赤司様のプロポーズ
赤司征十郎の家は都内の一戸建てだ。しかも広い。こんな深い森のような庭園が都内に存在してるなんて知らなかった。
オレが圧倒されていると、
「行こう、光樹」
と呼ばれた。赤司のオッドアイがオレを射抜く。
まるで決闘に来たみたいだな――とオレは思う。
「坊ちゃま!」
髭を生やした執事が赤司とオレとを出迎えた。
「じい」
赤司は簡単に言った。
じい、か。もしかして、子供の頃から育ててもらった恩があるとか……。
「じい。こちら、降旗光樹。僕のフィアンセだ」
フィアンセ……。
ぶっ倒れそうになるのを我慢した。
じいと呼ばれた執事も驚きで目を丸くしていた。
「父上に取り次いでくれないか」
「は、はいっ!」
赤司のじいやは奥へと駆けて行った。
「行こうか。光樹」
「はぁ……」
オレは気を取り直して赤司の後へとついて行った。
それにしても――大きい家だ。天井にはシャンデリアなんてものもある。こんな豪華な玄関、映画やホテルでしか見たことねぇや。
ここは田園調布かハリウッドか。
すっかりおのぼりさん気分で見回していると――。
「光樹、どうした?」
「え? 見惚れてしまって……」
「びっくりすることはない。いずれお前の家になる」
そんな勝手に決められても困るんですけど……。
「帰ったか。征十郎」
「父上もご健勝の様子何よりです」
これが親子の会話か?! 何かオレ、場違いな気がするんだけど……。
「その男が降旗光樹か」
赤司父の台詞に、オレは目を回しながら、
「は、はい~」
と答えた。
「征十郎。目が高いな」
「父上も気に入りましたか」
「お追従を簡単に言わないところが気に入った。入れ。征十郎。降旗君、君もだ」
「はい……」
オレはすごすごとついて行った。
メイドが紅茶を持ってきた。ティーバッグではない。ブランド物のポットに入った本物の高級な紅茶だ。
「どうぞ。ただいまお菓子もお持ちします」
「うむ」
赤司父が頷いた。
オレは委縮しながらも紅茶を口に入れた。――旨い。
「ダージリンだ。光樹の口に合えばいいのだが」
口に合うなんてもんじゃない! こんな旨い紅茶を飲んだことは初めてだ!
「お……美味しい、です……」
「そうか」
赤司が嬉しい顔をした。オレが紅茶を気に入ったのがそんなに嬉しいのだろうか。
ちょっと……オレも嬉しいかも。
「しかし――お前が恋人を連れてくるなんてなぁ……初めてのことだよ」
「そうですね」と、赤司。
「いつもいつもバスケに夢中で、バスケに息子を取られた気がしたんだが、なかなか隅におけないな」
「どうも」
「まさか男を連れてくるとは思わなかったが。これも運命というものだろうな」
赤司の父だけのことはある。何となく普通じゃない。
「あ、あの、征十郎さんはこの家を継ぐんでしょう? その婚約者が男など――」
「優秀な男子を養子として跡取りとするといい。赤司家の男は決して敗北してはならぬ。それさえ守れば婚約者が男だろうと構わん」
「はぁ……」
オレは力なく返事をした。
「だが降旗君。君が男なのが少し惜しい」
あんなことを言いながら、やっぱ男はダメなんじゃねぇか。
「父上。光樹に何か不満でも?」
そうだよ。赤司。人呼んどいて不満を聞かされるのかよ。
「いや。降旗君が女だったら、さぞかし可愛い赤子が生まれるのではないかと……」
そういう意味?! ちょっとずれているんじゃ……。
「父上の気持ち、わかります。けれど、僕には光樹しかいないんです。光樹が女でも、僕は恋に落ちたことでしょう」
「そうか……降旗君、愚息がお世話になります」
「は、はぁ……」
ここははっきり断るべきなんだろうな……。
「あの、オレは……!」
「光樹に渡したいものがある。いつ渡そうかと思って今回の東京行きでは肌身離さず持っていたのだが」
逃げ帰ろうとするオレを赤司が引き留めた。
「婚約指輪だ。光樹、結婚してくれ」
そして、紺色の小箱の中からダイヤモンドの指輪を取り出した。
いろいろ許容量の限界を超えたオレは――意識を失った。
気がついたら和室だった。
布団に寝かしてもらってたのか……。
「ここは……?」
「あ、起きたか? 光樹。ここは我が家の離れだよ」
オレに気付いた赤司が言った。
あ、赤司和服じゃん。よく似合う。
「赤司、浴衣なんだね」
「ああ。光樹の分もあるが……」
「別にいらないっす!」
「そうか……浴衣は脱がせやすいと聞くから、是非一度試したかったんだけどね……」
「んなこと試さないでください!」
「冗談だよ。――結婚するまでお互い操は守ろう」
う……だから勝手に決めんなよ! 確かにオレには彼女作る甲斐性はないかもしんないけどさぁ……。
彼女ができたら赤司に見捨てられるだろうか……。
一瞬、ちょっと目の前が真っ暗になった。
「どうした? 光樹」
「いや、別に……」
言えない。赤司には。赤司に嫌われたら、と思うだけでショックを受けたなんて。自分のそんな想像だけで……。なんつーか、その方がショックだ。
オレ……もしかして赤司に惚れてるんだろうか。
オレが女だったら良かったのかな。でも、オレ、男でいて不都合感じたことねぇし。――赤司のことがなければ。
「光樹、僕と結婚するのは嫌か?」
「いや、オレ達男同士だし……」
「障害はそれだけか?」
「いや、まぁ……」
「父上も皆もわかってくれている。心配はいらない。男同士でも問題ないくらい光樹が僕のことを好きになってくれれば……」
「それ、ムリ」
オレは即答した。赤司は怒るかと思ったら笑い出した。
「僕は待ってるよ。光樹がオレを受け入れてくれるまで」
オレは――ちょっと赤司の綺麗な笑顔に見惚れてしまった。赤司には内緒だが。
「後、洛山に来てくれたら、僕としては嬉しいんだけれど」
「それもムリっす」
「わかってる。無理強いはしないよ。――試合では容赦しないからね」
赤司の金色の左目が光った。つくづく、敵に回すと厄介な男に魅入られてしまったな、とオレは思った。
後書き
赤降三部作、これにて終了~。
今年の夏当時はオレ司のことがよくわからなかったので、敢えてボク司にしました。そんな私はコミックス派。
2014.12.9
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