オリオンをなぞる5

※捏造設定と性格悪いモブが出て来ます。お気をつけください。

 あれはいつのことだったろうか。
 僕はいつものバーで、マスターの作った新作カクテルを味わっていた。かなりの自信作らしく、僕の舌にも合っていた。
「見て見て。バーナビー様よ」
「いつ見ても素敵ねぇ」
 そんなざわめきにもいい加減慣れっこになる。ヒーローになって十ヶ月以上経った。この調子だと、一年なんてもうすぐだ。
 ジェイク・マルティネスが亡くなり、僕は心の重荷を下ろしたような気分になっていた。
 そして――バディである虎徹さんとの仲も良好だった。
「あちらのお客様からです」
 赤いカクテル。ブラッディマリー? 誰だろう?
 僕は『あちらのお客様』の方を見た。
 ひらひらと手を振っている男がいた。どこか虎徹さんに似ている――そんな気がした。
 彼は自分が僕に見られているとわかると、僕の方に近づき、
「初めまして」と挨拶した。
「ご用件は?」
 と僕が訊くと、男は、
「俺は藤宮圭人。ジャーナリストだ。宜しく」
 と手を差し出した。拒む理由がないので、僕はその男と握手を交わした。
「バーナビー・ブルックス・Jrさんですね」
 僕の名前をフルネームで呼んだ。尤も、これは珍しいことではない。
 僕はヒーローとしては唯一、本名を名乗っている男だ。ある目的の為である。
 そう、両親の復讐の為。
 しかし、ジェイクが亡くなった今、復讐する必要もなくなった。そう思っていた。
 タイガ―&バーナビー……世間では、僕だけでなく、ワイルドタイガー――虎徹さんも再び注目を浴びるようになっていた。
 虎徹さんは素顔を晒さないのがヒーローの主義だとか言って、普段はアイパッチをしている。
 勿体ない。虎徹さんは可愛いのに。
 けれど、彼の尊敬するレジェンドを真似ているのなら仕方ない。そういうことには口を出さないようにしている。
 苦労もいっぱいあるが、僕は虎徹さんと組んで良かったと思っていた。
「ここにはよく来るのかい?」
 声まで虎徹さんに似ていた。
「ええ」と、僕は答えた。
「調子はどうだい」
 絶好調です、と答えたかったが、調子に乗っていると思われるのも嫌なので、
「まぁまぁですね」
 とお茶を濁しておいた。
「ワイルドタイガ―とは上手く行ってるようだね」
「ええ――彼のサポートがありますから」
「そうだな……あいつもちょっと前までは崖っぷちヒーローなんて馬鹿にされてたがな」
 僕は何と言っていいかわからなかった。
「ワイルドさんにしてみりゃ、バーナビー様々だろうよ」
 藤宮の言葉に、僕はちょっとムッとした。まるで僕が虎徹さんに恩を着せているようではないか。
 虎徹さんに助けられたのは僕だと言うのに。
「テレビでタイガ―と互いに持ち上げてただろ。気持ち悪いったらなかったね。コンビ愛なんてオブラードに包んでもらってたけど、ほんとはおまえらデキてるんじゃないか?」
「デキてるって?」
「おまえら、ホモなんじゃねぇかって話だよ」
「失敬する」
「まぁ待て、バニ―ちゃん」
「僕はバーナビーです」
 バニ―……虎徹さん以外にそう呼ばれるのは嫌だ。虎徹さんにさえ、ちゃんとバーナビーと呼んで欲しいのに。
 もう、これ以上この男とは話したくない。立ち上がりかけた時だった。
「なぁ、バニ―ちゃん。最近のタイガ―、変じゃないか?」
「変って?」
「能力が暴走してるような気がするんだよ。かと思うと、五分以内に能力が切れたりして」
 それは――僕も感じていた。
 けれど、それは能力がアップしたおかげだと思っていたので、気にも留めなかった。
「タイガ―……能力減退してるんだよ」
「何ですって?!」
 僕はさぞかし驚いていたに違いない。
「いるんだよ。能力減退するNEXTが。確かにパワーは一時的にアップする。でも――その後は……力が徐々に弱まってしまうのさ」
「そんな……虎徹さんが」
「おまえ、一緒にいてわからなかったのかよ」
 迂闊だった。僕は――虎徹さんを頼りにしていたから。
「なぁ……アンタ、ほんとにタイガ―とは何にもないのかい?」
 藤宮は僕の手に自分の手を重ねた。僕は振り払いたいのを我慢した。
「僕達はそんな関係じゃありません」
 それは、そうなれば嬉しくないこともないけど――何を考えているんだ、僕は!
 僕が辛抱したのは、知りたいことがあったからだ。
「もしタイガ―さんが能力減退しているとして――それを防ぐ方法はないんですか」
「あったら苦労しねぇよぉ。つか、俺は一介のジャーナリストだ」
「つまり治らないと」
「そこまでは知らねぇよ。だけどさぁ――興味あんだよね。お宅らに」
 藤宮は舌なめずりをした。
「タイガ―にも、タイガ―の友人にも会う予定なんだけどさ」
「つまりはタイガ―さんに根ほり葉ほり訊くと」
「いやぁ、個人的に興味あんだよ。NEXTの能力ってヤツに。水を向ければ単純なヤツのことだ。こっちも夢にも思わなかったことをぺらぺらと喋ってくれるさ。それよりも――」
 藤宮の手が僕の手を撫でた。
「どうだ? あんな役立たずのオヤジなんかの相手なんかやめて俺と――」
 僕の怒りは頂点に達した。
「失礼する!」
 そう怒鳴って席を立った。今度こそ藤宮の汚ない手を振り払って。
 藤宮は、騒がせ賃をテーブルに叩きつけ、立ち去ろうとする僕の背中に向けて言った。
「バーナビ―。――あんまり鏑木虎徹を信じない方がいいぜ」
 どうして藤宮が虎徹さんのフルネームを知っていたのかはわからない。ただ、ひどく不愉快だった。
 虎徹さんがいれば、あんな男に好き勝手言わせないのに――。
 虎徹さん――。
 僕は苦しくて苦しくて、どうしていいかわからなかった。
 その後――。僕の両親を殺した犯人は他にいる。クリームからそう聞かされ僕の記憶は混乱した。
 スケート場で虎徹さんがヒーローを辞める話を家族としていた時、僕は偶然その場にいた。
 ショックだった。虎徹さんを信じていたのに。裏切られたと思った。
 結局、虎徹さんも僕から離れて行くんだ。僕の恋心を知ってるのなら、尚更質が悪い。
 ひどい言葉を投げつけた。僕は、虎徹さんにビンタされた。
 無意識のうちにやってしまったのだろう。虎徹さんは済まなそうにしていた。だけど、あの時の僕は、虎徹さんが何を言っても反発するしかしなかっただろう。
 誰を信じたらいいかわからない。虎徹さんはいたずらに僕の心を弄んだだけだった。その時はそう思っていた。
 藤宮の言う通りだった。鏑木虎徹は信じるに値しない男だ。
 僕は打ちひしがれながら、マ―ベリックさんのところへ行った。彼ならば、僕の過去を知っているから――。
 だが、それは間違いだった。
 サマンサおばさんのおかげで、僕は真実を知ることができた。
 けれど――手遅れだった。
 マ―ベリックが犯人だと知った時、心に浮かんだのは、両親と――それから虎徹さんのことだった。
 ごめんなさい。虎徹さん。貴方を信じることが出来なくて――。信じ抜くことができなくて……。せっかく、お揃いのピンズ買ってくれたのに……。
 意識を手放す瞬間、そんな考えが脳裏を過ぎった。

後書き
いい加減捏造設定ですねぇ。原作の伏線も無視してますし。
乱筆乱文失礼します。
2011.12.28

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