ヘタリア二部作 その2

~ギルベルトとエリザベータ~

 くそう、派手にやられたな……。
 あーあ。胸元もこんなにやぶけて……。
 俺も今まで粋がってエリスなんて名乗ってたけど――俺もやっぱり女だったんだなぁ。
 大きくなっていく胸部のメロン。
 どんなに鍛えても筋肉のつかない体。
 エリザベータという本名が女みたいで嫌で、周りにはエリスと呼ばせてたけど……。
 はっ、誰か来る。
 俺は悔し涙の出そうな目元を擦る。
 これはギルの声か?
 ――なんだ、ギルか。
 俺は少しほっとした。
「よっ」
「エリス……」
「幽霊と勘違いしたか? はは……」
「おまえ、その体……」
「マッスルになったろ! あはははは!」
 なんてな。
 ギルはふいっと横を向いた。
 だよな。俺だって男ならそうする。
 全く。こんなに差がつくなんてなぁ。ギル。俺とおまえ。おまえとだったら絶対俺の方が勝ってたのに。
 今は、勝負しても俺が勝てるかどうか自身がない。
 ギルベルト、大人の男の体格になったな。
 どうせなら俺がそうなりたかった……。
 ギルは上着を投げて寄越した。
「それ、やる」
「やるって、おい……」
 ギルは逃げるように去って行った。――下着姿のままで。
 あいつ、かっこいいな……。
 男だからかな。
 男っていいな。あんな間抜けな姿でも様になっている。
 俺、男に生まれたかったな……。
 でも、実際問題として、俺は女なんだからな……。
 こうなったら、女らしい女に生まれ変わって、ギルの奴をびっくりさせてやるか。
 俺は心に誓った。
 それ以来――
「なぁ、女装してねぇで狩り行こうぜ、狩り」
 ギルが誘っても、俺は……いや、私はもう狩りには行かない。
 オーストリアさんと恋人になって、幸せな家庭を築くんだ。
 狩り、と聞いて体が疼くのは止められないけど――。
 それはもう、懐かしい昔の思い出。

~フランシスとマシュー~

「わっ、何ですか? フランシスさん」
 マシューが驚いている。ムリもないと思う。
 俺はそれ程不幸オーラを発散させていたのだから。
「アーサーさんと何かあったんですか?」
「いや、アーサーとはこの頃は何もない」
「それはそれで心配ですけれど――」
 マシューは俺の隣に座った。
「で、どうしたんですか?」
「――葬式に行ってきた。俺の身近なダチだった」
「ああ……」
 それで合点がいったらしい。マシューも悲しそうに眉を寄せた。
「それは辛かったですね……」
「ああ、みんな、俺を置いてこの世界から去っちまうんだ――」
 俺は――本気で落ち込んでいた。
 あいつは子供の頃から知っていた。あいつは大人になって結婚して、俺はあいつの最期を看取った。
『国』って辛いな。そう思うのはこういう時だ。
 俺達は、人間より遥に長い時間、ここで生きている。
 人間で仲良くなった相手がいないわけじゃないけど、みんな死んでいった。
 友達も、一時は恋を語らった相手も、みんな――。
「フランシスさん。元気を出して下さい」
 マシューがそっと、俺を包み込むように抱き締める。ああ、マシュー、いい香りだな。これはメープルシロップか。
「あなたにはアーサーさんもアルフレッドも、そして、頼りないかもしれないけど、この僕もついています」
「そうだな……」
 俺はマシューにぎゅっとしがみつく。
「俺にはマシューがいれば充分だ――」
 マシューの服が俺の涙で濡れる。
「おっと、悪い……服、汚しちまった……」
「いいえ。フランシスさん。泣いても構いませんよ、好きなだけ。それは恥ずかしいことじゃないんですから」
 泣き虫なマシューが、今度は俺を慰めている。
「友達思いのフランシスさんが好きです。僕も同じような経験あるし――」
 そうだ。マシューもカナダという国だった。友達に先立たれるの辛さも知っている。
「優しくて繊細な、そんなフランシスさんが好きです。どうぞたくさん泣いてください。あなたには、僕がいます」
 ああ、マシュー、強くなったな。
 マシューがいるから、俺も立ち直れる。
 俺はメープルシロップの匂いのするマシューの体をかき抱いた。

後書き
今回は全然違う短編を無理に一緒にしてみました(笑)。
自分を男だと思って暴れてた頃のエリザ姉さん、好きだったなぁ……(笑)。
もちろん、フラマシュも好きだなぁ……。
それでは、これにて!
2012.8.19


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