フランシス兄さんの密かな苦悩

途中に行為のシーンがあります。
ぬるいので15禁です。
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「いい加減しつっこいんだよっ! 何かあれば味音痴だと抜かしやがって!」
「本当のことじゃないか! 君の作る料理は不味いんだぞ! 文句を言わず平らげる俺に感謝して欲しいんだぞ!」
 だーっ!! うるさいうるさいうるさい!!
 大体何でお兄さん家で痴話喧嘩始めるわけ? このアーサー坊っちゃんとアルフレッドは!
 人の迷惑考えないわけ? 騒擾罪で訴えちゃうよ? こう見えてもお兄さん怒ると怖いんだよ?
 ――なんて俺が考えていることも知らずアーサー達はぎゃんぎゃん言い合っている。
 はぁ、今度はどんなつまらない原因で喧嘩してんだか。
「あのさ、坊っちゃん――」
「んだよ、フランシス」
 太眉の坊ちゃんは、ぎらりと剣呑に光る目をこっちに向けてきた。元ヤン丸出しだよ……。
「今回はどんなくだらんことで喧嘩してるんだ?」
「くだらんとは何だ、くだらんとは! 俺のこと侮辱したんだぞ!」
 はぁ、どうせつまらないことだろうけど、一応拝聴しますか。
「で、何だい?」
「アルの奴、俺の朝食のレパートリーが悲しいほどに少ないって言うんだぜ!」
「本当のことなんだぞ!」
 アルが怒鳴る。
 はぁ、やっぱりいつものことか……。
「でも、そんなの今に始まったことじゃないじゃないの」
「こんな料理下手な男を嫁にもらうのは俺しかいない、って言ったんだよ」
 はぁ?!
「アル……もしかして坊っちゃんを嫁にする気?」
「構わないだろう? アメリカには同性婚を認めてる州だってあるんだぞ」
「いや、問題はそこではなくてさ」
 同性同士の結婚に眉を顰める者は、二十一世紀の今でも少なくない。まぁ、俺とマシューも男同士のカップルだがな。
「どうなの? 坊っちゃん。アルと結婚する気あるの?」
「う……それは……」
 確か、坊ちゃんの国では同性婚は認められていないんじゃなかったっけ? よく知らないけど。どうでもいいし。
「俺は……俺は……アルと結婚しても構わないと思う……」
「そうなんだ! やっぱり!」
 アルは喜色満面。
「思っているだけだからな! 本当にできるかどうかは別問題だからな!」
「嬉しいよ。これから毎朝、君の不味いブレックファーストが食べられるんだね?!」
「不味いは余計だ」
 アーサーの反論も聞かず、アルは駆けて行ってアーサーをぎゅううっと抱き締めた。
 これ、目に毒だよね。お兄さんも人のこと言えないけど。
 あ~あ、お兄さんにはお兄さんの悩みがあるって言うのに……。
 お兄さんのところに二人して同時に来た時には思わず笑ってしまったが。
 ま、よろしくやってくれ。
 お兄さんはマシューのところへ行くから。
 あ、それから、セックスすんなら、どっか他のホテルでやってくれよ。
 んで、マシューん家……。
「マシュー、マシュー! いい加減開けてくれよぉ!」
 だんだん!と質素な木の扉を叩いた。
「嫌です! 今度こそ許しません!」
 実はお兄さん、百回目の浮気がバレてマシューに閉め出し食らっているところなんだよね……。我ながら情けない。
 いくらマシューが引きずらない性格だとしても、百回ともなれば、怒るの当たり前かな。
 もしマシューが他の男と親しく話してたら、俺だって面白くないもんな。怒って二人とも殴っちゃうかもしれない。
 ね? お兄さん、怒ると怖いでしょ?
 でも、これに関してはお兄さんが全面的に悪い。
 出会った時、マシューはそれはそれは可哀想なほど目立たない子だった。何かおどおどきょろきょろして。
 でも、だんだん自信つけていって、優しく笑って、お兄さんが何をやっても、
「仕方ないですねぇ」
 と、流してくれて。
 もしこれが坊っちゃんだったら百年先までやいのやいの言われそうなことまで。
 だから――俺、マシューには結構ひどいことしている。
 もしかして、もしかして……。
 マシューは俺にとって最高の嫁なのでは?
「う~ん、マシュ~。おまえは俺にとって最高の嫁だ~」
 家の中から声が聞こえなくなった。ドアが開いた。
「――今度だけですからね。今度浮気したら入れてなんかやんないんですから」
 開いていた窓からさっきの台詞が聞こえていたらしい。ちょっと恥ずかしいな……。
「ありがとう! 俺の嫁!」
「マシューでいいですってば!」
 あ~、俺達もラブラブだなぁ。俺はちゅっとリップ音を立ててマシューのおでこにキスしてやった。
「今度だけですからね!」
「わかってるって」
 俺達は家に入った。
 え? この後? やるこたひとつでしょうが。
 二人で部屋に行った後、俺は思い切りよく生まれたままの姿になった。マシューはいつまで経っても恥じらいを忘れないので、お兄さんが脱がしてあげる。ただし、途中まで。
 マシューの古風なところも好ましい。
 俺は雨あられと半裸のマシューにキスの雨を降らせた。
「フランシスさん……」
 マシューの瞳がうるんできた。
「マシュー……ベッド行くか?」
 やることならいっぱいやってる。だけどどんなに経験しても初心な恋人。俺はそんなマシューが大好き。
 お姫様抱っこで恋人をベッドに運ぶ。
「ふ……フランシス……さん」
 マシューの吐息が熱い。
「ジュテ―ム……マシュー」
 ジュテ―ムはフランス語で『愛してる』の意味。
 俺はマシューの残りの衣服を剥いだ。
「ああ、フランシスさん……!」
 前戯をいっぱいした後、俺達はいざ本番へ。
 マシューと愛の行為をするのは考えてみると久しぶりだ。
 俺達は燃えに燃えて、ほとんど同時に達した。
「マシュー……ごめんな」
「何がですか?」
「その……お兄さん、おまえのこと構ってやれなくて」
「わかればいいんですよ」
 マシューはにっこり笑った。
「僕、本当は寂しかったんです。不安だったんです。このままだとフランシスさんに捨てられるんじゃないかと思って」
「まさか! 俺がマシューを捨てるわけないだろう?」
 俺が捨てられることはあってもね――俺はアーサーとのことを苦々しく思った。坊ちゃんには失恋したんだ、俺。
 それなのに――坊ちゃんとは今でもつるんでる。不思議な仲だよね。腐れ縁、とでも言うのかな。
「これからも……時々は遊びに来てください」
「そんなこと言っていいの?! 毎日遊びに来ちゃうよ!」
「構いません。けど、フランシスさんは忙しいんじゃないですか?」
「――浮気したことは謝るから……」
「そうでなくて……フランシスさんも大国でしょう? 忙しいんじゃないですか?」
 忙しい……そう思ったことはなかったなぁ……適当に手を抜いてるから。
「大丈夫。何とかやってるから。お兄さんのこと心配してくれてありがとう。愛してる、マシュー」
「愛してます」
 俺達はその後何回かいたし、心も体もすっかり満足した。
 本当はもっとやっていたかったけど、マシューの、
「帰らなくていいんですか?」
 の一言で家のことを思い出した。
 そうだ! 愛する我が家!
 アルとアーサーはどうしただろう、あの後。
 もしかして情事になだれ込んでいるかもしれない。俺達と同じで。
 帰ってきたら、俺の部屋のベッドはぐちゃぐちゃになっていて、栗の花の匂いがした。
「あいつら……やったな」
 俺は、はぁ、と溜息を洩らした。二人はもういない。どっかのホテルにしけこんでるか、カ―セックスをやってるか。
 俺には関係ないけどさ。あの二人のおかげでマシューと仲直りできたけどさ。
 はぁ……何かみじめ……あいつらの後片付けをするのはよ……。
 とりあえず空気を入れ換える為、窓は開けた。我慢できなかったのもわかるんだけどね。特にアルなんかまだ若いし。
 ああ、今日はロマンチックに浸る気分でいたいのにな。情事の余韻に体を預けながら。
 一気にテンション下がったよ、とほほ……。
 今の俺にはマシューがいるからいいけど、あの子がいなかったら、俺、失恋から立ち直れなかっただろうなぁ。マシューには感謝だよ。
 好きだったぜ。アーサー坊ちゃん。アルと仲良くな。
 それから――ありがとう、坊っちゃん、アル。
 お兄さん、マシューがいるから何とかやっていけるよ。おまえらも幸せにな。
 でも、マシューも無駄に繊細なところあるからなぁ……。
 フランシスお兄さんの密かな苦悩。
 でも、恋に関する苦悩はどこか甘美なものなんだよな。
 あー。それにしてもこの青臭い匂い、何とかなんないかな。どーしよ。

後書き
仏英のつもりで書きました。フランス、美味しい役どころです。ふられるのに変わりはありませんが。
フランスは、アメリカとイギリスの心を知っていて、尚且つ邪魔をする無粋な真似はしないと思うのですが。
2009.12.29

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