黒バス小説『おまえの応援のおかげで』

 WCも無事終わった。優勝は、ダークホースだと思われていた誠凛高校バスケ部だった。
 できたばっかの学校なのに、すげぇや。
 ――がんばった黒子もすげぇや。
 さてと、帰るべ。
 人影ががさっと動いた。
「もっちー?」
 ――そいつはもっちー……持田ではなかった。ガングロで背の高いヤツ、確か青峰だったかな。月バスに載ってたから後で読み返してみよう。
「シゲ」
 そいつは言った。オレも言い返す。
「何だよ」
「お前、偉かったぞ」
 ――え?
 キセキの世代で、あの試合以外ではろくに面識もなかった青峰、何を言い出すんだ?
「お前の応援のおかげで、誠凛は勝てたんだ」
「え? でもちょっと待って? お前だって誠凛応援しただろ」
 オレの声援に呼応して、ヤツは立ち上がって誠凛にエールを送った。
「でも――きっかけはお前だ」
 そうか。青峰も黒子のバスケを――誠凛のバスケを認めたんだ。
 ははっ。嬉しくって涙が出そうだぜ。
 良かったな。黒子。キセキの世代はお前を認めたぞ。
「オレは――黒子を信じただけだ!」
 そう、オレは叫ぶ。
「普通、そんなことできねぇよ!」
 青峰も返す。
「あ、いたいた。荻原っち~」
「げっ、黄瀬」
「へっへっへ。お久しぶり。荻原っちにどうしてもお礼とお詫びを言いたくてさ」
「お礼とお詫び?」
「うん。――あの時、誠凛を応援してくれてあんがとね。それから――中学時代はごめん」
「いや、あの……」
 今更言われたって、戸惑うんだけど……。
「黄瀬。お前もう帰れ。シゲが困ってる」
「いや。困ってるわけじゃないんだけど――へへっ、何か、嬉しいな」
 オレは鼻の下を掻いた。
「黄瀬。黒子は来ないのか?」
「うん。ヒーローインタビュー受けてんじゃないかな」
 来月の月バスには載るはずだ。絶対買うぞ!
「やあ、これで少し気が楽になったよ」
「そうだな。――やっぱダチの応援って、すげぇな」
 黄瀬と青峰の目が――普通に戻ってる。
 冷たかった目が、温かさを取り戻している。
 それはきっと、黒子のおかげ――。
「ボクは影だ」
 そう言っていた黒子。その黒子が、影となって誠凛を支え、キセキの世代を支えた。黒子――お前のバスケは届いてる。キセキのヤツらの心の凍った部分を溶かしてしまった。
「あ、黒子っちに会わない? 荻原っち」
「荻原っちって……」
「ああ、黄瀬はな、自分の認めたヤツには『~っち』をつけるんだよ」
 青峰が教えてくれた。ちっとも嬉しくないんですけど……。
 だから、にやけたのはきっと気のせいで。
 何だか心がうきうきしてきたから、
「ありがとう!」
 と全開の笑顔で答えた。
「黄瀬、他のヤツらはどうした? 笠松とか」
「オレ、ちょっとぬけてきたっす。後で笠松センパイにしばかれるのは必至っすね!」
 青峰に爽やかな笑顔で返す黄瀬。どうなんだよ、それって――。
「でもさ、来年は海常が勝つよ」
「ばーか。来年の優勝は桐皇だ! なんせオレがいるからな」
 わー。やっぱ青峰ってオレ様だったのか。
「まぁ、だから――ありがとな。シゲ。黒子もお前に勇気づけられたと思う」
「……そっか」
 また、バスケをしたいと思ったのはこんな時。
 オレ、またバスケしたくなってきたな。黒子と――火神というヤツとも。
 それに、キセキの世代とも。まだ、敵う相手じゃねぇけどさ。
「何かおごるか? シゲ」
 こいつも、悪いヤツじゃなかったんだな。
「いろいろ話もしてぇしよ」
「そんなこと言って――オレに散財させる気っスね!」
 黄瀬が青峰に噛み付いた。
「いーだろ。デルモで稼いでんだから」
「オレ、バスケに青春かけてんだから。モデルは思ったより儲からないっスよ」
「最終的にはバスケプレーヤーになんだな?」
「――そうだといいっスけどね」
 黄瀬が、ちょっと寂しそうに見えたのは気のせいか。
 こいつも大変だな。本格的にやらなければならないとすれば、どちらかを選ばなければならない。
 あ、でも、バラエティーに出てくるスポーツ選手なんていっぱいいるじゃん。黄瀬もバスケとデルモの二足の草鞋を履くのかな。
 ――おごってくれるっていうのも気持ちだけもらっとくか。
「おーい、シゲー」
「あ、もっちーだ」
「よう。シゲのダチか?」
「はい。持田と言います。青峰さん」
「さんはいらねーよ。ついでに敬語もな」
 と、青峰。
「そっか――」
「持田とか言ったな。お前らの中学のバスケ部のヤツら、どうしてる?」
「様々だよ。バスケ続けてるヤツもいれば、辞めたヤツもいる」
「そっか……辞めたヤツらに言っといてくれ。オレ達、バカなことしてごめんなって――」
「わかった」
 もっちーが微笑んでいる。
「もっちー……笑ってる?」
「ああ。キセキのヤツらが意外といいヤツだと知ってね」
「失礼だな。オレらだって鬼じゃねんだよ」
「でも、青峰っちは『人一人殺めてそう』なんて言われてたっスよね」
 うーん。あの迫力じゃなぁ……。中学時代対戦した時、ちょっと怖かったもんな。
「オレはほんとは優しいの! ――たく、認めてくれねぇんだから」
「そんなこと言って……他校の生徒と揉めたりしないで欲しいっスよ。ショーゴ君みたいに」
「え? お前、何故わかった?」
「え?」
 ――そろそろ潮時だな。
「バイバイ。青峰、黄瀬」
「帰んのか? シゲ」
「うん。WC終わったら帰るって親に言っておいたし」
「またな。今度こそどっかで何か食おうぜ。黄瀬に金出してもらってな」
「さよならっス、荻原っち」
 ――黒子のところには今は顔を出さないで帰る。再会はもう果たしたし。いずれ、改めて胸を張ってあいつの前に出られるように。

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