ヘタリア小説『Happy merry X'mas』
ふんふんふ~ん♪
俺は鼻歌を歌いながら髪をセットしていた。
なんてったって、今日はクリスマス。素敵なことが起こりそうじゃない?
まぁ、俺にはほとんど起きかけているけどね。
「なぁ、アル、イブにはどこか食事に出かけないか?」
アーサーが誘ってくれたのだ。ちなみに俺の名前はアルフレッド・ジョーンズ。
最愛の人がそう言ったのだ。
これは、もしかしてもしかすると……。
今夜こそ童貞喪失ってことになるかもしれないんだぞ。わーい!
レストランは……美味しいところならいっか。
美味しいところ……。
俺は、はたと手を止めた。
あのアーサーが、味音痴の彼が『旨い』と思う店って、どんなところだろう……。
不味かったり、窮屈な思いをするくらいだったらエッチだけの方がいいなぁと考えてしまう俺であった。俺は普通より食いしん坊かもしれないけど、そう感じることもあるのだ。
店は、アーサーが選んだにしてはまともなところだった。
かちゃかちゃと鳴るフォークとスプーンがぶつかり合う音。
「な、結構いい店だろ?」
「ああ、うん」
アーサーに見惚れてて、それどころではなかった俺だ。
彼のテーブルマナーは、そりゃ見事なもんだった。やっぱり俺にいちいち口出すだけのことはある。悔しいけど。
「食べないのか?」
いつもは大食漢の俺を気遣ってだろう。アーサーが言った。
「あ……うん」
本当は、こんな上品な料理より、ハンバーガーとシェイクの方がよっぽど好きだ。
でも、アーサーがいるから……。
ムードだって悪くない。
年代物のワイン、静かな音楽。そして、向かいには、最愛のアーサーが。
そして……聞き覚えのある声が。
あれっ? どうしてあいつらの声が聴こえるんだ? 幻聴か?
気のせいだと思い込もうとした。気付いたら負け、気付いたら……。
「アル~」
ああ、やっぱり、本物だった。
俺はがくっと肩を落とした。
幻聴なら良かったのに。
まぁ、フェリシアーノだったから、最悪の事態は避けられたってことか。
その後ろには、ルートと菊が。
こんなところに男三人で来るなよ、全く。俺も人のことは言えないけどさッ。
「よぉ、フェリ」
よせばいいのに、アーサーは声をかける。
「アルフレッドさん、お二方はデートですよね? デートですよね?」
菊が目をやたらきらきらさせて尋ねる。
う……俺はそのつもり、なんだけど。
「違うよ。ただの食事だよ」
アーサーが否定した。ここは頷いて欲しかった。
「なぁんだ、そうですか……」
菊ががっかりしたようだった。
なんで菊ががっかりするんだい? そう思った時だった。
「あんれー。おまえ達もデート?」
げっ! 最悪の事態!
フランシスに見つかった!
「フランシスさん。邪魔しちゃ悪いですよ~」
マシューがひょこっと顔を覗かせる。
「二人で食事か。いいねぇ」
「ま、マシュー。この男と早くどっかへ消えてくれ!」
俺は言った。最後はほとんど悲鳴に近かったと思う。
「嫌だ」
「せっかくの晩餐なんですし」
「仲良くしようよ~」
「そうだな。これ食べ終わったら、もっと騒げるところに行こうか」
アーサーまでそう言う……。
俺達、デートじゃなかったの? 今日は二人きりで過ごすんじゃなかったのかい?
「ま、ロコツに嫌そうな顔すんなって。アル」
フランシスがウィンクした。
「俺、いいとこ知ってるから」
これはフランシスのアーサーへの台詞。
「そうか。じゃ、後で案内してくれ」
デザートが運ばれてきた。それをあっという間に平らげる。俺は少し自棄になっていた。
「俺、もういいからさ。おまえらで食ってくれよ」
「ヴェー、いただきます」
「悪いな」
「私もお相伴してよろしいでしょうか」
アーサーが、フェリ、ルート、菊達にケーキを渡す。
「あれー? お兄さんにはないのー?」
フランシスが口を出す。
「ねぇよ。おまえは俺にたかるなっての。なぁ、マシュー。人にたかる男は嫌いだよな?」
「え? え? まぁ……」
普段だったら、面白く眺めているこの光景も、今ではただただむかっ腹が立つばかりであった。
これじゃ、ムードもへったくれもありゃしない。
いったいどうしてこうなった。Tomokoの陰謀か?
こうなったら仕方ない。
今年のクリスマスはこの面々で過ごすしか、ない。
となると、徹夜は必至。
ベッドインどころではないね。きっと。
でもま、俺は恵まれてるんだと思う。
こうやって騒げる友達いるしね。
アーサーとヤレないのはちょっと残念だけど、友達いっぱいいるのって、いいよね。
けれど、来年こそは!
「あ、そうだ。アル。まだクリスマスの挨拶がまだだったよな」
「そうだな。これを見てくれた皆に」
Happy Merry X'mas!
みんなに幸せなクリスマスが訪れますように!
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