バーナビーのないしょの内職
※変態兎注意。大丈夫という方はスクロールして見てください。







































「あー、何だこの手紙の山」
 虎徹さんがさもうっとうしいと言わんばかりに呟く。
「僕へのファンレターです」
 僕――バーナビー・ブルックス・Jr――は答えた。
「バニ―ちゃんのかぁ……何通くらい来てんの?」
 言っておくけど、僕はバニ―じゃありません。バーナビーです。そこのところ、お忘れなく。
「百通以上は来てますかねぇ……」
「ふぇー。半端な量じゃないねぇ……おじさんなんて今週に入ってからまだ一通も来てないよ」
「日頃の行いが悪いからです。――また公共物壊したでしょう。管理官さんが嘆いてましたよ」
「あー、ユーリさんかぁ。俺、あの人苦手なんだよ」
「あー、あーばっかり言わないでください。――近頃たるんでますよ、虎徹さん」
「おまえに関係ねぇじゃねぇか。近頃口うるさいよ、バニーちゃん」
「関係ありますよ、口うるさくてもいいじゃありませんか。だって――」
(僕はあなたの恋人ですから)
「――僕はあなたのバディですから」
 本音は隠して小声でそう言う。虎徹さんはにまっと笑った。
「そうか。俺のことバディと認めてくれるか」
「ええ――変な髭ですけどね」
「そっちこそくるくるヘアーのクセに!」
 僕のカールした髪型のことを言っているらしい。
 この髪型は僕のポリシーの表れです! 虎徹さんにもとやかく言われたくない! 虎徹さんの髭とは違うんです!
 でも、それを言ったら喧嘩になるので黙っておく。時間がないんです。
「さてと――」
 僕は立ち上がった。
「あ、怒った?」
「怒ってません。いつものことですから」
「じゃ、どこ行くんだよ。トイレか?」
「いえ……まだ別の仕事がありますので」
「今日、どっか飲みに行かね?」
 それは魅惑的な誘いだったが――。
「――仕事がありますので」
 涙を飲んでそう答えた。
「バニ―……あんまり相手にしてくれちゃうとおじさん泣いちゃうよ」
 うっ……ベッドで泣く虎徹さんが見てみたい……。
 つい、いけない想像をしてしまった。でも、ここはクールにかっこよく去らねば――。
「勝手に泣いてください。ごきげんよう。虎徹さん」

 さぁ、内職の時間だ。
 実は鏑木・T・虎徹――ワイルドタイガ―の人気はこのところうなぎ昇りなのだ。
 ファンレターだって実はいっぱい来ている。
 でも、エロな手紙と乱暴な手紙と精神衛生上宜しくないような手紙を除けば、虎徹さんへの手紙は三分の一以下に減ってしまうのだ。
 それだけで、彼がどんなファン層に支えられているかわかるだろう。
 ふぅ――こんな男の恋人……じゃなかった、バディも楽ではない。
 さてと、一通目。
『こんにちは。僕はワイルドタイガ―のファンです』
 ふむふむ。いい感じだぞ。だが、続きが良くなかった。
『バーナビーになりかわってタイガ―さんに××なことや×××なことがしてみたい――』
 そんなこと、僕だってしてみたいよ! にしてもおかしいな。この手の手紙は既に燃やし尽くしたはずなんだが――。
 こんな手紙は捨てよう。次。
『ワイルドタイガ―へ。あなたの子供が産みたいです。きゃっ』
 きゃっ、じゃないでしょう! きゃっ、じゃ。
 女だからと言っていい気にならないでくださいよ。どうせ僕は虎徹さんの子供は産めません。でも、いいんだ。僕はタチだから。
 何でこんなのばかり来るんだ。あの人には。
 まぁ、僕の元にも『あなたの子供が産みたいです』な内容の手紙はいっぱい来るんだが――。
 閑話休題。これもボツ。次。
『わいるどたいがさん、ぼくわおきくなったらわいるどたいがになりたい』
 下手な字だな……。子供が書いたのか?
『みねちあき さんさい』
 なるほど納得。
 下の方に母親のコメントがついてる。
『息子は暇さえあればワイルドタイガーごっこをしています。
 親子でワイルドタイガ―さんのファンです。
 これからもこの街の平和の為に力を尽くしてください 千明の母より』
 この子のお母さんはバーナビー役か……光栄ですね。
 これは届けてあげましょう。虎徹さんは子供が好きだから喜ぶでしょう。
 次。
『ワイルドタイガ―さん。初めまして。あなたのご活躍ぶり、いつもテレビで拝見しております。
 実は私にもワイルドタイガ―さんと同じ年くらいの息子がおります。生きていれば……ですが。
 私はある理由で十年前、息子を勘当したのです。それ以来、息子からは一切音信がありません』
 …………。
 何か急に話が重くなってきたぞ。
『ワイルドタイガ―さんが市民の為に健闘している姿を見ると、つい息子と重ね合わせて見てしまいます。
 息子もワイルドタイガ―さんのように、世の為人の為に貢献してくれているとありがたいと願っております。どんなにささやかでもいいですから。
 それでは。ますますのご健勝をお祈りいたしております。 ――ショーン・タック』
 ――内容は重いが、虎徹さんの好きそうな人情話だなぁ。これも届けてあげよう。
 仕事は殆どこれで終った。
 何? 単なる検閲じゃないかって? しかもかなり行き過ぎた――。
 僕だって本当はこういうことはしたくありません。でも、虎徹さんの為なんです。
 虎徹さんに変な手紙が届いて気にされると困るから――。
 そして、バディとしての仕事に支障をきたすと困りますからね。
 さぁ、虎徹さんのところに戻りましょう。
「虎徹さん」
「何だよ――仕事は終わったのか?」
 虎徹さんが伸びをする。可愛い……。
「待っていてくださってたんですか?」
「んだよ、悪いか?」
 今まで待っていてくださった虎徹さんが愛おしいです。けれど、まず手紙のことを伝えなければ――。
「虎徹さん。今日は貴方のところに二通手紙が来てましたよ」
 そう言うと虎徹さんはリスのように目を丸くして、
「二通?! 二通も届いてたの?!」
 と大はしゃぎ。
 たった二通の手紙でこんなに喜べるなんて、幸せな人だなぁ……ますます可愛い。
 虎徹さんは千明くんの手紙に相好を崩したり、タックさんの手紙に涙したりしている。
 ああ、虎徹さんが喜んでくれて良かったなぁ……。
「なぁ、この人達に返事書いてもいいか?」
「いいんじゃありませんか? 向こうも喜ぶと思いますよ。――それより虎徹さん。仕事終わったんで一緒に飲みに行きましょう」
「おう! ――じゃ、この俺宛ての手紙の返事は明日以降空いた時間に書くか」
 独り言を言いながら、虎徹さんはいそいそとファンレターを大事に書類棚の特等席へとしまっておく。かなり機嫌が良さそうだ。――僕は言った。
「湾岸をバイクで流すのもいいですかね。それだとお酒は飲めませんが」
「――どっちでもいいや。バニ―ちゃんと一緒なら」
 嬉しいことをおっしゃってくれますね、虎徹さん。
「じゃ、久しぶりに走りますか。ダブルチェイサーで」
「そうだな!」
 今日はいい日だ。虎徹さんの笑顔を見た僕は思わずほっこりしてしまった。

 ちなみに僕は、ファンレターと同じような要領で虎徹さん宛てのメールも密かに検閲している――。

 END

後書き
こわっ! バニ―こわっ!
すみません、バニ―ファンの方! 変態兎で!
2012.9.7

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