ポーランドのポ

 空気の美味しい草原に寝転ぶと、青い匂いがする。
 植物の葉を摘みそれを食むポーランドは、リトアニアに見られていることについても構わなかった。
「ねぇ、ポー」
「なぁに? リト」
「ポーってさ……本当に最初の最初、偉そうに『遠方より大儀であった』……云々なんて言ってた頃と、キャラ違うよね」
「あー、そうだっけ?」
「まぁ、その後『ちんこ見せろし!』と言ったのは、ポーらしかったけどね」
「テンパってたんよー。あの時は知らん奴だったし。それに、リトってほんとにちんこあるのかわからんかったし。女顔だし」
「もう! ひどいよ! 俺だって立派な男です!」
 リトアニアはそう言って、ポーランドに背を向ける。
「リトー。マジ悪かったし」
「いいよ、もう」
「良くないし」
 それでも、リトアニアは顔を背けたままだ。
「ああ、そうそう。いい話教えてやるし。あの時なんか難しい言葉ばっか言ってたのは、子供達向けの劇のセリフだったし」
「へぇ、そうなんだ」
 興味を持ったらしいリトアニアが、ごろんとポーランドの方に向き直った。
「でも、代役だったからセリフとかわかんなかったし。ちょっとは覚えたけど、後すぐに忘れたし」
「ポーらしいね」
 リトアニアは、思わずくすっと笑った。
「だからー、『ちんこ見せろし!』と言ったら、男子には大ウケだったんよ。女子にはヒナンゴーゴーだったけど」
「なんか、目に浮かぶようだね」
 リトアニアの気分は、すっかり治ったようだった。
 もともと、いつものやり取りで、そんなに怒っていたわけではなく、気を損ねたように見せかけたのだって本気ではないと、ポーランドにはわかっていたのだが。
「でも、ポーだって中性的な顔してるじゃない。女装したら似会うよ、きっと」
「うん。俺マジで美しいし。女子高生のかっこやったらぴったりだと思うわけー。マジでどうよ?」
「いいんじゃない? 俺は別に見たいとは思わないけど」
 リトアニアが引きつった笑顔で言った。
「そうなん? マジでマジでー? 俺、きっとキレイだよ。興味ないの?」
「悪いけど……」
「話ふってきたのはリトの方なんだけど」
「ごめんごめん」
「まぁいいけど」
 ポーランドが二ヨ二ヨしている。
「俺、今度女のカッコしてエラい人々の前に出よっかな」
 ノリノリなポーランドに、リトアニアは「やめた方がいいんじゃない」と言った。
「その時は、リトを俺の恋人って紹介するし」
「それだけは本当にやめて! 頼むから!」
「冗談だし」
「なんだ……」
 リトアニアはほっとしたようだった。
 彼に好きな人がいるのは、ポーランドも知っている。
(ベラルーシだっけか……怖そうなのに、よくまぁ惚れたもんだし。美人には違いないけど。つーか、リトって、女のシュミ、ヤバくね?)
 ポーランドはそう考えた。意外と女を見る目はある。
「でも、俺はリトのこと、好きだし」
「はいはい。わかったよ」
 リトアニアが苦笑している。
「リトと会う時、すっげー怖かったんよ。知らん人だし。恐ろしいヤツだったらどうしようかって。今は、リトと仲良くなれてすっげー嬉しいし」
 だから、とポーランドは言った。
「これからも友達だし」
「そんなの……当たり前じゃない」
 リトアニアは苦笑から、控え目に微笑む表情に変わった。
「だから、友情の証として……ちんこ見せろし!」
「え……?!」
 リトアニアが目を瞠った。
「や……やだなぁ、ポーったら」
「これはマジだし」
「い、いやだよ、そんな……」
「恥ずかしがらなくっていいし。俺はリト相手なら大丈夫だし」
「俺が大丈夫じゃない!」
 リトアニアは本当に嫌がっている様子だった。
 ポーランドが起き上がる。
「ほらー。下脱ぐだけだし」
「い、いやだーーーー!!!」
 リトアニアも急いで立ち上って、ポーランドから離れようとする。
「あ、ちょっと待てー。逃げなくってもいいしー」
「やだーーーー!!」
「俺のも見せるしー!!」
「もっとやだーーー!!」
 初夏の快晴の空の下、リトアニアとポーランド、二人の声が草原にこだました。
「別にとって食おうとしてるわけじゃないしー」
「だから、俺はやなんだー!!」
 しかし、こんな追いかけっこもポーランドには楽しい。
 何故なら、リトアニアは友達だから。

「今日も平和じゃのぉ」
「ほんにのぉ」
「あのポーランドは、リトアニアにはすっかり心開いておるようじゃのぉ」
 さっきまで鍬をふるっていたお爺さん達は、彼らの様子を見て楽しげに呟く。
「友達のいることはいいことじゃ」
「ポーランドは、引っ込み思案じゃからのぉ。ああ見えて」

 リトアニアとポーランドは、日が暮れるまで走っていた。
「あー。いい運動だったし」
「もう……ポーのせいで足ガタガタだよー」
「何なん? リト、年寄りくさいし」
「誰のおかげだと思ってるの? ほんとにもう」
「わかった。ちんこは後で見せ合いっこ。すでに決定事項だし」
「勝手に決めないでよ……」
「お、もうこんな時間だし。今日は帰ろうっと」
「またね」
「うん。明日、また来るし」
 リトアニアは時々迷惑そうにするけれど、ポーランドのことは嫌いではないらしい。ポーランドがリトアニアに親愛の情を抱いているのと同じく。
(やっぱりリトは親友だし)
 ポーランドはこっそり思った。やっぱりリトは好きだ。
 嫌がるリトアニアが見たくて、ちんこ見せろしなんて迫ったけれど。それは大した問題ではない。
「リトー! 聞いてるー?」
 ポーランドが大きな声で叫んだ。
「俺、リトと遊んでいる時が一番楽しいしー!」
 遠くから、
「俺もだよー!」
 という声が聞こえてきた。

後書き
またリトアニア関連話。主にポー視点ですが。
ポーランドといるリトアニアがロシアといる時よりのびのびしているように見えるのは気のせいでしょうか……。
ちんこという単語が結構出てるのは……ポーのせいです(笑)。
2010.5.31
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