折紙の恋 はぁ……。 スカイハイさんは今日もかっこいいなぁ……。 どうしてあんな人がいるんだろう。黄金の太陽のような髪、高く伸びた背。逞しく引き締まった体。 「お・は・よ」 「って、うわああああ! ファイヤーエンブレムさん!」 「何よぉ。化けモン見たような顔して」 「似たようなもんだろ」 ロックバイソンさんがすかさず茶々を入れる。 「ロックバイソンがお相手してくれるなら、アタシ、化けモンでもいいわよ」 「断る。俺にだって相手を選ぶ権利ぐらいあるだろ」 「あらー。ご挨拶ねぇ」 この二人、朝から元気だなぁ……。 僕の口から、また溜息が洩れた。 「どうしたの、折紙」 「んもー、ネイサンてば、鈍過ぎ! それでもみんなの『おネイサン』なの?」 ブルーローズさんまで加わった。ますますやかましくなりそうな予感……。はぁ……。 「冗談よぉ」 ファイヤーエンブレムさんがしなを作る。 「ずばり、恋してるでしょ、折紙」 「ええっ! 何でわかったでござるか?!」 僕はつい折紙サイクロンの時の忍者口調で答えてしまった。 「わかるわよぉ、スカイハイを見つめる熱っぽ~い目。ありゃ尋常ではないわ」 ブルーローズさんも参戦してくる。どうして僕を放っておいてくれないんだろう。 そりゃ、恋の話と来れば、年頃の女の子(ファイヤーエンブレムさんは男だけど)は興味津々かもしれないけど……。 僕は構って欲しくない。 スカイハイさんへのこの想いは、僕の心の中でだけ留めておきたいのに……。 ブルーローズさんや、ファイヤーエンブレムさんにだって、気安く触れて欲しくない。 なのに、なのに……。 「やぁ、おはよう、諸君」 スカイハイさんは今日も爽やかだ。 「あ、スカイハイ。――ほら、折紙、言うことあるでしょ」 ブルーローズさんが肩をつんつんと突く。全くもう。 「あ、おは、おはようございます……」 「折紙くん! 今日も気持ちのいい朝だね」 「ええ、まぁ……」 「季節も変わり目だね」 「ええ、まぁ……」 「ああっ! もう! いらいらするわね! アンタ達!」 「そうよ! さっさと告っちゃいなさいよ!」 「ブルーローズ、アンタもよ。人の色恋沙汰につきあう暇があったらね」 「あら、ファイヤーエンブレムだって……」 「アタシは隠してないわよ。ロックバイソンに対する燃えるような乙女心」 「そのまま燃え尽きて灰になってしまえ」 ロックバイソンさんは辛辣な一言をファイヤーエンブレムさんに投げた。 「あらあ、一緒に灰になってくれないの~」 「悪いがそこまでボランティア精神に富んではいないのでな。俺は」 「告る……?」 スカイハイさんがわかりかねたように首を傾げる。 タイミングズレてますよ! スカイハイさん! そんなところがいいんですけど! ドラゴンキッドがやってきた。 「なになに? 何の話?」 「あー、今ね。折紙が――」 「わーっ! わーっ!」 僕は慌ててブルーローズさんを遮った。 「何よぉ。まだ何も話してないじゃない」 「でも、僕、心の準備が……」 「告る……? ああ、そうか、わかった!」 スカイハイさんがぽんと手を叩く。 「君はドラゴンキッド君が好きなんだね?」 「え?」 「お似合いだよ、君達。私も君達の恋を応援するよ。素敵だ、そして素敵だ」 「え……?」 「じゃあ、がんばりりたまえ。ははははは」 スカイハイさ~ん。そんなぁ……。 スカイハイさんはトレーニングに戻って行った。 「折紙さん。きみ、ぼくのこと好きなの?」 ああ、違うんだよ、キッド……君が嫌いなわけではないけど、あくまで友達としての『好き』だし……。 スカイハイさんを見ている時みたいな高揚感はないわけで――。 「すごい鈍さ……」 「がんばれ」 同情するように、僕の肩に複数の手が置かれた。 「でもねぇ、ここだけの話、スカイハイ、失恋したらしいわよ」 声を低めてブルーローズさんが言った。 「ええっ?!」 僕は大きな声を上げた。スカイハイさんは腹筋運動を続けている。 「だって――本人に聞いたもの。その人、どっかにいなくなっちゃったんだって。でも、また新しい希望に生きるってさ。健気だよね、彼も」 「というより、ありゃ図太いんじゃなーい?」 ファイヤーエンブレムさんが腰をくねらせる。 「おまえと同じだな」 ロックバイソンさんがツッコミを入れる。 「やだぁ、アタシ、こう見えてもデリケートなハートの持ち主なのよ」 「バリケードか?」 「まぁ、冗談キツ~イ」 ファイヤーエンブレムさんはロックバイソンさんが絡んでくるのが嬉しいらしい。 この二人のやり取りを聞いていると、夫婦漫才のようだ……ロックバイソンさんは嫌がりそうだけど。 でも、スカイハイさんを袖にする女性がいるなんて! 何か、そっちの方がショックだ……僕なら絶対喜んでスカイハイさんの恋人にしていただくのに! 何て……世の中は不公平なんだろう。 スカイハイさんはどんな女性が好みなんだろう。間違っても、男ではないよね……。 僕なんか、スカイハイさんの眼中にはないんだろうな……。 ……落ち込んできた……。 「よぉ、どうした。みんなで固まって」 「何の御相談ですか?」 「ワイルドタイガ―さん、バーナビーさん……」 僕は泣きそうになるのを抑えた。 「折紙の恋をみんなで応援してたとこ」 「折紙の? そんな奴いたっけ?」 タイガ―さんは悪い人ではないんだけど、やっぱり鈍い。 「やだー。スカイハイのことよー」 ファイヤーエンブレムさん、大声で言わないでください……。 ちなみにスカイハイさんはシャドウボクシングに夢中で聞いてはいないようだった。 あれだけ没我の境地に入りこめるなんて、スカイハイさんはやっぱりすごい。尊敬しそう。 「スカイハイ、ねぇ……」 理解できん、という顔でタイガ―さんは言った。確かにそうだろうと思う。 「折紙先輩、がんばってくださいね」 バーナビーさんが励ましてくれた。 「参考までに訊いておきたいんだけど、ハンサム、アンタ、好きな人に好きって言える?」 ファイヤーエンブレムさんの無茶ぶりに、 「ええ。言えます」 バーナビーさんはにっこりと微笑んだ。 「じゃ、実践してみてよ」 「いいですよ。――好きです、虎徹さん」 全員が思わずその場で固まった。スカイハイさんの足音だけが聴こえる。 「やだなー、バニ―ちゃん。今そんな冗談言わなくてもー」 「へ?」 「『好きです』なんて、そういうセリフはファンの為に――もっと言うと、彼女の為に残しておくものなんだぜ」 タイガ―さんは大声で笑う。 もしかして……タイガ―さんもバーナビーさんの気持ちに気付いていない? 「よーし! 一汗流すか」 タイガ―さんは鼻歌交じりで、珍しくではあるがトレーニングを始める。いつもだと僕達の話題に食いついてくるのに。 呪縛が解けた僕達は一斉に憐れみの目を向けた。可哀想なバーナビーさんに。 彼はまだ呆然としたままだった。 「あたしは同情しないからね」 ブルーローズさんだけがツンと高い鼻を上向かせた。 (僕より気の毒な人がいた――) 相手はヒーローだけど普段は普通のおじさ――もとい、中年男性で、バーナビーさんみたいな完璧なハンサムがあれだけアピールしても靡かないなんて――。 僕は失礼かと思いながらも、バーナビーさんのようでなくて本当に良かったとそっと神様に感謝した。 後書き 折紙よりもバーナビーが気の毒。 そして、これからスカイハイは折紙に対していらんお節介焼きそうです。彼は折紙がドラゴンキッドを好きだと思ってるでしょうからねぇ……。 2012.4.10 |