黒バス小説『緑間クンと高尾クンて、あれじゃない?』

 朝倉ひな子が友達とガールズトークを繰り広げている。人数は四人。マジバーガーの店舗で、
「やだ、うっそ~」
 とか、
「貴重な情報サンキュー!」
 とかの言葉が飛び交っている。
 勿論、ひな子達とて例外ではない。
 四人とも可愛い娘だ。しかし、彼女らは――腐女子である。
「緑間君と高尾君て、あれじゃない?」
 今回の話の大前提がこれ。
 ――緑間君と高尾君て、恋人同士なんじゃない?

「はぁ? 何言ってんの?」
 ひな子が眉を寄せる。
「え……違うの……?」
「ひなちゃん、詳しいよね。あの二人に。いつも一緒にいるもん」
「そうよー。でも、緑間君と高尾君が恋人なのは、常識でしょ?」
「ごめーん」
 クラスメート、謝るふりして、てへぺろ☆
「もう、冬コミの新刊で二人のネタを考えている人もいるわよ」
「え~、そりゃちょっと……緑間君にも高尾君にも人権ていうのがあるんだしさぁ……」
「だから、名前と姿をちょっと変えて、ね」
「ひな子も大変よね~」
「ま、好きでやっていることだからね」

 ――緑間と高尾は恋人らしい。
 その噂は秀徳高校中に広まった。

「高尾」
 緑間真太郎が低い声で高尾和成を呼んだ。緑間は緑色の髪の眼鏡の似合う美形である。
「なに? 真ちゃん」
 狐顔の少年が訊いた。つまり、彼が高尾であった。
「あれは何だ?」
 スマホを持っている女子生徒が二人。夢中になって二人を撮っている。
「あー……あれねー……てか、真ちゃん、ようやく気付いたの?」
「何になのだよ」
 つまり、女生徒(主に腐女子達)は、緑間と高尾の追っかけをしているのである。この学校は真面目なだけに娯楽がいまひとつ足りないものだから。
「……今まで気付かなかったんならまぁいいか……」
 高尾がぽん、と緑間の肩を叩いた。
「ひなちゃんによるとね、女の子達、オレ達を追っかけてるんだってさ」
「……何故?」
「何故って……そこまでは知らないよ」
 これでも人目を避けてあまり騒ぎにならないように歩いているのだ。高尾は自分の自慢のホークアイを使って。
 それでも、スマホやケータイを持った女の子達に出くわす。
「よっぽどヒマなんだなー……みんな。娯楽に飢えてんのかな」
 高尾が独りごちる。
「? お前の言っていることはよくわからないのだよ」
「わからないならいいよ」
 緑間と高尾が恋人同士である。これはれっきとした事実である。
 まー、隠すこともねぇもんなー……。
 などと、高尾は考えている。緑間はそもそも隠す必要性を見いだせないだろう。
 よし、ちょっとサービスしちゃるか!
 いたずら心がムクムクと湧き上がってきた高尾はするっと緑間の体に寄りかかるように抱き付いた。
 ――女の子達は、気絶せんばかりの悲鳴を上げている。
 へへっ、ちょっといい気分。
「高尾? どうした? 具合でも悪いのか?」
「いやね、もう……真ちゃんの察しの悪さはどうでもいいや」

 部活でもギャラリーが増えていた。
「高尾……女の子が増えているような気がするのだが。運動部の子達じゃないよな」
 バスケ部のキャプテン、大坪泰介が当然の疑問を発した。 
「ああ。緑間のファン」
 高尾は簡潔に答えた。
「そうか……? お前の名前を呼んでいる女の子達もいるじゃないか。モテるなぁ」
「いやぁ……」
 高尾は頭を掻く。
 でも、オレ単体ではこんなにモテなかったんだよね。緑間はどうかしらんけど。
 それを思うと――ちょっと悔しい思いに駆られる高尾であった。――まぁ、オレには真ちゃんがいるからいいけど。
 高尾が緑間にパスを回す度、叫び声が上がる。
「やりづれーな」
 木村信介は、ぼそっと言う。
「緑間と高尾のギャラリーだとよ」
 宮地清志が忌々しそうに言い放つ。
「ちくしょ……あいつら、轢く、木村、軽トラ貸せよ」
「おう」
「うへー……こえぇなぁ」
 高尾がこっそり呟く。
 どうやら、緑間と高尾が恋人同士であることはかなり広範囲に広まったらしい。
「君達、部員達の気が散るから、外に出ていなさい。部活をさぼっている者もいるようだな――さっさと行きなさい」
 中谷監督が誘導する。
「はーい」
「わかりましたー」
「仕方ないですわね……」
 高尾も、ファンには悪いがちょっと耳障りだと思っていたところだったのだ。
「助かった……」
 体育館の扉を閉めると、高尾が駆けていく。
「ありがとうございます。監督!」
 高尾は監督を見直しかけていたのだ。――監督の次の言葉がなければ。
「ところで、君達はどこまでいったのかね?」

「いやー、笑った笑った。まさか監督が腐男子だったとは」
 高尾はまだ笑いこけている。木枯らしの寒い中、二人はチャリアカーに乗らず、歩いて帰っている。
「煩いのだよ、高尾。それに、腐男子とは何だ」
「んー、教えちゃっていいのかなぁ。知ったらもう、普通の高校生には戻れないって感じだけど」
「お前を恋人にした時点で、既に普通の高校生ではないのだよ」
「ん……そだね……」
 高尾は、ちらっと緑間に流し目を送る。緑間もこちらを見る。
 白い息を吐いた緑間は、高尾の唇にキスをした。
 その様子をスマホで撮っている女の子達(若干名、男子もいる)の存在を高尾は知っていた。ひな子達もいるようだ。
 高尾は思った。
 ――やっぱ、緑間の言う通り、もう既に普通の高校生じゃないかもしれないなぁ、オレ達。

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