バツイチ子持ちを落とす方法

 カリ―ナ・ライルは友人につきあって本屋に行った。
 その時、目に飛び込んできた本のタイトルは――
『バツイチ子持ちを落とす100の方法』
 カリ―ナはどきっとした。今彼女が想いを寄せている相手もバツイチ子持ちだからだ。
 友人にばれないようにそっと本に手を伸ばす。だが――
(だめよ、私。今は勉強に励まないと)
 カリ―ナは成績は中の上だ。大学へは進学するつもりだ。
 しかし、いくらアメリカの大学が日本よりも入学するのが簡単だと言っても、勉強はしなければならない。
 それに、アメリカの大学は卒業するのが難しいのだ。
 こんな本、読んでいる場合ではないわよね……!
 そう思いながらも手が伸びて行く。
(ちょっとだけよ、ちょっとだけ……!)
 カリ―ナは本を手に取り、ぱらぱらとめくる。
『前の奥さんの子供もちゃんと可愛いがること』
 そんな見出しが踊っている。
 前の奥さんの子供……楓ちゃんのことだよね。楓ちゃんは可愛いから、何とかなるかもしれない。
 ――って、何考えてんのかしら、私。
 タイガ―と結婚する気なんて……そりゃ、ちょっとは考えたことあるけど……。
 こんな本、高校生が読む本じゃないわよね……。
「行くよー。カリ―ナ」
 友人が言う。
「わかったわ」
 カリ―ナは本を元の場所に戻した。
 あれから一年か――タイガ―は何しているのかしら。
 オリエンタルタウンに帰ったんだよね、確か。
 寂しい、な。
 また会いたい。会って声が聞きたい。
 でも、我慢しなきゃ。私にはヒーローという仕事があるのだから。
 それを気付かせてくれたのも、あの人だった。
 決してかっこよくはないけれど、ワイルドタイガ―こと鏑木虎徹は、すっかりカリ―ナの心に住んでしまっていた。
 父と母に言ったら怒られるだろうか――でも、好きなものは仕様がない。
 ヒーロー業についても、歌手活動についても、両親は応援してくれている。
 勉強もがんばらないと。両親に悪い。
「待ってよ―」
 カリ―ナは、友人達と一緒に本屋を出て行った。
「ブルーローズってかっこいいよね」
 友達の一人が言う。
「え? 何? いきなり」
「本屋でも話してたんじゃん。ブルーローズのこと。まぁ、あんたは本に夢中だったみたいだけど」
 そう言って、相手はにやっと笑った。
「あ……私は……別に……」
「隠さなくっていいから。カリ―ナの恋の相手って、バツイチ子持ちなの?」
「…………うん」
 子供の頃からの友人なのだ。隠しだてしたって仕方がない。
「うーん……カリ―ナが惚れるくらいなんだから、さぞかしかっこいい人なんだろうなぁ」
 かっこよくないわよ。センスは最悪だし。
 カリ―ナは心の中で呟いた。
 けれど、優しくていつも皆の幸せを考えてくれている。見た目だって――まぁいい方だし。
「でさー、ブルーローズのことだけど」
 話が戻る。
「な、何?」
 実はヒーローの《ブルーローズ》として活躍しているカリ―ナであった。正体は家族と仲間以外には明かしていないが。
「カリ―ナって、ブルーローズに似ていない?」
「え?」
 カリ―ナは焦った。
 こういう時、何と答えたらいいだろう。
「もう少し胸があればねぇ……ブルーローズそのものなんだけど」
 何よ、胸、胸って……どうせ偽物の巨乳よ。
 カリ―ナは何だか泣きたくなった。
「ブルーローズの新曲いい感じよね。今度歌ってくれる? カリ―ナ」
「もちろん!」
 今泣いたカラスがもう笑った。
 友人がブルーローズのファンで本当に嬉しいとカリ―ナは思った。
 友人と別れた後、カリ―ナはいつものトレーニングルームで運動に励んでいた。
「真面目だな。ローズ」
 ロックバイソンことアントニオ・ロペスがカリ―ナに声をかけた。
「まぁね。一生懸命やりたいから」
「虎徹から連絡は?」
「全然なしよ。なしのつぶて」
 カリ―ナは少し怒ったように言った。
 こっちから手紙でも出せばいいんだろうけど、何となく恥ずかしいし、そんな時間もない。カリ―ナは多忙なのだ。
 それに……手紙を書くにしたって、何を書けばいいのかわからない。
「おまえ――まだ虎徹のことが好きなのか?」
「放っておいてよ。関係ないでしょ」
「言っとくけど、虎徹は難しいぞ。ライバルだっているしな」
 自分探しの旅に出ると言った元KOHのバーナビー・ブルックス・Jr。虎徹に淡い恋心を抱いているらしいドラゴンキッドことホァン・パオリン。
 ライバルはいっぱいいる。でもわざわざ指摘しなくてもいいじゃない、と思う。
「私、ロックバイソンに恋していれば良かったなぁ」
「何でだよ」
「――アンタだったらライバル少ないから楽だろうと思ったのよ!」
 カリ―ナはいつもの毒舌を吐く。
「あらぁ、随分じゃない」
 ファイヤーエンブレムことネイサン・シーモアがやってきた。
「ロックバイソンには、あ・た・し、という存在がいるんですからね」
「いや……俺は……」
「冗談よ、ネイサン。悪かったわ」
「俺には謝罪の言葉もなしかよ!」
「さ、もう帰ろうっと」
「あ、俺も」
 カリ―ナはトレーニングルームを出て行った。ネイサンを振り切るように、アントニオもトレーニングルームを後にした。
「何でついてくるのよ」
 カリ―ナはアントニオに対してつんけんした態度を取った。
「話があってな――俺、おまえのこと応援してんだぜ、これでも」
「そうは見えなかったけど」
「ほんとだって。おまえはちょっと年は若いけど、しっかりしているし、楓とも仲が良いし。――後は虎徹次第だな。あいつとは長い付き合いだけど、妙に不可解なところがあるからな。でも、おまえら似会いだと思うぜ。ま、がんばれよ」
 そう言って、アント二オは笑った。
「――私、やっぱりアンタに恋していればよかったわ」
「ライバルがいないから、か?」
「だってアンタ、優しいもん」
 カリ―ナは呟くように口にして、駆けて行った。今の台詞はアントニオにも聞こえたに違いない。だって、
「虎徹は幸せ者だな」
 という声が背中に聞こえたから。
 私、もう絶対諦めない。いつかタイガ―を落としてやるんだから。
 だって私は――そう私は、タイガ―が好きなのだもの。
(虎徹……)
 カリ―ナは心密かにワイルドタイガ―のことを名前で呼んだ。

後書き
虎青薔薇もいいなと思いつつも、「虎は兎のもの!」という変なこだわりが私にはあります。
これからどうなることやら。
2012.2.7

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