サプライズパーティー!

 10月31日――。
 ハロウィーンの日でもあり、僕の誕生日でもある。
 静かなBGMに、客の他愛無いお喋り。僕達は今、ゴールドメダイユ地区の高級レストランでデートをしている。
 僕達、というのは、僕――バーナビー・ブルックス・Jrとワイルドタイガーこと、鏑木・T・虎徹さんです。
「なぁ、バニーちゃん。ビル的なビルは今日も綺麗だな」
「そうですね」
 僕は笑いを堪えながら答えた。ビル的なビル――横着な説明だとしか思えないが、それもまた虎徹さんらしくて好きだった。
 ヒーロー二人が食事をしていても、ここのレストランの客は品がいいのか、僕達のことを噂するでもない。その方が僕にも都合が良かった。
「たくさん食えよ。俺のおごりだから」
「――わかりました」
 暴走する癖のあるヒーロー、ワイルドタイガーこと虎徹さんは、賠償金でいつもお金に困っているのに、どこからこのレストランで食事をする費用を捻出したのかと疑問には思ったが、
「細かいことは気にすんな」
 と、あのタイガースマイルで言われたら、僕は何も訊けなくなってしまった。
 僕もいい加減色眼鏡があるのかもしれないが――虎徹さんは可愛い。年を重ねてますます可愛くなったようだ。
 まぁ、いいでしょう。プレゼントに虎徹さんも頂きますからね。
 僕は、会計を虎徹さんに払わせて、二人して腕を組んで夜の街を闊歩する。僕達は幸せな恋人同士だった。そう。家に入るまでは――。

 僕が部屋に入ろうとすると、扉がほんの少し開いていた。
「あれ?鍵が開いて――」
 僕が歩を進めると――。
「ハッピーバースデー! バーナビー!」
 ――家の中はカオスだった。

「皆さん! というか、貴方達どこから――!」
「ごめん、バニーちゃん……」
「虎徹さん。これは貴方の差し金ですか?」
 確か以前にも僕の誕生日に下らない寸劇を企てたことがある虎徹さんである。前科はあった。でもいつ――。
 はっ!
(バニーちゃん、俺、財布家に忘れてきたみたいだわ)
(……しっかりしてくださいよ。虎徹さん)
 ――まさかあの時!
 虎徹さんは僕の家の合鍵を持っている。一緒に住んでいるのだから当然だ。
 しかし――すっかりしてやられましたねぇ。全く、このおじさんと来たら。
 だが、悪い気はしなかった。いつもは間接照明に照らされている部屋がいやに明るい。
「バーナビーさん! 僕、ドラゴンキッドとかぼちゃのランタン作りました!」
「楽しかったよねー」
 折紙先輩とドラゴンキッドが力作を差し出す。なるほど。これを作ったのか。なかなかよく出来ている。かぼちゃに彫られた表情は笑顔だった。
「やあ、バーナビー君、お誕生日おめでとう、そしておめでとう」
 スカイハイが握手を求めてくる。アメリカのヒーローの如く整った顔の造作なのに、頭はいささかアマいが悪い人ではない。ヒーローらしいヒーローだ。ボクが現れるまではキング・オブ・ヒーローだったのも頷ける。
 折紙先輩はスカイハイが好きらしい。でも、ドラゴンキッドともお似合いなような気がする。折紙先輩はちょっと僕と似ているところがあるし、気の毒な過去で悩んでいたこともあったのだから、幸せになって欲しい。
「バーナビー!」
「楓ちゃん!」
 まさか楓ちゃんまで来るとは思わなかった。
「これ、私からのプレゼント」
 それは赤い手袋だった。
「ありがとう。これからの季節、寒くなるからぴったりだよ」
「うん。私もそう思って編んだんだ」
「なぁ、俺の楓はやっさしーだろう? 器用だろう?」
 楓ちゃんは、虎徹さんの一人娘だ。急に相好を崩す。娘には大甘なお父さんなのだ。
「ふん。あんまりふざけてるとお父さんには編んであげない!」
「ふざけてなんかないってー」
 そう。虎徹さんはこれで素なのだ。だからこそ質が悪い。
「どっどーん!」
 誰かに背中をタックルされた。
「よっ、ジュニア君」
「ライアン!」
 金髪を短く刈り込んでいるこの男は、ライアン・ゴールドスミスだった。ヒーロー名はゴールデンライアン。またの名を「さすらいの重力王子」
 短期間だが、彼とコンビを組んでいたことがあった。彼には海外での実績もある。一見ちゃらちゃらしたお馬鹿なアメリカ人だが、人は見かけによらないとは彼のことを言うのであろう。
「わざわざ来たのかい?」
「ああ。タイガーからアンタの誕生日だって聞いて、すっ飛んで来たぜ」
 僕はライアンとも握手をした。
「どっどーん! その2だぜ!」
 今度は聞き慣れた声。ロックバイソンさんだった。
「こら、ロックバイソン。パクるな」と、ライアン。
「何だっていいじゃねぇか。ああ、これ、お祝いの焼酎」
「僕はロゼワインの方がいいのですが」
 僕が控えめながら注文をつける。
「まぁまぁ、旨いんだぜ。これ」
「じゃあ、アタシがいただくわ」
 ファイヤーエムブレムがすっとグラスを差し出す。本名はネイサン・シーモアというオカマだが、相談役のお兄さん――じゃなかった、お姐さんみたいな役割を果たしている。僕も時々お世話になっている。
「おう。ファイヤーエムブレム。アンタいいヤツだな」
「どうも」
「オカマでなければ考えなくもなかったがな」
「ふふん。そのうち落としてやるわよ。ロックバイソン。そうだ。お料理作ったのよ。食べない?」
「ボク、食べるー」
 と、ドラゴンキッド。この少女は(言い忘れたが、ドラゴンキッドは可愛らしいお嬢さんなのだ)、元気で溌剌としている。僕もつられて笑顔になる。
「はーい。ファイヤーエムブレム特製の愛情たっぷりのかぼちゃパイよ」
「わーい! いただきまーす!」
「スカイハイも、折紙もどう?」
「いい匂いだね。頂こうか。折紙くん」
「――はい」
 折紙先輩はスカイハイには素直だ。いや、本当はもともと折紙先輩は優しくて素直なのだ。
「ハンサム!」
 怖い顔をしてブルーローズ――あ、今はカリーナ・ライルか――が立っていた。
「なに私のこと無視してんのよ」
 別に無視しているわけではないのだが――後から後から個性派揃いの友人が現れてきて、ブルーローズどころではなかったというか――。
「おお。すまんな。ブルーローズのこと、忘れていたわけではないぞ。バニーちゃんは」
 どうして僕のフォローするんですか。虎徹さんは。そして、虎徹さんにそう言われたローズも赤くなって俯く。
「まぁ……タイガーがそういうんならそうなんでしょうね」
 ローズは虎徹さんが大好きだ。同じく虎徹さんが大好きな僕だからわかる。
「今日はハンサムの誕生日だから、なんか歌ってあげる。……ここ、ピアノないの?」
「残念ながら。僕は弾きませんし」
「仕方ないわねぇ。じゃあ、アカペラで我慢してね」
 ローズは歌い始めた。歌姫のヒーロー。ローズはその声でも男女問わず魅了して人気を博していた。
 彼女が歌ったのは、悲しい恋の歌。けれども、強く生きていく。そんな歌。――サビの部分では僕も思わず涙ぐんでしまった。
「どうだったかしら――あまり、誕生日にはそぐわないかもしれないけど……」
「そんなことない! 素晴らしかったよ!」
 スカイハイが思いっきり拍手をする。ライアンがローズに近付いて、
「このキスと歌姫の称号をあなたに」
 と言って、彼女の手の甲にキスをした。
「まーったく、キザなんだから」
 けっ、と虎徹さんが吐き捨てた。
「でもま、ローズは上達したよな。ブルーローズとして歌手活動してから更に上手くなったぞ」
「タイガー……」
 ちょっとちょっと。さっきのローズじゃないけど、僕の存在無視しないでくれませんか? 僕は虎徹さんの恋人なんですよ。
「そうだ。ねぇ、ハンサム。今日はここに泊めてくれない?」
「……え?」
「いいねぇ! みんなで朝まで騒ごうぜ!」
 虎徹さんがはしゃぎ始める。ちょっと、僕のことも考えてくれませんか?! 今日の主役は僕のはずでしょう?! 僕は虎徹さんと二人きりで過ごしたかったのに……。
「もう! お父さん! バーナビーが迷惑してるじゃない! バーナビーのことも考えてあげてよ!」
 虎徹さんより、楓ちゃんの方がしっかりしてる……それなら僕もこう言うしかない。
「いいですよ。今日は無礼講です」
「やったーーーーーーー!!!!!!!」
 また一段と騒がしさの度合いが増したような気がする。僕はちょっと自分の頬が引き攣っているのがわかった。
 でも、まぁいいか。みんな、それぞれに僕のことを祝ってくれてるんだし。僕の誕生日が大騒ぎする口実に使われている気もなきにしもあらず、だけど。

後書き
私はこの日を待っていた! バニーちゃん誕生日おめでとう!
ゴールデンライアンが出て来る映画版を観てないので、彼の性格・設定は捏造です。一応ネットで調べたりしましたが。
今時、捏造ライアンなんて書いてるタイバニファンは私ぐらいなものだろう……。
2014.10.31


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