから――」
「ああ?! テキは全部けちらすのがオレのやり方だよ」
「そういうところがいけないんだって――わたし、気にしてないから! ただちょっと話聞いてもらいたかっただけ――」
「だから、おめぇは甘いんだよ。……よし、決めた! さつきのことはオレが守るから!」
「ええっ!」
「……それから、そのぅ、あまりあばれねぇようにするから――」
「大ちゃん、うれしい!」
 さつきが抱きついた。――いいにおいがする。さつきのヤツ、高いシャンプー使ってんな。
「おい、はなれろよ――」
 あまりにも照れくさくなったオレが言う。
「あ、ごめん。あまりにもうれしくって――」
「相手にはあまりケガ負わせないようにするからな」
 さつきがこくんとうなずく。
 さつきのことはオレが守る。だって、オレはさつきを嫁さんにすんだからな。自分のオンナ一人守れなくては男とはいえねぇ、だろ? ――ビデオで覚えたセリフだけどな。
「あーあ、泥だらけじゃねぇか。それもそいつらにやられたのか?」
「ん? ちがう……これは落ち込んで歩いているところで転んでしまって――」
 そういえば、今日は雨がふってて水たまりも多かったな。梅雨だもんなぁ。もう雨は上がったけれど。
「マジか?! どんくせぇな」
「うう……大ちゃん……」
 さつきがまた目をうるうるさせている。――でも、オレ、さつきのそんなところも好きなんだ。守ってやりたくなる。
 ――守ってやるよ。一生。
「うち、来るか?」
 母ちゃんもさつきだったら絶対喜んで迎え入れるはずだ。母ちゃんは娘が欲しかったって言ってたもんな。オレはどうなるっつーんだよ。
 ――オレのことはどうでもいいか。帰るのが先だな。
「だからさぁ……泣くなよ」
「――うん」
 どうしてさつきはいじめられるんだろうなぁ……女だからかなぁ……。さつきをいじめるのは男連中だからな。女はたいがいさつきの味方だ。
「ほれ」
 オレはハンカチを取り出してさつきにわたした。
「大ちゃんのハンカチ……くしゃくしゃ……」
「んだよ。モンクがあるなら返せ」
「――ううん。うれしい。ありがと」
「ふん」
 オレはさつきの視線がまぶしくてそっぽを向いた。――さつきがハンカチで涙をふくまでオレは待った。
「汚れちゃったね。後で洗って返すからね」
「んなこと気にすんな。――ほれ」
 オレは手を差し出す。
「何?」
「手、取れよ」
 さつきがオレの手をにぎる。オレはさつきを引っ張るようにオレの家に向かう。ずっとこのままこの道が続くといいなと思った。
 玄関の扉を開けると母ちゃんが出てきた。
「大輝――チャイムはちゃんと押しなさいと言ったでしょ」
「うっせーぞ。ババァ」
「あら、さつきちゃん」
「こんにちは。おばさん」
「まぁ、さつきちゃん泥だらけ。大輝、なにやったの?」
「オレじゃねぇよ」
「大ちゃんはわたしのこと元気づけてくれたの」
「へぇー、大輝がねぇ……ふーん」
「……んだよ」
「ま、いいわ。お風呂沸かしてあげる。――さつきちゃん、入るでしょ?」
「うん――」
「服は大輝のは――ちょっとイメージが違うから桃井さん家に行って替えの服もらってくるわね」
「ありがとうございます。おばさん」
「いいのよ。さつきちゃんは娘みたいなものだから」
「オレも風呂入っていいか?」
「ええっ?!」
 さつきは顔が赤くなっている。なんだ? どうしたっていうんだ? いつも入ってんだろうーが。
「ダメに決まってるでしょ!」
 ババァ――母ちゃんがどなる。なんでだよ。
「さつきちゃんはレディなんだもんねぇ」
「そう。わたし、レディなの!」
「あっそ。まぁいいや」
 結婚したら、またいつもいっしょに風呂に入れるもんな。それに、さつきのヤツ、なんか急にかわいくなったっつーかなんつーか……。
 いっしょに風呂なんか入ったら変なことになりそうだなー。
「オレがさつきの服とってくるよ」
「そう? お願いね。大輝も大人だもんね」
「へっ、――そう?」
 なんだかんだ言って母ちゃんもわかってんじゃねーか。さつきがすまなそうに言った。
「いいの? わるいよぉ」
「いいんだよ。だって――」
 さつきはオレの嫁さんだもんな。
 口に出して言おうと思ったが、なんかはずかしくなって口をつぐんだ。
 あー、あちぃなぁ。雨がやんだと思ったらすぐに暑くなるんだもんな。
 遊びに行きたいけど、今はおつかいがカンジン。
 だって、母ちゃん怒るとこえぇからな。自分から言っといておつかいほっぽって遊びに行ったら、仁王様って言うの? 母ちゃんはそんな鬼のような顔で怒るに決まってる。
 さつきが着替えたらさっさと遊びに行くか。
 オレはさつきの家に来た。さつきの母ちゃんが出た。
「あら、大ちゃん、どうしたの?」
「さつきの服をとりに来た」
 オレは今まであったことを全部話した。さつきがいじめられていたことも――。
「あらあら。さつきったら、そんなこと全然話してくれないのよ。でも、大ちゃんがいて良かったわ。大ちゃんがさつきと仲良くしてくれるからね」
「おう! だって、オレ、さつきのこと守るって決めたからな!」
 さつきのこと、これからもよろしくね。そう言ってさつきの母親がキゲン良さそうに笑った。さつきもこんなボインの美人に育つのかな。
 ――正直さつきのことをめんどくせぇと思うことはあるけど、悪い気はしねぇな。

後書き
青峰クンと桃井サン。小学生の頃かな。だからひらがな多めです。
この頃は純粋な青峰クン……でもないか(笑)。
2017.6.6

BACK/HOME