モテモテ日向クン

「なぁ、リコ」
 まだ寒い時期、校庭での散歩の途中、木吉鉄平が満面の笑みを浮かべながら言った。私、相田リコが、
「なぁに?」
 と、鉄平に訊いてみる。私は『リコ』と呼ばれたり、男子バスケ部の監督だから、『カントク』と呼ばれることも多い。
(――鉄平のことだから、またきっとどこかズレた発言をするんじゃないかしら……)
「オレ、バスケ好きなんだ」
 ――なんだ。意外とまともなこと言うじゃない。
 バスケが好き。わかってる。そんな鉄平が私も好きだから。
 日向君がいなければ、私、鉄平に恋したかもな――なんて……。
「それからオレ、日向も好きだなぁ」
「うん。チームメイトだもんね」
 日向順平は私の幼馴染でバスケ部のキャプテン。キャプテンと部員が仲が良いのはいいことだ。尤も、日向君より鉄平の方がバスケは上手いと思うけどね。うちの高校のバスケ部は鉄平が創ったようなモンだし。
 でも、日向君には鉄平にないものがあるから……。
「オレ、日向に恋してるんだよ」
「――はい?」
 今何か言った? パードゥン?
「リコも好きだろ? 日向」
「ああ……まぁ……ねぇ……」
 火神君と黒子君の例を出すまでもなく、そういうのが体育会系に多いのは知っていた。
 けど、まさか、鉄平が――。
「ねぇ、鉄平。嘘だよね……」
「嘘なもんか」
 やば。鉄平が何かマジな顔してる。
「じゃ、じゃあ、あれ? 鉄平、ホントに、日向君好きなの?」
「うん。日向が女の子だったら良かったなぁ」
 ――マジ?
 私、女になった日向君なんて想像つかないんですけど。
 てゆーか……。
 恋敵が男なんて……嫌過ぎるーーーーー!!!
 私は貧血を起こして――くらりと倒れた。

「リコ! リコ!」
「カントク! カントク!」
 鉄平の声に日向君の声が混じる。
「ん……あ……」
 私が目を開くと、鉄平と日向君の顔が至近距離にある。
「ひっ!」
 私は慌てて逃げようとした。
「あっ、どうしたよ。落ちるだろ」
 日向君が注意してくれた。私は辺りを見渡した。
「ここ――保健室?」
「そうだよ。鉄平が連れてきたんだ」
「日向と一緒にな」
「え? 何で? 日向君と?」
「リコを運んでたら日向と会った」
 鉄平はケロリとした顔で言った。
「オマエのこと、お姫様抱っこしてたぜ。木吉のヤツ。オレ、全然出番なかった」
「でも、オマエの方がリコのこと心配してたじゃないか」
「それ言うなって」
 日向君――。
 そっか。心配してくれたんだ。
 パパからプッツンメガネとか言われてるとか言われてる日向君だけど、ホントは優しいんだよね。武将フィギュアなんか集めてて、幼馴染の私ですらわからないところがあるけど。
「ありがとう。鉄平。日向君」
「どういたしまして」
「……おう」
 鉄平はうんうん頷き、日向君はちょっともぞもぞしているようだった。日向君が言った。
「そうだ。ちょっと飲み物買ってくるよ。何か飲みたいだろ? リコ」
 そういえば、喉が渇いた。でも――。
「いいっていいって。そんな……」
 日向君がいなくなったら、私、鉄平と二人きりになっちゃう……。
 あっ、そうか。日向君がいなくても、別に気にすることないんだ。だって、鉄平は日向君が好きだから――。
 そんな問題ではなかったわ!
「日向君、いいっていいって、ほんとに!」
「んだよー。鉄平だったら二人きりでも安心だろ?」
「おう。信じてくれてありがとな。日向」
 そうじゃなくてー! 本当に危ないのは私じゃなくて日向君、アンタなのよー!
 しかし、日向君は出て行ってしまった。
 ま……ま、いっか。鉄平が腐男子だっていうことはわかったけど……。
 鉄平が笑った。
「どうした? リコ。オレの顔に何かついてる?」
「ついてるわよ。眉毛と目と鼻と口がね」
「何だよー、怖い顔すんなって」
 鉄平がまたへらへらと笑った。
「鉄平。さっき言ったこと。ホント?」
「え? 嘘ついてるように見えるか?」
 私は息を吐いた。
「――見えないわね。そういうことで嘘つくアンタじゃないもの。エイプリルフールならともかく」
「え? 今日、エイプリルフールだったのか!」
「違うわよ! 真面目な顔してボケるのやめてよね!」
 大体季節が違うじゃない!
「冗談冗談」
 鉄平は大きな手でわしゃわしゃと私のセミロングの髪を掻き回した。私は一応言った。
「――日向君が好きってのも冗談でしょ?」
「ううん。あれは本気」
 ちっ。誘導尋問には乗ってこなかったか。まぁ、言質を取ってどうしようとは思っていなかったけど。
「リコも日向に恋してるだろ?」
 ――鉄平の目はごまかせないってわけか。
「――うん」
「じゃ、いいこと教えてやるよ。――日向もリコのこと、好きだぞ」
「そりゃあね。カントクとキャプテンが仲たがいしてたらアンタら困るでしょ?」
「じゃあ、日向が、リコに恋してる、って言ったら?」
「――え?」
 日向君が、私に、恋を?
「この反応じゃ、気付いてなかったみたいだな」
 鉄平は自分の焦げ茶がかった髪を掻いた。
「余計なことしてしまったかなぁ。でもオレ、リコに負ける気ないし」
「何言ってんのよ。私は女よ。それだけで十分有利だわ」
「ははっ、モテモテだよなぁ。日向」
 そう鉄平が言った。この会話を日向君に聞かれなくてよかった。
 まぁ、日向君が好きでなきゃ、あんなにつきまとったりしないわよね。鉄平も。
「ま、とことんフェアに勝負しようぜ」
「いいの? 鉄平、負けるかもよ」
「そん時はそん時さ。でも、全力は尽くすぜ」
 鉄平が恋敵なんて嫌だと思ってたけど――こういう関係も悪くないかもしれない。鉄平は好敵手になりそうだしね。しばらく退屈しないで済みそうだわ。
「おーい。オマエら。ジュース、買ってきたぞー」
「ずいぶんかかったのね」
「いつもの自販機、午後の紅茶がきれてたからな。ほら」
 日向君が私に午後の紅茶を投げて寄越した。あたしは受け止めた。――温い。
「それのミルク好きだったろ? カントク。それから、鉄平にはコーヒーな」
「――サンキュ」
 こういう心遣いができるところが、日向君のいいところかもね。でも、あまりやたらに他人には親切にしないこと。その優しさに惚れてしまう私や鉄平みたいなのがいるから、ね☆

後書き
とにかくモテる日向を書きたかったのです。日向君はいい男だと思います。木日も日リコも大好き!
木吉はWCで洛山に敗北したら、宣言通り好きな子(日向)に告るんだろうか……。
2014.2.8


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