I love you,ALEX

 この間、また女子に告白された。
「私……氷室くんが好きなの!」
 オレは答える。
「気持ちは嬉しいけど……オレ、好きな人いるから」
「う……うん……そうだよね……」
 相手は肩を落とした。名前も知らない子だった。
 これで何回目だろう。ちょっとうんざりしている。オレは溜息を吐いた。
 この話を岡村主将にしたら、
「氷室~! 何でそんなに女子にモテるんじゃあ~! 秘訣を教えてくれ~!」
 と、泣くに違いない。
 オレにだってよくわからない。
 モミアゲゴリラ……じゃなかった、岡村主将はいい人なんだが、高校生の女子というのはこの世で一番残酷な生き物だ。
 人を見た目でチェックして、その基準に合わなかったら平気で切り捨てる。
 ……岡村主将にもいい人が見つかるといいね。
 それに……オレはどんなにモテたとしても――。
 オレが好きな女性はこの世で一人しかいないのだから。
 昔から、ずうっと想ってた人だから。
 その人とは――アレックス。
 本名アレクサンドラ・ガルシアだ。
 彼女は子供の頃からお世話になっている、オレの、いや、オレとタイガのバスケの師匠だ。
 僕もよく、
「タツヤ~!」
 と呼ばれて可愛がられてきたものだ(まだ言ってなかったが、オレのフルネームは氷室辰也だ)。
 アレックスはオレの初恋の人だ。
 タイガもそうだったと思うが、彼にはまた別の好きな人ができたらしい。
 オレはいつぞや会った男前な少年のことを思い出していた。
「好きな人のハートぐらい、自分で射止めます」
 それが黒子テツヤ。オレの幼馴染、タイガ――火神大我の相棒だ。
 あの少年とタイガは上手くいっているのであろうか。タイガはああ見えて押しには弱いから……。
 子供の頃からアレックスにも振り回されてたっけ。僕は要領よく立ち回っていたけれど。
 バスケの才能はタイガの方があった。だから、オレはタイガを倒したかった。結果負けたけれど。
 バスケの女神は僕には微笑まなかった。バスケの女神はアレックスみたいな性格に違いない。
 アレックス。金色の髪に、抜群のプロポーション。豊満な胸。
 けれど、男勝りで強くって――。
 オレはタイプとしては大和撫子が好きだが、アレックスにはオレをどうしようもなく惹きつける何かがある。
 もう子供扱いはよしてくれと言ったけれど――。
 子供の頃からの想いを引きずっているのはオレ自身だ。
 アレックスは昔から驚くほど変わっていない。あの美貌も、性質も。
 いつだったか、アレックスがウェディングドレスを着たことがあった。
 それが驚くほど似合っていて、
(この美しい花嫁と結婚する幸せ者はどこのどいつなんだ――!)
 と、思ったことがある。オレが子供の頃だ。
 アレックスがオレ以外の男と結婚するのはイヤだった。
 ――アレックスを他の男に取られるのがイヤだった。
 タイガはアレックスがどこかに行ってしまう不安を漠然と感じていただけらしいが――。
 オレはいつか大人になったらアレックスと結婚したいと願っていた。
 もっと強く、もっと大人になって――。
 アレックスはオレの会った中で一番の美人だ。そして、一番強い女性だ。
 だから、もう……オレはアレックスのただの弟子なのはごめんだ。
 一人の男として、彼女に見て欲しい。
 けれど、アレックスは鈍いからなぁ……。
 オレはくすっと笑った。
 今からこの言葉を伝えたら、アレックスは何と言うだろうか。
 今。
 オレはアレックスに告白しようとしている。
「おーい、タツヤ~!」
 アレックスが来た。冬服だけど胸の大きさは隠せていない。眼鏡もいつも通りかけている。
 病気で視力が落ちたせいで、アレックスはいつも眼鏡をかけている。けれど、それも彼女の魅力のひとつで……。
 彼女がアメリカに帰ってしまう前に、どうしても言っておきたい。
「何だよ~。突然呼び出して。つーか、日本の冬も結構寒いんだな」
「アレックス」
 オレは深呼吸した。
(好きな人のハートくらい、自分で射止めます)
 そう宣言した男前な黒子テツヤのことを想いだして――。
 言った。
「アレックス……好きだ」
 びゅおっと風が舞った。アレックスは無言だった。
 オレの胸も高鳴っている。息が……苦しい。
 オレは、待った。一秒が一分に感じられた。
「タツヤ……」
 アレックスは口を開いた。
「私もタツヤのこと、好きだぞ」
「――そういう意味じゃなくてさ……」
 ああ、アレックスはいつも通りのアレックスだ。モテるのに女くささは何ひとつとしてない。
 まぁ、そんな彼女だからこそ惚れたというか、惚れたから気にならないというか――。
 だが、それでもアレックスは女なのだ。
 ウェディングドレス、キレイだと思う。とても。
 そう告げた子供の頃から、あの気持ちは変わっていない。
「一人の女性として、アレックスが好きだ」
 今度の沈黙も長かった。
「……そっか」
 アレックスが吐息と共に呟いた。
「何となく、いつかタツヤにはそう言われそうな気がしていたぞ」
「な……オレの気持ちを知ってたのか?」
「ああ。これでもお前らの師匠だ。馬鹿にすんじゃない」
「馬鹿にしてるのはアレックスの方だ! オレは前からずっと……」
 その時、ふわりとシャンプーの香りがした。
 オレの唇はアレックスのそれに塞がれていた。アレックスの顔が至近距離にあった。
「私もタツヤのことは好きだ。……だが、まだまだだな」
 何だよ、それ。今のオレじゃダメだってことか?
「早く大人になれ。タツヤ。そして――私のことを迎えに来い」
「アレックス……」
「今はまだまだだけど、将来もっといい男になったら考えてやる」
 そうだ。アレックスはモテるんだ。オレなんかキミに想いを寄せている男の中の一人だ。
 でも――キミは誰にも渡さない。アレックス。
 キミをモノにするのはオレだけ。
 誰にも――譲らない!
「オレ……絶対キミを惚れさせる! 今よりずっと――いい男になってキミを迎えに行く」
 アレックスは笑っていた。
「ああ。待ってるぞ。タツヤ!」

「少し歩かないか?」
 アレックスに促されるままに、オレ達は並んで散歩した。
「私な……私もお前のこと好きだよ。タツヤ」
「もういいってば」
 オレは急に照れ臭くなった。
「でも、私、お前のこと子供の頃から知ってるからな……子供を大人のように愛したら……犯罪だろ?」
「うん……まぁ……」
「それに、お前まだ高校生だろ? ガキじゃん。だから――子供とか年下とか、師匠とか弟子とか、そういうの関係なく思えるくらいに……私を夢中にさせてくれ。タツヤ」
「うん……」
「それまでは――もう恋人は作らない。お前だけを待ってる」
「アレックス!」
 オレはアレックスを抱き締めた。
「オレも……浮気しない。キミだけを想ってる」
「タツヤ……お前、モテるくせにカノジョ作らないんだってな」
「?! どうしてそれを!」
「同じ学校のヤツが教えてくれたよ。自意識過剰ってんなら済まないけど……私のせいか?」
 オレは頷いた。頬が熱くなるのを覚えながら。
「うん……」
「私は勝手なヤツかもしれないが……ほっとしたんだ」
 ああ、アレックス!
 オレ達は熱烈な口づけを交わした。
「今は、キスだけだぞ」
 アレックスがしっかり釘を刺した。そして、またキス。
 ああ、アレックス。キミには自分の性的魅力にもっと自覚を持って欲しい。
 これでも理性を総動員させているんだから。
 アレックスはキス魔だ。
 キミが、キミは何とも思っていないだろう相手にキスしたり、あまつさえ全裸に近い格好でただの友達だと考えている男の部屋に強襲をかけたりしていないだろうか……。
 子供の頃からキミを見ているだけに、オレにはそれが少々心配だ……。

後書き
世間ではどうか知りませんが、氷室とアレックス、私は結構好きです。がんばれ氷室!
小説版の『Don't go,ALEX』がなければ、この話は生まれませんでした。
この氷室の心配は当たってますね……(笑)。
2013.10.12

BACK/HOME