レイジ達のその後

 久しぶりのガンダムバトルをした後、レイジとイオリ・セイは夕食をかっこんでいた。特にレイジの食欲はすさまじい。
「お代わり!」
「はいはい」
 セイの母親、イオリ・リン子はレイジにご飯をよそおってやた。
「あら……困ったわ。ご飯がもうないのよ」
「じゃ、オレ、近くのコンビニで何か買ってくるよ」
 レイジはすっかりセイ達の世界に馴染んでいた。
「あ、僕も行く!」
「……あまり遅くならないのよー」
「はーい」
 レイジとセイはパタパタと外へ駆け出して行った。

「はー。やっぱりピザまんはうめぇなー」
「レイジはピザまん大好きだね」
「おう。アリアンにもピザまん広めてやったからな。ガンプラバトルもな」
「アリアンにガンプラバトルが?」
「アイラと一緒にガンプラバトルの楽しさを国民に教えてやってんだ――マシタもこそ泥から足を洗ってあの秘書の女とガンプラバトルを広めるのを手伝ってくれてるんだぜ」
「へぇ……」
 セイも自分のピザまんに口をつけた。
「アイラさん、元気なんだ」
「元気元気! もう、『アリアンは王子とアイラ様に食い潰される』とセバスチャンが嘆いてたよ!」
「……大変なんだね」
「でもないさ。アリアンは豊かな国だからな」
「そういう問題じゃなくて……」
「おまえの方こそ、元気にしてたか?」
「うん! レイジがいないのがちょっと寂しかったけどね」
「ガンプラバトルは好調か?」
「勿論!」
 セイが喜んで頷いた。
「今のセイのビルドストライクコスモス……強くなったな。操縦も上手くなったし」
「レイジこそ」
 レイジはあむっとピザまんに食いつく。咀嚼してごくんと飲み込むとレイジは訊いた。
「委員長はどうしてる?」
「どうって?」
「セイー。おまえ委員長のこと好きだったんだろ? ん?」
「れ……レイジったら……委員長と僕はそんな関係じゃないってば……」
 セイは照れながら話す。
「いいっていいって。委員長だってセイのこと好きだろ? ――キスしたか?」
「レイジ!」
「ふぅん……そういう反応を見るとまだなんだな。ぶちゅーってやればいいんだよ。こんな風に」
 レイジはセイの唇を盗んだ。ピザまんの味がした。
「れ……レイジ……?」
「いけね。つい……」
「アイラさんにもそんなことを?」
「で、できるわけねぇだろ! こんなことしたらアイラがどんなに怒るか……!」
「じゃあレイジだって人のこと言えないじゃないか」
「わかってねぇな。オレの初恋は……」
 そこでレイジは声のトーンを落とした。
「――おまえなんだよ」
 セイはきょとんとしていた。
 彼らはピザまんを食べ終わると紙ごみを屑籠に捨てた。レイジがくるりと振り返ったその時――彼は目を見開いた。
「よぉ、お二人さん」
 リカルド・フェリーニがやってきてレイジとセイに声をかけた。
「うわぁっ!」
「何だよ……そんなにびくつくことないだろ。――傷つくぜ」
「何でおまえがここにいんだよ!」
「それはどっちかってぇと俺の台詞なんだがな……いつ帰ってきた? レイジ」
「き……今日」
「久しぶりに日本に来たからさ、セイの顔でも見ようと思って家に行ったら、リン子さんに『近くのコンビニにいる』って教えてもらってよ。レイジも一緒にいるっていうから来てみたってわけよ」
「帰れ」
「つめてぇなぁ……」
「おまえにはキララの方が似合ってるよ」
「ああ、キララちゃん。お似合いだと言ってくれるか? 嬉しいねぇ」
「――痛いところがそっくりだぜ」
 レイジがセイに耳打ちした。
「――聞こえてるぞ。レイジ、君はまだガンプラバトルをやめていないんだろ?」
「おう。あんな楽しいこと、やめることなんてできないぜ」
「レイジはね、アリアンでガンプラバトルを紹介してるんだって!」
 セイは興奮しながら言う。リカルドは無精髭の生えた顎を撫でた。
「じゃあ、三代目カワグチ名人と一緒だな」
「ユウキ先輩だね」
 セイの言葉にリカルドがふっと笑った。
「ああ。世界中を飛び回って、ガンプラバトルの面白さを子供達に教えているらしい」
「僕のところにも時々手紙が来ます。ほんと、楽しそうでした」
「今度の世界大会では、俺も君には負けないからな。――カワグチ名人にもな」
「わかりました。いい試合をしましょう」
 リカルドとセイはぐっと握手をした。レイジはそれを複雑な気持ちで眺めていた。レイジはリカルドとベッドを共にしたこともある。レイジは言った。
「俺も――おまえには負けねぇよ」
「望むところだ」
 リカルドが差し出した手をレイジはパシッと叩いた。
「何だよ。つれねぇなぁ……」
「俺はいつまでもおまえと慣れ合う気はねぇの。キララに言いつけてやる」
「俺は男でも女でもいけるクチなんだが……」
 セイがぽかんと口を開けている。
「ほら、セイがわけわかんねぇって顔して見てんぞ」
「――大人の話だからな」
「帰れ。セイが汚れる」
「俺をバイ菌みたいに……」
 リカルドはぶつぶつ言いながらも、
「じゃあな」
 と伊達男の笑いを見せてから、少し冷えてきた夜の空気の中をふらふらと懐手で歩きながら去って行った。
「全く……」
「レイジとリカルドさんて仲いいんだね」
 と、セイ。
「腐れ縁だけどな。それに、今はアイラがいるから……」
「わかってる。今、レイジはアイラさんが好きなんだね」
「おめーが委員長を好きなようにな。委員長だってセイに惚れてるし。おまえ、いい男だもん」
「そんな……レイジだっていい男だよ。――頑張ろうね、お互い」
「ああ。恋も、バトルもな」
 レイジとセイは顔を見合わせてくすっと笑う。収まるところに収まったという感じだ。
「帰ろうぜ。ママさんが待ってる。あ、夜食にもうちょっとピザまん買ってくか。肉まんも」
「レイジ……食べ過ぎじゃ……」
「金なら、ちゃんと持ってきてるぜ」
「そうじゃなくてさ……お腹は大丈夫かってこと」
「大丈夫。こういうのは別腹って言うだろ」
 そう言って、レイジはコンビニに入って行った。セイも後を追ってくる。彼らは夜食の他にお菓子をいくつか買った。
「セイ。おめーのパパはまだ帰ってこねぇのか?」
 リン子によると、セイの父イオリ・タケシも世界中を旅しているという話だ。ガンプラバトル布教の旅に。
「今週末に帰って来るって」
 その日、レイジとセイは夜遅くまでガンプラやアリアンや自分達の近況、そして恋の話に興じた。――朝日が昇るまで。

後書き
まだビルファイ好きだなぁ。
収まるべきところに収まったと思うけど、レイセイも読みたいと思います。
2014.4.13

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