ラフタの恋

「ふー……」
 アタシ、こと、アミダ・アルカにはある懸念がある。
 それは、名瀬の第二夫人、ラフタ・フランクランドのこと。
 あの子は昭弘・アルトランドに心惹かれている。二人の恋模様はまるで幼い子供のように初心だ。
 けれど――名瀬の第一夫人のアタシとしては放っておけない。最終的には二人とも幸せになればいいんだけど。
 ――ラフタも名瀬の物なのだから。

「構わないさぁ」
 そう言って、あの人は笑う。
 名瀬・タービン。テイワズの下部組織、タービンズのリーダー。アタシ達の恩人よ。
 彼は沢山の女性を救った。しっかり手は出してるようだけどね。
 まぁ、名瀬はいい男だから仕方がない。
 タービンズはいつも危機に晒されている。名瀬はそれをアタシ達から護ってくれているのよ。
「俺にとってラフタは娘みたいなもんさ。娘がいい男と結ばれて幸せになって欲しいと願うのは当たり前と言うもんだろ?」
 アタシは驚いたね。
 確かに、ラフタは幼いところもある。けれど、成熟した考えも持っていると思ってたのに――。
 名瀬にとってみれば、ラフタも娘同然か。
 私はくすっと笑ってしまった。
 逞しい体を有する昭弘。実は強い男に支配されたがっているラフタ。二人の恋を私達は見届けよう。
 けれど、昭弘は優しいからね。ラフタに惹かれても、名瀬に遠慮するかもしれない。名瀬はそんなこと気にしないのに。
 ラフタが名瀬について来たのは、彼が父親に見えたのかもしれない。
 アタシが名瀬のハーレムの子供達のお母さんなら、名瀬はお父さんね。
 ラフタが昭弘と結ばれても、それはそれでいいのかもしれない。何となく、そんな気がする。
 でも、名瀬。アタシは離れないからね。
 あの、傭兵としてアンタに会った時から――。
 アタシのお腹の傷に口づけた名瀬。あの頃から、アタシはアタシを誇るようになったの。確かに、もう子供を産める状態ではなくなってしまったけど――。
 アタシも人のことは言えない。アタシは名瀬について行く雛鳥。
 けれど、全力を賭して貴方を護るわ。
「でも、ラフタが昭弘のところへ行ったら、寂しくない?」
「そりゃね。愛娘を嫁に出す父親の気持ちさ」
 アタシは吹き出した。
「何だい?」
 ――ラフタにとっては名瀬は父親で、恋人で……。
 まぁ、ライバルが減ってアタシは嬉しいんだけど。
「ねぇ、名瀬――抱いてくれる?」
 アタシは濡れた目の名瀬を覗き込む。
「……ベッドへ行くか?」
「今はいいわ。それどころじゃないしね」
「――そうだな」
 名瀬は生の酒を啜り込む。目の前の垂れ目ではあるがいい男の名瀬の鼻筋に、アタシはキスをした。
 こうやって愛情を確かめ合う方が、アタシには向いている。ベッドの中で何かするよりも。年かねぇ。アタシも。
「――年かねぇ」
 名瀬が呟いたので、アタシは吃驚した。
「何……?」
「いや、さ。お前を抱いているよりも、こうやって同じ時間を共有する方が遥かに楽しいな、と思ってさ」
「……アタシも同じこと考えてたのさ。テレパシーでも通じてんじゃない? アタシ達」
「――だな。でも、まだまだ欲望はしっかりあるぜ」
 名瀬はアタシの唇に唇を合わせ、酒を流し込んだ。アタシはそれを甘露の如く味わった。

「ラフタ……」
「あ、姐さん……」
「ちょっと話、いいかしら」
「なぁに?」
「今、タービンズがかつてない危機に晒されているのは知ってるわよね」
「勿論。三日月もあんなだし……」
「あなた、昭弘に惚れてるの?」
「――え?」
 ラフタの頬がぽっと朱に染まった。
「あなたのダーリンは名瀬じゃなくて?」
 つい問い詰める口調になってしまったが、別に責めている訳ではない。
 昭弘は立派な――漢だ。
 そして、そんな昭弘に惚れるラフタも、いい女だ。
 だから、お似合いだと思うんだけど――ラフタはまごまごしている。若いわね。まだまだ。
 アタシ? アタシはもう、若いとは言えないわね……。年増と言われても文句は言えない。
「ご、ごめんなさい!」
「――何で謝るの?」
 正直、鼻白んだ。
「あたし、自分の心がわからないの。今まではダーリンが一番だったけど今は――」
 昭弘が一番て訳ね。
 ――アタシはそう思ったが、口に出すような野暮な真似はしない。
「……ダーリン、何か言ってた?」
「そうね……」
 これくらいなら言ってもいいだろう。
「恋を見つけたラフタには、幸せになって欲しいって」
「こ……ここここ恋って……あ、昭弘に対するあたしの感情はそんなんじゃ……あるかもしれないけど……」
 アタシの大きなイヤリングが揺れた。
「ダーリンはさ、別段あたしでなくてもいいのよね。ダーリンには姐さんがいるから」
「……そうね」
「昭弘も、こんな戦時下じゃなきゃ結構モテると思うんだけど……贔屓目かなぁ」
 それはよくわかる。相手は昭弘じゃないけど、アタシにとっては名瀬が一番である。惚れた欲目と言うヤツね。
「最初は……暑苦しいと思ってたけど……嫌なヤツじゃないし、その……結構かっこいいし――」
「はいはい、わかったよ。――自分から話振っといて遮るのもあれだけど」
「あ、姐さんは悪くありません。あたしだって、自分で呆れてるんですから」
「アンタの男を見る目は信じてるよ。名瀬に惚れた女だからね」
「う……ダーリン……」
 ラフタはきゅっと軽く拳を握ったまま黙ってしまった。
 ――そのまま数秒。ラフタが口を開いた。
「ダーリンには、姐さんがいるから――。姐さんにはあたし、敵わないから……」
「それでも諦めなかったのがラフタじゃない。――本気で昭弘に恋してるのね」
 ラフタは考えるような素振りを見せ、こくんと頷いた。
「わからないでもないわ。アタシが名瀬を好きなように、アンタは昭弘が好きなのね」
 ラフタは首を縦に振った。
「――彼と寝たい?」
 ラフタは再び首を縦に振る。そして、慌てたように続けた。
「で、でもっ、昭弘が嫌なら強制はしない。こっちが勝手に惚れてるだけだし。――姐さん」
「何だい?」
「このことまだ――昭弘には内緒にしてくれる? 姐さんと話したおかげで……ちょっと自分の心がわかったから。昭弘には後で、自分から話す……」
「――ん」
「それから、ダーリンのこと、宜しく」
 アタシは、勿論よ、と言って自分の胸をどんと叩いた。ラフタはいい恋をしたわ。だって、可愛くなったもの。勿論、名瀬だっていい男だけど。

後書き
『鉄血のオルフェンズ』のラフタとアミダ。名瀬も良く書けたと思います。
先週書いた作品です。テレビアニメ版を参考に。
昨日の展開は涙ものでした。名瀬~! アミダ~!
ラフタは昭弘にぎゅーっとしてやってください(笑)。
2017.1.23

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