ヘタリア独伊小説『俺の恋人』
「ルートー。抱いてー」
「わかったわかった」
そう言って、ルートは俺を抱き締める。
「そうじゃなくて……」
「そうじゃなくて?」
「その……」
ああ。そこまで言わせるんだ。ルートは……。
「もしかして、そういう意味か?」
俺はこっくりと頷いた。頬は紅潮していたに違いない。
「でも……俺達は男同士だぞ」
「男同士でもいいじゃん! 俺、ルートのことが好きだ! 愛してる!」
いつの間にか涙が滲んだ。
「でも……やっぱりそういうのは……」
「ヴェ……ルートは俺のこと好きじゃないんだ……」
愛してくれていると思っていたのは俺の気のせいだったろうか。
違うよね。ルート。ルートヴィヒ……。
「その……すまん」
謝らないで! 俺の気持ちに応えてくれる気がないなら。
「ルートの馬鹿ー!!」
「あ、フェリシアーノ!」
ルートが止めるのも聞かずに、俺は駆け出した。
最初は……神聖ローマに似ていたから、気になっていた。
そう。あの子が大きくなっていたら、こんな感じかと。
神聖ローマはいつの間にかいなくなったけど、ルートは、あの子に似ていた。
でも……いつの間にかルート自身のことを好きになっていた。
ごめんね、神聖ローマ。
君のことを想い出にする気はないけれど――。
ルートは、神聖ローマの生まれ変わりかもしれない、と思うことがあるんだ。
人間に生まれ変わりがあるように、国にも生まれ変わりがあるとしたら――。
「ヴェ……」
いくら親しいからと言って、ルートに迫ったのは行き過ぎだったかな……。
でも、ルートはっきりしないんだもん。俺、焦れちゃうよ。
ルートは俺の恋人だよね。
そう言ってくれたよね。去年のクリスマスの日に。
何だか日本やアルフレッドやアーサー達と騒いでいたことは覚えているけれど。
ヴェ……今年は二人きりで祝いたいな。クリスマスを。
季節外れもいいとこだけど。
それに……恋人と思っているのは俺だけだったりして。
……やっぱり戻ろう。
その時だった。ルートがこちらに駆けて来る。
「ルート!」
「フェリシアーノ!」
ルートがぎゅっと抱き締めてくれた。ルートの体温。ルートの匂い。
「この馬鹿! 探したんだぞ!」
「ごめん……ルート……」
抱いてくれなくていい。傍にいさせてくれれば。
「ごめんね。変なこと頼んで」
「俺には『謝るな』と言ったくせに、おまえは謝るんだな」
ルートが頭を撫でてくれた。
「俺もその……愛してる。でも、初めては大事にしたいから」
「ええっ?! ルートって童貞だったの?!」
「人のことが言えるか」
今度は頭をこつんと、ぐーで小突いた。
神聖ローマとルートが重なった。
でも……それは神聖ローマに対する冒涜のような気がした。
「あのね、俺、神聖ローマのこと、まだ忘れられない」
「だから、俺に抱いてと言ったのか」
「そうじゃないけど……」
俺は俯いた。こんな話、ルートは面白くないよね。神聖ローマの話なんて、ルートにとっては面白くないよね。
「ヴェ……」
「泣くな。おまえは笑ってる方が似合う」
ルートにそう言われると、嬉しくてこそばゆくて、つい笑ってしまった。
「神聖ローマに負けない男になるからな」
ルートが小声でそう言ったのを耳にしたのは、俺だけの秘密。
BACK/HOME