オリオンをなぞる 「ねぇ、バニーちゃん。今日、二人で湾岸流さない?」 ワイルドタイガーこと、虎徹・T・鏑木は、相棒のバーナビー・ブルックス・Jrに声をかけた。 理由なんて特にない。ただ、思いついただけ。 どうせ相手は、「いい年なんですから、無駄な遊びなんかに体力は使わない方がいいですよ。おじさん」とけんつく食らわすだろうと思っていたが――。 「いいですよ」 「へ?」 見ると、バーナビーは優しく笑っている。口元も綻び、目元も柔らかい。そうやって見ると、あどけない外見になった。 「シャワー浴びてからでいいですよね。虎徹さん先に浴びました?」 「ああ、俺はもう……」 「じゃ、後で」 バーナビーはすたすたと目的地へ向かった。 (可愛いなぁ……) 虎徹はバーナビーに対して思った。 しかも、何気に名前呼びだったりする。 しかし、この『可愛い』には何らの他意も含まれてはいない。 強いていえば、娘の楓が「パパ」と呼んだ時以来の感動だ。 虎徹にとっては、楓もバーナビーも、かけがえのない、守るべき存在であることに違いはなかった。 それは、父親としての愛だ。 虎徹は鼻歌を歌いながら、肩にタオルをぶら下げ、ロッカールームへ直行した。 どうも。お楽しみは後にとっておく方、バーナビーです。 僕は何で虎徹さんとドライブに行く約束をしてしまったのでしょう。自分で自分がわかりません。 笑って誤魔化したりはしましたけど。 強いていえば、僕は虎徹さんに心を開いているみたいです。 あの正義の壊し屋、ワイルドタイガーに。普段はただのおじさんですけど。 虎徹さんはいつも一生懸命です。 クールにかっこよくきめるのが信条の僕にとっては、虎徹さんはいささか熱過ぎるんですけど。 あんなに自分の生き方に対して誠実であろうとする男を僕は初めて見ました。 今まで両親の復讐しか頭になかった僕ですが、虎徹さんはかなり心を許せる人となりました。 そうだな……ドライブくらいは付き合っても構わない、と思えるぐらいには。 僕はシャワーで汗を流すと、着替えて虎徹さんに言った。 「じゃ、行きましょうか」 「おう」 僕は、このドライブをかなり楽しみにしていたのだな、と自分に呆れた。 まぁいいでしょう。どうせ帰っても一人なんだし。 サイドカーに乗って、湾岸沿いの道を走る。 僕達は風になる。 ヒーローが事故を起こしたらシャレにならないけれど、虎徹さんが楽しそうだから、まぁいいかと思ってしまう。 夜だった。 シュテルンビルトの夜の街は美しい。まるで宝石箱をひっくり返したような――陳腐な形容でしたね。 僕達は、サイドカーを泊めて、不夜城を見下ろした。 自分の部屋から一人で見るのとでは、格段の差がある。 「綺麗だな」 「ええ」 僕は目を細める。 「虎徹さん」 「あん?」 「今日僕を誘ったのは何でですか?」 「意味なんてない」 ――どうせそういう人ですよ、貴方は。 少しでも期待した僕が馬鹿でした。 「ま、コンビだからよ。少しは遊んでもいいんではないかって」 「虎徹さんは遊んでばかりですけど」 「そうかい? お前さんが真面目過ぎるんだと思うよ。俺は。だから、たまーにゃガス抜きも必要かなって」 虎徹さんはへらりと笑った。 どこまで人たらしなんでしょうね、この人は。 僕の気持ちも知らないで。 あまり考えると不愉快になって来そうなので、僕は再びシュテルンビルトに目を遣った。 「あれは何ですか?」 「――ビルだな」 僕は思わずくすっと笑ってしまった。 「――何だよ」 「以前のことを思い出してたんです。『ビル的なものは全部ビル』なるほどと思いました――あれは何ですか」 「だからビルだって……ええっ?!」 「どうしたんです? 虎徹さん」 「あれは……レジェンドだな」 見ると、世界最初のNEXTでヒーローのレジェンドが、街道のテレビジョンに映っていた。 レジェンドの特集らしく、彼の活躍が報じられている。 「レジェンド……」 虎徹さんは憧れの目を向けている。その目が僕に向かないのがちょっと悔しい。 「お好きなんですか? レジェンド」 「おう。俺が子供の頃会ったんだ。俺がヒーローになろうと思ったのも、レジェンドがきっかけだったよ。なっつかしーなー」 「いいですね」 「俺も、レジェンドみたいなヒーローになりたいと、憧れてたよ」 「貴方は貴方でしょう」 「まぁな」 「羨ましいですね。――僕には、憧れとか、そういうのないですから」 「お前さんは、むしろ憧れられる側だろ。女子供にきゃあきゃあ言われてさ」 「今のうちだけですよ」 「ああ、そうそう。娘がお前のファンなんだ」 「え?」 「楓がさ――おまえのことかっこいいって。――楓助けてくれて、ありがとな」 僕は、スケート場で女の子を助けたことがある。その子は虎徹さんに似てた。 あれが虎徹さんの娘だったのか……。 「楓ちゃん、可愛いですよね」 「おう。可愛いぞ。世界一可愛い」 親馬鹿……。 「でも、お前にはやらんもんね」 ――父親というのは、概してそんなものなんだろうか……。 「わかりました。で?」 「で? てのは?」 「貴方は僕のファンにはなってくれないのですか?」 もちろん冗談だ。虎徹さんもあっはっはと笑い飛ばした。 「この年で若僧のファンになるかよ」 「ですよね」 僕も内心苦笑した。 「でも、この街は俺達が守っているんだな。そう思うと、愛しく感じられるな。実際この街は美しい。治安が悪いとは思えないぐらいだ」 「ええ」 「どうする? このまんま朝までだべってるか?」 そうですね、と言った僕の顔は、マスコミ用の顔よりいい表情だったと思う。 後書き 彼らは一体どこにいるのでしょう……(笑)。 これが、私の初タイバニ小説です。原作と少し違っても、捏造だと笑い飛ばしてください。 2011.8.20 |