サンドイッチとハンバーガー

 最近、アーサーがそばにいると、シー君、苦しいほど胸がドキドキするのですよ。
 パパは何でも知っているですよね。
 どうしたらいいですか? パパァ……。

「それは、きっと恋だね。ピーター」
「恋ですか」
 シー君も、やっと大人の仲間入りをしたのですね。だって、恋って大人がするものでしょ?

 今日も、いつもと同じ一日が始まりました。
「アーサー! お腹空いたろ? ハンバーガー食べないか?」
 アルフレッドの野郎が、アーサーにつきまとっているのですよ。はっきり言って邪魔なのです。
「アーサー! シー君サンドイッチ作ったですよ!」
「なんだい? 君は」
 アルフレッドは、ちょっと機嫌がわるそうなのですよ。でも、お互いさまなのですよ。
「シー君ですよ!」
「んなことわかってるよ! 子供はあっち行きなよ!」
 ムッ!
 シー君を子供扱いしたですね!
「アーサーは、シー君のサンドイッチを食べるのです!」
「俺のハンバーガーを食べるんだよね? アーサー」
「シー君の!」
「俺の!」
 アーサーは、その横で、ふかーいため息をついたのですよ。
「わかったよ。両方食ってやるから。あーあ、ギリシャとトルコに挟まれた日本の気持ちがわかるなぁ……」
 アーサーは、ハンバーガーとサンドイッチを受け取ったのですよ。
「ピーター……これ、殻入ってる」
 なにいいますか。それはカルシウムなのですよ。わがままいってると大きくなれねーですよ。
 ピーターというのは、シー君のもうひとつの名前。
 ちなみに、シー君は、将来アーサーよりも大きくなる予定なのですよ。
 おっきくなって、シー君を子供扱いしたアルをやっつけてやるのですよ。
「ま、カルシウムだと思えばいっか」
「さすが味オンチのアーサーだね」
 アーサーのいうことに、アルが皮肉で返したのですよ。
「きっとピーターも味オンチなんだろうな」
 ムッ! 失礼な!
 ムッと来たのは、今日で二回目なのですよ!
 許すまじ! アルフレッド!
 いつもはパパがそれはそれは美味しい料理を作ってくれるのですよ。だから、シー君は味オンチじゃないのですよ。
 というか、そんなことばかりいってるとモテなくなるですよ。
「こら、てめ、どういう意味だ」
 アーサーがすごむのですよ。ちょっと怖い……元海賊で、昔は暴れまわっていたということは本当なのですね。
「君の食生活が心配なだけだよ」
「大きなお世話だ。アル」
「まぁ、僕のハンバーガーでも食べて、元気出しな」
「……じゃあ、もらってやるよ」
「ダメなのでーす!」
 シー君は、アーサーがアルからもらったハンバーガーを取り上げ、床に投げつけてやったのですよ!
 なんですか! こんなもの!
「ピーター!」
 アーサーが怒鳴る。
「なんですか」
「食べ物を粗末にしちゃだめだろ! せっかくアルが作ったのに!」
 アーサーが怒った! シー君はショックですよ。
「アーサー……君だっていつも料理と称しては生ゴミを生産しているくせに」
 アルのバカが言ったけど、今はそれどころじゃないのですよ!
「アーサーのバカーーーー!!」
 シー君は部屋を飛び出して行ったのですよ。
 廊下に縮こまって泣いていると、リトお兄さんが来たのです。
「えーと……ピーター君、だっけ? どうしたの? そんなところで」
「リトお兄さーーん! アーサーが! アーサーが怒ったですよ!」
「ふぅん? どうして?」
 リトお兄さんは、話を聞こうとしてくれているのですよ。どっかのバカとは大違いなのですよ。
 最初から、リトお兄さんはシー君に優しかったのです。
「アルフレッドの持ってきたハンバーガー、床に投げつけたら、アーサーに怒られたのですよ……そりゃ、確かにいいことだとはおもわねーですけど」
「そっかぁ……。だから、アーサーは君に注意したんだね」
「アーサーはシー君のこと嫌いなのですか?」
「そんなことないよ。多分、むしろその反対」
「?」
「アーサーは、君のこと大事に思っているから注意したんだよ。もちろん、アルフレッド君のこともあるだろうけどね」
 後半は、なんだか耳をスルーしてしまったけれど。
 大事に思ってる……大事に思ってる……。
「リトお兄さん、大好き!」
 シー君はリトお兄さんに抱きつきました。
 リトお兄さんは、アーサーの次に好きなのですよ。
 その時――
「そこまでだし。リトは俺のものだし」
 ポーが現われたのですよ。いったいどこから……。
「おまえみたいなガキんちょ、リトが相手にするわけないしー」
「ちょ、ちょっと、ポー……」
 リトお兄さん、ちょっと困っているみたいなのですよ。
 だからイヤなのですよ、空気読めない人は……。
 そういえば、アルも空気読めないですよ。
 でも……アルが作ったハンバーガーにあんなことしたのはわるかったですよ。
 シー君だって一生懸命サンドイッチ作ったのだから。それをだいなしにされたら怒るに決まってます!
 謝りに行くのですよ。アーサーと……アルフレッドに。

「おお。帰ってきたな。ピーター」
「お帰り」
 二人は思いのほか、きげんよさそうだったのですよ。
「あ、アーサー……アル……さっきは……その……」
 ごめん。
 消え入りそうな声になってしまったのですよ。
「いいってば。君の気持ちもわかるしね」
 アルがいった。
「俺だって、君の作ったサンドイッチ、壊したいと思ったもん」
「じゃあ、お互いっこ様なのですね」
「そうそう」
「さてと、じゃあ、今日は俺が料理作るか」
「アーサーが?」
 シー君とアル、同時に嫌そうな声でハモってしまったのですよ。
「安心しろ。今日はビーフシチューだ」
「それなら、まぁ、いいかな」
 ビーフシチューは、アーサーがまともに作れる唯一の料理なのですよ。
「さぁ、がんばるぞっと」
 アーサーは厨房に消えて行ったのですよ。
 アルが顔を寄せて、こそっと言った。
「今度のことは水に流してやるよ。ピーター。でも、君にもアーサーは渡さないからね」
「シー君だって、あきらめないですよ」
「よし、とりあえず、今日は休戦協定を結ぼう」
 アルが手を差し出したのですよ。
 一個の国として認められたようで……シャクだけど、ちょっと嬉しかったのですよ。
 もちろん、シー君も国として、アルと握手を交わしたのですよ。
 パパ……ライバルもいるけど、なんとかやっていけそうなのですよ。
 このちょっとしたできごとの話は、これでおしまい! なのですよ。

後書き
思いのほか長くなりました。
ポーが出て来たのが予想外でした。ほんと、どこから現われたんでしょうかねぇ……。
機会があったら、また書きたいですね。

追記
『シー君』とは、シーランド、別名ピーター・カークランドのことです。
「シー君て誰?」との質問がありましたもので。
他人が呼ぶ時は「ピーター」、自分で言う時には、「シー君」と使い分けているのです。
ややこしいですね。すみません。
2010.2.17

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