俺は黒子に恋してる

俺と黒子はいつものハンバーガー店で向かい合っていた。っつーか、いっつもいつの間にか黒子がいるんだよな。
黒子はバニラシェイクを啜っている。
「おまえ……よく飽きねぇな。そのバニラシェイク」
「火神君こそ。よく飽きませんね、ハンバーガー。そんなにたくさん」
こいつ……言い返してきたよ。かげ薄いくせに。
「ほっとけよ。アメリカではこれが普通なんだよ。それにしてもおまえ、よっぽどここのバニラシェイク好きなんだな」
「ええ。でも火神君のことも好きです」
さらっと言ってのけた黒子に俺はどきん、と胸が高鳴った。
俺はバニラシェイクと同等なのか?!それは嬉しいんだかなんだかわかんねぇぞ!
だって……俺も黒子のことが好きだし。
それなのにバニラシェイクごときと同じなんてちょっと悲しいぞ。
黒子は色素の薄い瞳でじっとこちらを見ている。
んなに見つめるなって。どうしたらいいかわかんねぇぞ……。
「よく食べますねぇ」
「うっせぇな。育ち盛りなんだよ」
俺はぶっきらぼうに答えてしまった。
今日もバスケの練習で腹へってるんだよ。
俺はバスケが好きだ。黒子が好きというのとは別の次元だけど……って、俺も黒子のこととやかく言えねぇな。
「なあ、黒子」
「何ですか?」
「おまえが俺を好きというのは、バニラシェイクを好きだというのとは別なんだよな?」
「当たり前でしょう」
そうだよな。よく考えてみればそれが普通だよな。
「俺のことは友達として好きなんだよな」
「…………」
黒子は黙ってしまった。
なんだ?この沈黙。
早く「はい」って言えよ。でないと勘違いしてしまうだろ。……少しは脈ありかなって期待してしまうだろ。
思えば何でこんな男に恋しちまったんだろう。
男同士だから堂々と恋人同士になるわけにもいかない。アメリカではゲイでも大手を振るって歩いているイメージがあるかもしんねぇけど、ピューリタンの流れもあるから結構厳しいんだよな。
まあ、黒子に会うまでは同性愛なんて俺には無縁だ、と考えていたんだけどな。
黒子といるだけで体の中が甘い風で満たされる。
そんなことを考えながらハンバーガーを食ってたんで、ハンバーガーの山はたちまちのうちになくなった。
「早いですね。もう食べ終わったのですか」「ああ」
おまえはそのバニラシェイクをまだ飲み終わっていないのかよ、とツッコみたくなった時、
「ごちそうさま」
と、黒子が言った。
このままでは黒子が行ってしまう。そうだ。
「黒子。久しぶりにコートに行ってみないか?」
俺が誘うと黒子が感情のよくわからない目を向けた。
「……いいですね」
よっしゃ!やった!
黒子もバスケが好きだもんな。俺達が出会ったのもバスケ部でだったし。
こういってはなんだが、火神大我といえば期待のルーキー。つまり、俺のことだ。
対する黒子は……。
黒子テツヤ。こいつは影だ(こいつのフルネームを聞くと黒柳徹子を思い出す)。自分でも影だって宣言してたしな。でも、今は影以上のものに育とうとしている。それが何なのか、今は俺にはわからないけれど。
黒子は俺を光と認めてくれた。
実はこいつはすごい奴なんだ。シュートもダメ、ドリブルもヘタ。強さが何も匂わねぇ。初めて対戦した時のこいつはそんな具合だった。
でも、影の薄さを利用して敵をカクランさせる絶妙なパス回しは天下一品。
そんなこんなで行動を共にしているうち……俺は黒子を頼もしい相棒と思うようになっていった。
勿論、こいつに利用されていることには薄々気がついていた。だから……俺はこいつを頼ってばかりじゃいけない。それも自分で気付いた……いや、気付かされたことだ。
俺も黒子も高一だ。まだまだ伸びしろはある。
まあ、でも犬を近付けるのもやめてほしいけどな。しかも名前はテツヤ2号。
大人しくて人懐こい犬でも犬にはちがいない。俺は犬は大の苦手ときている。何故だかは言いたくない。
でも2号は黒子に懐いていて、そのくっつき具合に羨ましさを感じることがある。2号は黒子に似てるもんな。
「火神君も2号に慣れてください」
と黒子は言うけれど俺にだって無理なことがあるんだよ。たとえ黒子の頼みでもだ。
しかし、今は2号はいない。おもいっきりバスケに集中できる。
「黒子。1対1やるか?」
「そうですね」
黒子は……強くなっていた。
油断していたらボールを取られた。ドリブルのスピードも速くなっている。もちろん、俺も負けずに取り返したけどな。
黒子め……初めて1対1やった時はシュートもドリブルも素人に毛が生えた程度だったくせに。シュートを決める回数が増えたじゃねぇか。こいつ、俺の見えないところで特訓でもやってたのか?
こいつはうかうかしてらんねぇな。っつーかわくわくするぜ!
俺は得意のダンクを決めた。――終わった後、黒子が言った。
「やはり火神君はすごいですね。……火神君のダンク、好きです」
こいつ……俺のダンクが好きなのか?俺自身のことはどうなんだ?
黒子の俺に対する気持ちを確かめたくて……俺は屈んで黒子に顔を近付ける。
「黒子……好きだ」
そしておれは黒子にキスをした。
「……汗くさいです」
迷惑そうな台詞とは裏腹に、黒子は初めて超高級パンを食べた時のような幸せそうな表情を見せた。
「でも、こういう強引なところも火神君らしくて好きです」
強引で悪かったな。
けれど、今は俺も満足だった。
「……帰るか」
「そうですね」
俺達はそれ以上何も話さなかったが、たくさんしゃべくったような錯覚を覚えた。
いつまでもずっとこうしていたい。
けれど気になることがある。『キセキの世代』と黒子との関係はどうだったんだろう。
……いずれもっと理解できる日も来るのだろうか。今、一緒に並んで歩いている黒子テツヤのことを。
日本に帰ってきて良かった。黒子と出会えたもんな。
「日本のバスケなんてどこも同じようなもん」
誠凜高校に入った時、俺はどうしてああいう傲慢なことを言えたのだろうか。『キセキの世代』を知らなかったくせに……黒子を知らなかったくせに。

後書き
黒バスにハマって間もない頃、どうしてもパッションが抑えきれなくて書いた作品。
当時は火黒が好きだったんだよなぁ……といっても、たった数ヶ月前のことだけど。
勿論、今でも火黒は好きです。そりゃ、高緑(緑高?)に移行しましたけどね(笑)。
小説内の文章は今と表記がちょっと違います。
2013.7.29

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