オリオンをなぞる3 ※捏造設定ものです。それでもいいという方、どうぞ。 最近、虎徹さんの様子が変だ。 何と言うか、能力が時間より早く切れるようになってきたみたいなのだ。 僕も最初は気にしていなかった。迂闊にも、僕を立ててくれているのだと思っていたのだ。 こんな話を聞いたことがある――NEXT能力者の能力は、減退することがあるということを。そしてまた、虎徹さんもそうだと――。 「見ろよ、バニ―」 僕の名前はバーナビーだが、そんなことはもう気にすることもなくなっていた。 「シュテルンビルトは相変わらず美しいねぇ」 「虎徹さん……」 「シュテルンビルトの平和はおまえの双肩にかかっているぞ」 虎徹さんがふうっと息を吐いた。 それより、僕には訊きたいことがあった。それがどんなに訊きづらいことであったとしても。 ここは丘の上で誰も通らない。ダブルチェイサーはそこに止めておいた。 「虎徹さん。もしかしたら能力が減退しているんじゃないですか?」 「ん、誰から聞いた?」 やはり否定しなかった。 「誰でもいいでしょう。それに、一緒にいるんだからわかりますよ。……能力がなくなったらどうなるんですか?」 「さぁな。俺にもわからん。だが、ヒーロー辞めることになるかもしんねぇわなぁ……」 虎徹さんは何でもないことのように言う。 「何故ですか!」 「だって、バニ―ちゃんの足引っ張る訳にいかねぇし……」 「何故ですか! 虎徹さんがヒーロー辞めるんだったら僕も辞めます!」 「ガキみたいなこと言うなよ、バニ―」 虎徹さんは、大人の余裕で答えた。 「おまえ、いつか言ってたよな。『シュテルンビルトの市民の平和を守る』と」 と、虎徹さんは言う。 「そのシュテルンビルトの市民の中には虎徹さんも入っているんです!」 それに……それに……。 「虎徹さんがいなかったら、僕もヒーローをやってる意味がなくなります」 「何でだよ」 「虎徹さんが、僕を変えてくれたんです。闇の中から、陽の当たる場所へと。虎徹さんは僕の恩人なんです」 「恩人つわれてもなぁ……」 虎徹さんは頬をぽりぽり掻いた。 「能力がなくなったら、その分僕がカバーしますから、辞めないでください」 「でも、それだとバニ―ちゃんの足を引っ張る……んっ!」 僕は喋る虎徹さんの口をキスで塞いだ。 ようやく少し満足すると、僕は虎徹さんの唇から唇を離した。 「バニ―ちゃん……」 「好きです、虎徹さん」 僕は性急だったかもしれない。虎徹さんの弱味につけこんだだけかもしれない。けれど、気持ちを伝えるのは今だと思ったから……。 「愛してます」 「バニ―ちゃん……?」 虎徹さんは目を見開いている。そんな様子も可愛い。 「僕は、今は虎徹さんの為にヒーローをやっているんです」 「シュテルンビルトの市民はどうすんだよ」 「他にもヒーローはいるでしょう。それに、さっき言ったでしょう。貴方もシュテルンビルトの市民だと」 虎徹さんの為にヒーローをやっている。そう。それが僕の本心。 貴方のおかげで、僕は変われた。 貴方のおかげで、仲間とのコミュニケーションをとれるようになった。 毎日が充実していた。この十ヶ月間。 最初は両親の復讐の為に戦っていたけれど、今は虎徹さんに見て欲しくて戦っている。 ブルーローズ(結構可愛い)が彼に惚れるのもわかる気がする。 けれど、僕も虎徹さんが好きだ。その思いは誰にも負けない。 「バニ―ちゃん、おまえが感じているのは愛とは違う。小さな子供が友達に対して恋愛感情と友情をごっちゃに感じているのと同じだ」 「僕が子供だと言いたいんですか?」 「そうだよ。俺からすればね。でも……ありがとう」 虎徹さんは照れ笑いをした。 それから急に表情を引き締めて、遠くを見遣った。 「レジェンドは……孤独だったんだな」 何故そこでレジェンドの名前が出て来るのかわからなかったが、僕は頷いた。 「ヒーローは孤独だよ……」 それは僕もわかる。虎徹さんがいなければ、僕はもっと孤独に耽溺していたことだろう。……その仮定は僕を慄然とさせる。 「――虎徹さん」 僕はサイドカーに座っている彼に声をかけた。 「――っと、わりぃ。ぼーっとしてた。……ほら」 虎徹さんは拳を差し出した。彼のしたいことがわかったので、僕も相手の拳に拳を合わせた。そして、拳を離した。 「レジェンドには、こんな風に拳の握手をする相手がいなかったんだ……いや、俺はしたことあるが」 「何をですか?」 「――拳の握手だよ。俺が子供の頃、NEXTの能力のせいで気味悪がられていた俺に『これからは君もヒーローだ』って言ってくれて……あの時のレジェンドは、本当に……本当に……」 虎徹さんの言葉がどもる。涙声になっていた。そして鼻を啜る。 「本当に優しくてかっこいい、ヒーローだったんだよ」 ああ、この人は、本当にレジェンドが好きなんだ……。何故泣いているのか僕には知る由もないけれど。 「あの人だって人間だ。悩みも苦しみもしただろうな……俺はレジェンドに憧れてヒーローになったというのに、彼のことを何にもわかっちゃいなかったんだ」 そして彼の家族のことも……と、虎徹さんは呟くように言った。 虎徹さんがこんな風にレジェンドのことを話すのは初めてだった。 「でも、俺にはバニ―ちゃんがいるから」 「あ……」 僕は大したことはしていない。いつも虎徹さんに支えられている。 僕は、虎徹さんが好きなだけなのに。 諦めないでください、虎徹さん。僕が全力でサポートしますから。斉藤さんという優秀なスタッフもいることだし。 一人で抱え込まないでください。 たとえ能力を失ってNEXTではなくなっても――貴方は僕の最高のヒーローです。 「僕は虎徹さんに助けられました。だから、今度は僕が虎徹さんを助ける番です」 「お、言うようになったじゃねぇの」 虎徹さんはいつもより覇気がないものの、少し口角を上げて笑ってみせた。 「大丈夫だよ……まだな」 「ヒーロー、辞めないでくださいね」 「ああ。俺だって辞めたかないさ」 「その言葉、信じますよ」 「ああ」 虎徹さんは頷いた。 「俺もバニ―ちゃんを信じる」 虎徹さんが言うと重みが違う。僕は一気に嬉しくなった。 「最強のタッグになりましょうね。もう、誰も敵わないほどの」 「能力落ちてもか――ま、できる限り頑張るよ。バニ―ちゃんの負担にならないようにな」 虎徹さんは敢えて、さっきキスされたことにはもう言及しないつもりらしかった。ものの弾みだろうと思っているのかもしれない。けれど、僕は本気だ。 虎徹さんへの思いは一生大事にする。たとえどんなことがあっても。 虎徹さんは僕が護ってみせる。虎の持つ優しさと気高い魂ごと。 彼を一人にはさせない。 夜の道にダブルチェイサーを走らせる。僕と、虎徹さんを乗せて。 オリオンが空に、輝く。 後書き アニメを途中までしか観ていないうちに書いた捏造ものです。ほとんど別物。 だって、こっちではリアルタイム放映しないんだもん。もっぱらアニマックスで観てるのさ。 この続きも書きたいなぁ……。 2011.11.18 |