前原クンの友達

「岡野ー。一緒に帰ろー」
「うん。……ちょっと待って前原」
 私、岡野ひなた。この間のバレンタインデーで片想い相手の前原陽斗とめでたくカップルになった。
 ……のはいいんだけど、こいつ、気が多いからなぁ……。彼女になれたとか言って、うかうかしてはいられないのだ。
「おー、雨だなぁ」
「……雨だねぇ」
 雨の日独特の湿っぽいにおいがする。ま、雪よりはましか。
「傘に入れてやんよ、ほら」
「傘っていえば……土屋さんとも相合傘してたじゃん」
「あー、土屋か。瀬尾とより戻したらしいぜ」
「ほんと?! 私達、あんなに散々な目に遭わせたのに!」
「まぁいいさ。世界中の女が幸せになるのが俺の理想だからな」
 あー、こいつ、ほんとはいいヤツなんだもんね……。例え岡島とタメ張るエロ男だとしても。
「この間は一夫多妻が俺の目標とか言ってたじゃない」
「うん。前原陽斗。ストライクゾーンは十歳から七十歳まで! タラシ、女の敵は褒め言葉さ☆」
 悪びれもせずにろくでもない自己紹介しやがって……。この野郎、どうしてくれようか……。ていうか、十歳は犯罪じゃ……。
「――アンタさぁ……E組の女子全員に声かけたんだって?」
「うん。原や狭間にも声かけたなぁ……。原は家庭科得意なところが女らしいし、狭間は肉付けば美人だしな。うん。片岡以外には大体声かけた。ま、尤も、お前以外全員玉砕だったけどな」
 この節操なし! ……あれ? でもちょっと待てよ。
「アンタ、どうして片岡さんには声かけなかったの?」
 片岡メグは、イケメグと呼ばれる程、颯爽としたかっこいい女子だ。当然前原も目をつけてたと思うんだけど……。
「ま、親友への義理ってヤツかな」
「何それ。意味わかんない……」
「あれ? 知らなかったの? あいつ、磯貝のこと好きなんだぜ。磯貝も片岡のこと、憎からず思ってるしさぁ……」
「へぇー」
「『へぇー』って何だよ」
「アンタ、割と友達思いなんだね」
「あたぼうよ。いい女はいっぱいいるけど、いいダチって少ねぇかんな」
 男の友情ってヤツか。
「見直したよ。アンタ」
「――えへ、そうか?」
「上手く行くといいね。磯貝君と片岡さん」
「そうだな。あいつらなら、イケメン優等生でお似合いだよな」
「――私も応援してあげよっと」
「……お前もいいヤツだな」
「だって、友達が素敵な恋するのって、嬉しいじゃん。磯貝君なら、前原のように浮気なんかしないだろうし」
「ああ?! 何だよてめー」
「ま、アンタが浮気したら私が一方的にボコるだけだけどね」
「おい、おいおいおいおい! 前原!」
 ――あ、岡島だ。
 前原と共にE組の女好き度を競い合っている。そして、一方的に前原を友達――というか、同類扱いしている。それにしてもどうしたのかしらね。
「どうした? 岡島」
 前原が訊く。
「盗撮がバレて通報でもされたか?」
 それを聞いて、私は吹き出してしまった。
「ちがーう! それだったらいつものことだけどよぉ……」
 いつものことなのかい!
「んじゃ何? のぞき魔なことが暴かれたのか?」
「いや、前原、それはいつものことだって……」
「ふふん。いいか。聞いて驚けよ」
 岡島が格好つける。何、こいつ……。
「この俺が、女子からラブレターをもらったんだ!」
 な、に……?! 前原の方を見ると、前原も固まっている。
「どうだ! すげぇだろ!」
「信じらんない! アンタにラブレター出す物好きがいるなんて!」
 ――私はつい本音を出してしまう。だって岡島だよ?! 盗撮とエロ本収集が趣味で、将来はグラビアアイドルを撮るとか言ってるヤツだよ?!
 しかし、岡島は彼らしくもなくテンパっている。
「俺は世界中の女のものなのに――これってどうしたらいいかなぁ……」
「うん。まずお前に恋する天然記念物がいるとは思わなかった」
 前原も毒舌だなぁ……。
「俺、どうしよう……!」
 岡島は本当に焦っているようだった。なんだか、可愛い……。
「アンタの本性知らないだけなんじゃ……」
「それがさぁ……エロにかける情熱が凄まじいところに惹かれました、だって。俺、一部ではモテていると思ってたけど、まさか本当に俺を好きになる娘がいるなんてなー。神様ありがとうございます!」
「どんな娘?」
 前原がひそひそささやく。
「結構可愛い娘なんだ。これが……」
「気が知れないとしか言えねぇ……でも、確かにお前、エロ貫いてかっこいいなと思ったことはあるからな。男の俺でさえ……」
「うん、うん」
 あー、良かったね。聞こえたよ。アンタらの話。
 前原の言うことはちょっとわかる気はするけど――ブレないもんねぇ、アンタも、岡島も。
「でもよー、お前にラブレターなんて、エイプリルフールでもあるまいし……」
「うう……やっぱりいたずらだと思う?」
 前原、なにげに失礼。だけどすまない、岡島。私もそう思った。
「ま、良かったじゃん。頑張れよ」
「……何か緊張してきたけど……この際いたずらでもいいか。俺もいい思いしたんだから」
 ふぅん。岡島も結構自分をわかってるというか、根が明るいんだな。陰湿でないところに、相手の娘も惹かれたのかな。――多分、いたずらじゃないと思うよ、それ。でなかったら、あんまり岡島が可哀想だもん。
「ところで、その娘、何ていう名前?」
 岡島は性格が良くて頭も顔も良くてって評判の下級生の女の子の名前を挙げた。
「ええー?! マジかよ! 俺、一回フラれてる……」
 前原が自信をなくしたようだった。これで、浮気の虫が少し収まるといいんだけど。でも、本当に岡島がいい訳? その娘……。変わり者なのかな。
「あ、その娘と待ち合わせしてたんだっけ。じゃあ俺は行くぜ! 彼女と俺が上手く行くように応援しててくれよ!」
「おう、後で成果教えてくれよな!」
 前原が手を振った。
「ほんと、岡島も上手く行くといいんだけどな。エロだけど、いいヤツだし……」
「――まぁね」
「ヌルフフフ。二人とも、その後の展開気になりませんか? 何なら一緒に来ても……」
 あ、殺せんせーだ。下世話だし、恋バナに目がないけれど……。私は答えた。
「――行く!」
 アタシの読みが外れてて、岡島が騙されてたなんて話だったら可哀想だもんね――私達は殺せんせーの後をついて行った。
 近所の公園で、女の子が傘をさして立っていた……。私達は木陰から見守る。
「岡島さん――好きです」
「ああ。俺も……好きだよ」
「嬉しいッ!」
 女の子は岡島に笑いかけたようだった。岡島はいつもと違って緊張して強張っているみたい。何か、想像より可愛い子なんだけど……。
「ヌルフフフ、岡島君、恋が実って良かったですねぇ」
「あの娘、ガチで岡島が好きなの?」と、前原。
「ええ、そうです。彼女はずっと岡島君に恋していたようですねぇ……彼女の岡島君への想いの方が強いみたいです」
 殺せんせーの答えに、良かった良かったと心の中で祝福してあげるより先に、私と前原は目をひん剥いて同時に叫んだ。
「嘘ッ!」

後書き
暗殺教室の二次創作。
ひなたちゃんの一人称ですが、岡島クンの話になってしまいましたね。私も岡島クンは好きです。潔くエロなところが(笑)。
でも、原作では岡島クンは誰からもチョコをもらっていません……可哀想過ぎるよ。
2018.02.13

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