ラブラブ黒子っち

「黒子っちー」
「黄瀬くん……」
「何? シュートの練習?」
 黄瀬涼太は同じバスケ部員として心安だてに黒子テツヤに話しかける。
 彼らは名門帝光中学のバスケットボール部である。が――。
「黒子っちってば相変わらず自分ではシュートを決められないんだなぁ」
 黄瀬が苦笑する。
「ほっといてください」
 黒子が転がったボールを追って拾った。
「誰もいないんならちょうどいいや。話があるんだけど――」
「何ですか?」
「黒子っち、俺と組まない?」
「はい?」
「俺とタッグを組んでさ、一緒にバスケで天下取ろうよ」
「嫌です」
「瞬殺!」
 黄瀬はふられてしまった。美形の彼は女の子にもふられたこともないにも関わらず――である。
 でも、だからこそ黒子に執着するのかもしれない。
「どうして! 俺、黒子っちに憧れてるのに!」
「――僕には過ぎた言葉、ありがとうございます。でも、僕は――」
「青峰っちの方がいいの?」
「…………」
「どうして青峰っちの方がいいんだよ~」
「君より強いからです」
「ひどっ! その答えひどっ!」
 黄瀬が涙目になる。
「それに――」
 そう言って、黒子は一拍置いて続けた。
「僕では君の影になれない」
「あー」
 黄瀬は目元を拭いた。
「俺では役不足ってわけね」
「役不足、という言葉の使い方間違ってますよ。役不足というのは元々は素晴らしい役者につまらない役が回っていることから来ているのです。まぁ、言わんとしていることはわかりますが、こういう時は力不足というべきです」
「駄目出しされた! しかもフォローもなし!」
「――あきらめてください」
「そんなに青峰っちのバスケが好きなの?」
「はい。好きでした」
「今の――過去形だよね」
「はい」
「でもさ、今の青峰っち、ちょっと傲慢でない?」
「傲慢というより――彼も悩んでいるんだと思いますよ」
「でもさ、調子に乗り過ぎでない? 顔つきも陰険になってきたしさぁ……。なんだっけ、ほら。今のあいつの口癖――」
「俺に勝てるヤツは俺しかいない、ですか?」
「そうそう。ずいぶん上から目線だよねぇ」
「でも、ある意味事実ですから。でも――」
 黒子はボールに目を落とした。
「今の青峰くんのバスケは僕も好きではありません」
「だろだろ~。俺と組もうよ~。俺達が組んだら無敵っしょ」
「だから、断ります」
「あー、あんなになっても青峰っちの方がいいわけかぁ」
「そうじゃありません。何と言ったらいいかわかりませんが――」
「ま、いいや。でも俺は諦めないよ」
 黒子がじっと黄瀬を見つめた。
「さぁさ、今日は終わりにしようよ」
「はい。今から帰ります」
「じゃあさ……ちょっと付き合ってくれる? いい店知ってんだ?」
「?」
 黒子は首を傾げた。そんな彼の腕を取って黄瀬は強引に連れて行こうとした。
「かばん、かばん」
「――と、ごめん」
「いいです」
「でも、今から一緒に来てくれるよね」
「はぁ……」
 帝光中学は喫茶店などの寄り道は禁止である。が――
「今日だけでしたら」
「ほんと?」
「ええ。まずかばんを取りに行きますので」

 黄瀬が連れて行った場所は――
 有名なハンバーガーショップであった。
「ここですか?」
「うん」
 黄瀬は頷いた。
「意外ですね」
「そう? 高級クラブでも想像してた?」
「いえ、そういうわけではありませんが――」
「俺達中学生だもん。クラブは大学行ってから」
「はぁ……」
 黒子は気のない返事をした。
「ここのバニラシェイク美味しいんだ」
「……こんなとこ来たことありません」
「ほんと? じゃ、好きなの頼んでいいよ。俺のおごり」
「では、バニラシェイクを」
 黄瀬と黒子は席に着いた。
「美味しいですね」
 黒子が言った。
「だろ?」
 と、黄瀬。
 黒子は窓の外を見ている。
「なんか面白いもんある? 黒子っち」
「――人が」
「え?」
「世の中にはこんなに人がいるんだなぁと思って」
「人間観察が面白いのかぁ。黒子っちってやっぱり変わってるなぁ」
「――そうですか?」
「うん。でも、そういう黒子っち嫌いではないなぁ。――むしろ好きっつーか……なんか照れるなぁ」
「そうですか」
 黒子は相変わらずバニラシェイクを啜っていた。

 そして時は流れ――
「おい、どっか違う席行けよ」
 黒子が進んだ誠凜高校のバスケ部のチームメイト、火神大我が言った。
「嫌です。僕が先に座ってましたもん」
 そして、黒子は窓外に目をやる。いろいろな人々が歩いている。サラリーマンのおじさん、子連れのお母さん、ジョギングする人、女子高校生のグループ――。
 人間観察が趣味でバニラシェイクが好き。変わっていると黄瀬は言った。
(でも、そんな黒子っち、嫌いではないなぁ)
 思い出してしまいましたね、黄瀬くんのこと。
 黒子がいつも座る席は、初めて黄瀬とこの店に来た時と同じ席であった。

後書き
黄瀬、本当に黒子っちのこと好きだと思うから。
でも、黒子は火神のもの……なんてね。
2013.4.10

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