ハンガリーとプロイセン

「やい。ハンガリー、オレと付き合え」
「付き合えって……どこに行くんだ? 連れションか?」
「違う! 付き合うって言ったら、オトコとオンナの付き合いだよ!」
 そう言ったプロイセンの頬が、ぽっと赤くなったような気がした。
 場所は草むら。そよそよと風が吹いている。辺りには大木が何本か生えているところもあって、告白には絶好のロケーションだ。
 でも、まさか、そんな……。
「オレとおまえは、男同士だぞ!」
 ハンガリーが反論する。
「いいや。おまえは女だね。ちんちんねぇし、胸だってあるし」
「ち……ちんちんはそのうち生えてくんだよ」
「男なら、ちんちんは生まれたときからついてるんだぜ。それに――ハンガリー胸大きくなったろ」
 図星だった。
 確かに胸部の二つのメロンは、唯一の悩みと言っていいくらい、日増しに大きくなっているのだ。
「オトコとオンナってのは、付き合うもんなんだぜ! おまえみたいな野蛮なヤツでも、嫁にもらってやってもいいから」
「オレは――オレは男だ! プロイセンの馬鹿野郎ッ!」
 おい!と言うプロイセンの制止も聞かず、ハンガリーはその場をダッシュで離れた。
 そして、木漏れ日が光る大木の根かたに、ハンガリーはいた。
「ちくしょう――胸がどきどきしてやがる」
 ハンガリーは長い髪の一房を指で弄んだ。
「プロイセンの……馬鹿」

 数十年後――
「あーっ!」
「ど、どうしたのですか? ハンガリー」
 ベンチの隣に座っていたオーストリアは、びっくりしたようにこちらを見た。
「な、何でもないの」
(あいつ――確かプロイセンて言ったわね)
 今、思い出した。
 幼ななじみで、よく遊んでいた彼。
 そして、多分、初恋の相手。
(告白のとき、私がどきどきしたように、プロイセンもどきどきしたのかな――)
 でも、今の自分には、オーストリアがいる。
(今まで名前忘れててごめんね。プロイセン……)
 このことは、誰にも――オーストリアにも言わない、ささやかな恋の秘密。

 その頃プロイセンは――

――呪いに走っていた。

後書き
プロイセン、ハンガリーに思い出してもらって良かったね。
プロイセンはもっといい男なんだー!という方、ごめんなさい。私のイメージですので。
呪いに走ったプロイセン、プロイセンと言うより、ノロイセンね。
でも、彼にはヴェスト(ドイツ)がいるからいいじゃん!
2009.6.22


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