飯くらい俺がずっと作ってやりたいよ

「坊っちゃん!」
「何だよ、フランシス」
 アーサー坊っちゃんが、俺の方を振り向いた。
 うっ。ツンツンモード。でもそこが可愛い☆
「『何だよ』は、ないじゃないか、お兄さんに向って☆」
「いちいち星を飛ばすな!」
 こいつ、俺の恋人、アーサー・カークランド。尤も、本人は否定してるけど。
 眉は太いけど、意地っ張りだけど、可愛いんだぜ。イギリスという国の化身だ。
「ま、いいや。もうすぐ飯の時間だぜ」
「飯……」
「坊っちゃんは、もしかしてまだまともな料理作れないとか」
 図星だったらしい。坊ちゃんの顔が途端に暗くなる。
「飯くらい、俺が作ってやるよ☆」
 そう言って俺はウィンクを飛ばす。
 坊ちゃんの為なら、料理なんていくらでも作ってやるさ。餌付けとも言うかな。
「そ……そこまで言うなら、食べてやってもいいぞ。し、仕方なくだからな」
 坊っちゃん、素直でない。でもそこが可愛い☆
 よーし! 料理大国フランスの化身、フランシス・ボヌフォア様が腕をふるってご馳走するからね☆
 ふんふんふ~ん♪と鼻歌歌いながら慣れた手順でこなしていって、出来上がり☆
「さ、どうぞ。坊ちゃん」
「お……おう。悪いな」
 坊っちゃんが牛肉の赤ワイン煮を一口。
「どうだい? お兄さんの料理、絶品だろ」
「――食べられないことはないな」
 かぁ~! ほんっと素直でない! そこがいいんだけど。
「おんやぁ、そんなこと言っていいのかな。坊ちゃん飯作れないくせに。もう作ってやんないぞ~」
「ふ、ふん、飯ぐらい作れるっての!」
 あはは、出たよ。負けず嫌い。
「坊っちゃんの作った飯は食いたくないなぁ」
「どういう意味だよ! それはぁ!」
 坊ちゃんががーっと怒る。あらら。可愛い顔なのにひどい表情。がたんと椅子から立ち上がる。
 でも、そんなところも好きなのさ。
「坊っちゃん。食事にはマナーというものがあるんだよ。もっとお上品にしないと」
「年中エロ話しているおまえに言われたくないね」
 あら。話がこっちの方向に飛んできた。
「でも、坊っちゃんだってそっちの方の知識は詳しいじゃん☆ いっぱいエロ本読んでるし。料理よりは向いてるんじゃない?」
「う……うるせ!」
 元通り椅子に座った坊ちゃんは言う。
「ま、一生飯作ってやってもいいけどな」
 これは俺なりのプロポーズ。通じているかどうかわからないけど。
 だから――行くなよ、アーサー。
 他の男と恋仲になったら、お兄さんぐれちゃうからね☆
 女ならまだいいんだけど。
 でも、坊っちゃん可愛いからなぁ。お兄さん、心配だなぁ。
 お兄さんにも遊びの相手はいっぱいいるけど、坊ちゃんに関してはマジなんだ。
 だから、今はまだ手は出さない。坊ちゃんのお初はもらうって決めてるけどね。
「俺、おまえに料理習いたいな……」
「え、お……」
 考えに浸っていたら、坊っちゃんの声が聴こえてきて、思わずナイフを取り落としてしまった。マナー違反だな。坊ちゃんには口を酸っぱくして注意してるのに、自分が失敗してちゃ世話はない。
「何で? 何でそんな殊勝なことを?!」
「だって、やじゃねぇか。一人で飯作れないなんて……情けねぇじゃねぇか……」
 坊ちゃんが泣き出す。うっ、この涙に弱いんだよね、お兄さん……。
「そんなことない! 飯なんか作れなくたっていいんだ!」
 だから、そばにいてくれ、アーサー。
 お兄さん、この頃妙に心配なんだ。
 坊っちゃんがモテ始めてきている。
 このままだと、どこの馬の骨ともわからない国に坊っちゃん取られるんじゃないかと心配で心配で……。
 その前に俺が坊っちゃん食べてやろうかとも思うんだけど……。
 何せ、ちびだった頃からの付き合いだもんな。俺と坊っちゃんは。
 あの頃から好きだったぜ。アーサー。
「でもさ……フランシスがあんまり楽しそうに料理してるもんだからさ、俺でもできるかと……」
 うーん。心外だな。これも努力の賜物なのよ。
 料理に興味を示したのは、お兄さんの影響か。
 あ、そうそう。この間も、台所が悲惨なことになっていたっけ。そういうことが何度かあったけど、まさか俺の影響だったとはなぁ……。
「いいよ。教えてやるよ」
 嬉しくなって、ついこう答えてしまう。
「ほんとか?!」
 坊っちゃんが涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をこちらに向けた。
「ああ、ほんとさ……だから、顔拭けって」
 俺はティッシュを箱ごと持ってきて、アーサーの顔を拭く。使ったティッシュは後で捨てよう。
 ああ、俺の可愛いアーサー。
 いつか大人になったら、俺達離れ離れになるのかもな。たとえば上司が変わったりしたら。
 お兄さん、そうなった時、耐えられるかな。
 でも、今は……アーサーは俺のものだ。ベッドを共にしたことはまだないけど。
「愛してるよ」
 俺はアーサーの耳元で囁いた。
「な……何だよ! 突然!」
 確かに脈絡なかったね。これはお兄さんが悪かった。
 けど坊っちゃんは、ばっちり反応してくれた。顔が熟れたトマトのように真っ赤になるのを俺は見た。
「俺だって、おまえのこと嫌いじゃない。でも、俺は……仕方なくここにいるんだからな」
 わかってるよ。
「――フランシス?」
 坊ちゃんが小首を傾げる。その姿がまるで小鳥のようで、可憐で……。
 我慢ができなくなった俺は席についたままの坊っちゃんを抱き締めた。
「アーサー……」
「フランシス、どうしたんだよ! フランシス!」
 アーサーが大声でわめく。俺のこと、ちょっとは心配してくれてるんだろうな。
 皮肉屋で、ちょっと泣き虫で、でも優しくて……。
 お兄さん、坊ちゃんのそんなとこ、好きだよ。
「お兄さん、坊っちゃん離したくない……」
「は?!」
「どこにも行かないって、約束してくれ……」
「わぁった! どこにも行かない! ずっとここにいるよ! フランシス!」
 アーサーが慌てている。
 へへっ。ちょっと坊ちゃんの優しさにつけ込んだみたいで、悪かったかな。
 ――今の言葉は嬉しかったよ。俺は、アーサーにどこにも行って欲しくない。それは事実だから。
「朝食は坊ちゃんに手伝ってもらうよ」
 そして――
 ドッゴォォォォォン!
 これは坊っちゃんがオーブンを爆発させた音だ。この料理音痴もある意味才能?

後書き
今回はラブラブ仏英。でも、仏→英っぽくなっちゃいました。最初の方、フランス兄さんがむやみに星を飛ばしてます(笑)。
2011.9.27

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