優しい仲間達

 部屋では斎藤さんが待っていた。ベンさんは今日は仕事の都合でここにはいない。
 あたしとハンサムの姿を認めたらしく、斎藤さんは立ち上がる。
 他に客は三人。
「はぁい、バーナビー」
 名前を呼ばれてハンサムが営業用でないスマイルを浮かべる。
「こんにちは。藤宮さん」
「あ、こちら俺の彼女。結婚を前提にして付き合ってる」
「キャサリン・ドナルドソンです。宜しく」
 そう言ってキャサリンという天然パーマの金髪美女はハンサムと握手を交わす。あたしとも。
「あたしね、愛称ケイトって言うの。で、彼も圭人(けいと)って言うのよね。運命感じない?」
「さぁ……僕は何とも……」
 堂々とのろけられてハンサムが困っている。
 あたし――ブルーローズはハンサムの袖を引っ張った。
「何? この人達。ハンサムの知り合い?」
「ああ。藤宮圭人さん達だよ。ジャーナリストの」
「宜しく。別嬪さん」
 別嬪と言われて悪い気はしない。それに――この人はタイガ―に似ている。
「ブルーローズ。ずっとファンだったよ」
「あら、あたしよりもブルーローズの方がいいの?」
「そんなつもりじゃないよ、キャサリン……」
 早速尻に敷かれてるってわけね。結婚もしないうちから。あたしは笑いを堪えるのに苦労した。
「あたし達、化学の権威、後藤さんを連れてきたのよ」
 二人の後ろからうっそりと姿を現した男は何となく斎藤さんに似ていた。
「ははは。科学の権威とは嬉しいねぇ」
 耳鳴りがした。何て大きい声……。
「(後藤くん。もう少し小さい声で話したまえ)」
 あなたはもっと大きな声で喋ってください、斎藤さん……。
「わかったよ。斎藤」
「あー、後藤くんと私はいとこ同士なんだ」
 声の大きさは対照的だけど、何か納得。
「一応NEXTの能力を引き出す薬を持って来たんだけどねぇ」
「ありがとう」
 斎藤さんはマイクを使って喋る。
 こんな時にタイガ―は何してるのよ、もう。
「おー、すまんすまん。スカイハイと話し込んでたら待ち合わせに遅れちゃって……」
 タイガ―が言い訳しながらやって来た。
「あのね、虎徹さん。僕達は貴方の為に来てるんですよ。これからは時間厳守でお願いしますよ」
 ハンサムは険のある声で言った。あたしも同じ気持ち。
「悪かったよ、バニ―ちゃん」
 そう言ってへらっとタイガ―が笑う。そうするとちょっと可愛い。おじさんのくせに可愛いなんて反則よ、もう。
 ハンサムもタイガ―に見惚れている。だが、それは一瞬のこと。
「さ、始めますよ」
 ハンサムはタイガ―から顔を逸らした。
「って、何を始めるんだ?」
「シミュレーションに決まっているでしょう」
「えー。シミュレーション俺苦手なんだけどなぁ」
「わがままは許しませんよ。今日は薬の実験も兼ねているんですから」
「わあってるって。みんな俺の為だもんな。感謝してますって」
 タイガ―が八重歯を見せて笑った。
「タイガ―。藤宮だ」
「キャサリンよ、宜しく」
「おー、藤宮。綺麗な女性連れてんじゃねぇの」
「彼女です」
「そっか。宜しく。キャサリンさん。ヒーローの虎徹です。ワイルドタイガ―って呼ばれてますけど」
「あなたが有名な壊し屋ね」
 キャサリンがタイガ―の手を握る。仕方ないとはいえ、ちょっと面白くない。彼女には藤宮と言う彼がいるのに。これってジェラシーかしら。
「壊し屋なんてひどいなぁ」
「何言ってるんですか。いつも管理官の手を焼かせているくせに」
「ま、そう言うなよ、バニ―ちゃん」
「あのー」
 存在を忘れられていた後藤さんが大声で喋る。
「だから、静かに喋りたまえって」
 斎藤さんがたしなめる。
「え? 何? この斎藤さんに似た人」
「後藤です。薬を開発したんで持ってきました」
「へぇー。どんな薬?」
「NEXTの能力がアップする薬だよ。でも、これには副作用があってね」
「ふんふん。で?」
「使用すると体力が急激に奪われるんだよ」
「あー、それを俺に使うってわけ」
「うん、そう」
「大丈夫。俺は体力が自慢だからな」
 タイガ―が威張った。
 でも、あの薬効くのかしら。
 あたしだって薬使われたことあるけど途中で効き目がなくなってしまったんだから。
 ま、あの時はあたしの精神力が勝ったということだろうけどね。
「この薬を注射してシミュレーションで戦ってもらう。いいね」
「ああ。どんと来いだ!」
「バーナビー、ローズ、またサポートに回ってくれるね」
 斎藤さんが言う。
「もちろん」

 シミュレーションは成功だった。しかも、タイガ―の能力は六分まで伸びた。
「すごいっすねー。これ……うっ」
 タイガ―がよろめいた。ハンサムがすかさず支える。
「大丈夫ですか?!」
 ああん、そんなにくっつかないで!
「ああ、だいじょぶだいじょぶ」
「足に来たようですね」
 あたしもハンサムを手伝ってタイガ―に肩を貸す。
「改良お願いします。後藤さん」
「わかってる」
 後藤さんが頷いた。
 その時である。
「よぉ、ここかぁ? 虎徹は」
「アントニオ!」
「タイガ―はがんばってるわけ? 早く能力回復するといいわね」
「僕も、応援してます。タイガ―さんのこと」
「ぼくもだよ~」
「タイガ―くん。君の努力してる姿は素晴らしい、そして素晴らしい」
「ネイサン、折紙、キッドにスカイハイ!」
 タイガ―が嬉しそうな声を出した。
 タイガ―にはこんなにいっぱい仲間がいるのよね。あたし達も含めて。あたしはそっと涙ぐんだ。彼は明るくて優しいから誰からも好かれるのよね。
 早く能力が元に戻るといいわね。ワイルドタイガ―。
「じゃあ、俺達は帰るから。がんばれよ、タイガ―」
「また来てもいいかしら?」
 藤宮さん達も自然と笑顔になる。
「おう、また来いよ」
 タイガ―は藤宮さんとキャサリンを満面の笑みで送り出す。うーん。あの笑顔を独り占めしたいと思うのはあたしだけかしら。
 隣に来たハンサムがちょっと浮かない横顔を見せている。あたしにはハンサムの気持ちがわかるような気がした。

後書き
ブルーローズ三部作、最後の章。
タイバニシリーズはまだまだ続きがありますので。
2012.8.5

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