ラブラブマンハッタン

 俺はアーサー・カークランド。
 今、俺――と、恋人のアルフレッド・ジョーンズはマンハッタンのビルの一室にいる。何故マンハッタンにいるかというと――
「マンハッタンなんて行ったこともないのに」
 なんて、俺が菊から教わった歌を口ずさんでいたら、
「君、マンハッタン行ったことあるじゃないか。もう忘れたのかい?」
 なんてアルが口を挟むから、
「違ぇよ。これはこういう歌なの!」
 と、反論した。そしたらアルの馬鹿が、
「わかった! マンハッタンでデートしたいんだね! じゃあ行こう! 今すぐ行こう!」
 とか言われて引っ張り出されて――
 まぁ、俺も、国連本部ビルくらいしか行ったことねぇからな。アルの国が独立してから、すっかり足が遠のいてしまったし。
 それに、せっかくのデートのお誘いだしな。心が柄にもなくわくわく浮き立つのが自分でもわかる。
 マンハッタンの夜は綺麗だった。
「見てくれよ、アーサー。俺の自慢の土地を」
 うん、見てる。でも、いちいち自慢が入るのは我慢ならない。
「あ、アーサー。バーナビー・ブルックス・Jrがいるんだぞ」
「誰だよ、それ」
「HERO TVで活躍中のヒーローさ!」
 ふぅん。興味ないし……。
 あのハンサムか。バーナビーなんたらという男は。
 確かに、亜麻色のカールした顔は整った顔立ちによく似合うし。眼鏡も様になってるし。アルフレッドと違って。
 でも、俺はアルの方がいいなぁ……。
 なぁんて考えていると。
 バーナビーが女性に囲まれて困った顔をしている。
 男だから、女を無碍にもできないのだろう。俺も男だからよくわかる。
「今、プライベートですし……」
 本当に困惑しているようだ。
 それにしても、声まで綺麗だ。女性ファンが殺到するのもよくわかる。
 にしても、優柔不断なやっちゃな。こっちまでいらいらしてきた。
「おい。この人はこれから仕事なの!」
 俺はおせっかいだなと思いながら、割り込んでいった。
「まぁ、もしかしてヒーローのお仕事?」
 ヒーローの仕事がどんなもんか知らんが、まぁそうだ、と言っておいた。
「きゃーっ! またバーナビー様のご勇姿が見られるのね!」
 と女性陣が騒ぎ出したので、
「悪いが、これは極秘任務なんだ」
 と釘を刺しておいた。
 すると、辺りは水を打ったようにしーんとなった。
 俺は、(早く行け!)と目で伝えた。
「ありがとう。それじゃ」
 バーナビーはその場を去った。女の子達も散っていった。
 俺も立ち去ろうとしていた。ちょうどその時――
「見たぞ」
 アルフレッドだ。見たって何を? バーナビーを?
 何かアルフレッド、怖い顔してる。何でだ? 俺何もしてねぇぞ。
「アーサーはあの男みたいなのがタイプかい?」
 あの男――バーナビーのことだろう。
「タイプとかそんなんじゃなくてさ……」
 何でそんな話になるんだ? 意味わかんねぇ。
「ほっときゃ良かったんだぞ! 実名でヒーローやってる有名税だしさ! それに、俺はワイルドタイガ―の方が好みなんだぞ!」
 おまえの好みなんて知るかよ。
「ああ、もう! 帰る!」
「おい、待てよ……!」
 俺、この辺の道あまりよく知らねぇんだ。土地勘もないし。
 くそっ! 迷子になったらどうするつもりなんだ!
「だってあいつ、困ってたし」
「ヒーローは助けられるもんじゃなくて、助けるもんなの!」
「いいじゃねぇか、助けたって。ヒーローだって助けてもらいたい時だってあるんじゃねぇの?」
 俺は反駁した。
「君はヒーローをわかってない!」
「知りたかねぇよ! どこ行く!」
「帰るんだってば!」
「俺を置いて行くな!」
 俺はアルのフライトジャケットの裾を握った。
「離せよ!」
「俺が迷子になったらどうしてくれる!」
「あのー……」
 さっきの美声が降ってきた。声の主は、さっきのバーナビーである。
「ば……バーナビー?!」
 アルも目を白黒させている。
「先程はどうもありがとうございます」
 バーナビーは済まなさそうに言った。
「いやいや、なになにお互い様さ」
 俺は気楽に見えるように答えてやった。ああ、アルの視線が痛い……。
「本当に助かりました。こちらもデート中だったもので」
「デート?! 誰とだい?!」
 アルが目を輝かせて訊く。好奇心丸出しだな。
「そちらもデートですか?」
 バーナビーはさらっとかわした。
「ああ。このアーサーにマンハッタンを案内中なんだぞ」
「仲がよろしいんですね」
「見ての通り、ラブラブなんだぞ」
 アルが偉そうに言った。ああ、恥ずかしい……。穴があったら入りたいぜ……。
 嬉しくなんかねぇからな! 断然、そんなことはねぇからな!
「なるほど。僕達も仲が良い方だとは自負してますが……」
「バーナビーの恋人はどんな女性なんだい?」
「女性……?」
 アルの質問にバーナビーは軽く目を見開いて、それからくすくす笑った。
「まぁ、可愛いといえば可愛いですけど」
 この野郎。堂々とのろけてくれちゃって。
「僕、もう行きます。可愛い恋人が待っているもので」
 そしてバーナビーは俺達から離れると、キャスケットを被っている、変な髪型で変な髭の、愛嬌がなくもない中年男に話しかけている。
 あれが……可愛い恋人か。ま、いいけどさ。好きにやっとくれ。
「あや~。俺達と同じ男同士だったんだね。残念だったね、アーサー。バーナビーに恋人がいてさ」
「そんなことねぇよ、それに……」
 ああ、頬に血が上る。
「俺にとってはおまえの方が好みだよ……」
「アーサー……」
 アルが唇にキスを落とした。
「素直な人にはご褒美」
 ちっ。すっかり恋人面してくれやがって。恋人だけど。
 ラブラブマンハッタン。この歌を紹介してくれた菊に、お礼を言いたい気持ちになった。

後書き
ラブラブ米英。確かどこかで宣言したような。ラブラブ米英と仏英を書くって。
兎虎にもご出演してもらいました(笑)。
趣味に走ってたら、スペースオーバーしてた(笑)。
ちょっとアメリカが嫉妬深いかな~なんて。
『ラブラブマンハッタン』好きな曲です。『TOKIO』バージョンがいいなぁ。
次はラブラブ仏英だ!
2011.9.27

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