ロング・インタビュー4

インタビューアーY:皆様どうもー。ロングインタビューのお時間です。今回はなんとあの世に出張です。ゲストは…

ルーザー(以下L):ルーザーです。よろしく。

Y:ルーザーさん。あの世(あ、こっちから見たらこの世だったわね)の住み心地、どうですか?

L:なかなかいいよ。友人も何人か出来たし…

Y:あ、いいですいいです。友達紹介はいいです。アスさんもそっちにいるんですか?

L:ああ、アスか。こっちにいるよ。私のことは、恨んでるみたいだったな。

Y:さもありなん。アスさんと話したこと、あるんですか?

L:ああ、こっちに来た時、ちょっとね。私のことを許すことはできないだろうが、満更話のわからない男じゃ、なさそうだったよ。

Y:ほう。そう思ったのはどうして?

L:何か通じ合う物があるっていうか、今なら、あの男の気持ちもわかるような気がするね。いや、わかるのは彼の置かれた状況と云った方がいいかな。

Y:あの、それはどういうことでしょう。

L:うん。あの男は、以前の私と同じなんだ。善悪の区別のつかなかった頃の私に。だから、純粋な悪になり得る。罪というのがどんなものか、知らないからね。

Y:知らないからこそ、悪たりえるということでしょうか。

L:うーん。説明するのは難しいけどね。少しでも善悪を知ってたら、その時点で純粋な悪ではなくなっていると思うんだ。善悪の区別には、罪の意識が伴うから。悪いことをすると、罪の意識が芽生えるだろう?

Y:うん…じゃなかった、はい。

L:罪の意識がないってことは、それだけ純粋なのかもしれないね。だからって、許されるべきことではないのかもしれないが。純粋ってのは必ずしもいいものではないんだよ。
もっとも、僕がそう云えるのはそれなりの道を辿ってきたからかも知れないけど。
順を追って説明するかい?

Y:お願いします。

L:僕が罪の意識を知ったのは、サービスが右目をえぐった時だった。その…笑っちゃうだろう。僕は「天才」と云われ続けてきたんだけど、そんな、今まで身近に転がっていた感情にその時まで気がつかなかったなんてね。

Y:いいえ。紙一重の方だったと思えばいいですから。(ごめんなさい)

L:(苦笑して)とにかく、罪の意識を覚えた僕は、ずいぶん悩んで、兄さんの所へ行ったんだ。兄さんが罰してくれることを期待してね。わかるかい? 僕は他人に裁いてもらおうと思ったんだ。自分のしたことを。自分の罪を。
だから、兄さんが僕を赦した時は……逆にショックだった。どうして僕を裁いてくれないのかと。
それから僕は戦場へ行こう、と軽く考えた。今から思うと、本当に軽くね。そこでは運命が僕を裁いてくれるだろう、と。

Y:………

L:運命は、裁いてくれたよ。皮肉な形でね。僕はアスに利用されることになった。いや、正確にいうと、僕の体が、だな。

Y:そのことについて、ルーザーさんはどう思いましたか。

L:さあ。青の秘石が何をやりたかったのか、僕達に何をやらせたかったのか、おぼろげながらでしかわからないけど、僕は、それは間違っていると思う。間違っていると思ったから、大声で正そうと思った。
青の秘石が示す以外にも、答えがあると思った。あれは、そんな僕に与えられた、最後のチャンスだったんだ。
最終的には僕はアスを逆利用したということになるのかな。

Y:どうやら、そのようですね。で、間違っていると思うようになった経緯は?

L:ここじゃ、思索にふける時間だけはたっぷりあるんだ。あれからいろいろ考えたんだよ、僕の選んだ道は、本当にあれで良かったのかってね。そこから辿り着いたんだ。
僕は本当は、罪の意識を背負いながら、それでも生きていくべきだったのかもしれない。サービスがその必要もないのに、そうしたように。
けれど、選択はその時その時のもので、間違えたからといって、二度とやり直しのきくものじゃないし。僕は、結果的には自分の選んだ道で良かったと思うよ。

Y:ジャンさんを殺したことについては、ご自身でどうお考えになります? それも結果的に良かったことだと、思いますか?

L:なかなか痛い所をついてくるね。
彼は、いつか僕達に仇なす存在になる、と考えたんだ。やったその時は、正直云って、一族にとっていいことをしたと思ったよ。
今は……やはりジャンくんには悪いことをしたなって思ってる。

Y:ジャンさんは目の光る人が苦手みたいですが、それについて、あの事件がきっかっけかな、とお思いになることはありますか。

L:あるよ。いくら不死の身体と云ったって、あれは痛かったろうな。
あの事件は、そのまま僕の罪に繋がってる。責任も感じてる。

Y:どうしてサービスさんが右目をえぐった時に突然罪の意識を覚えたのですか?

L:そうだな。取り返しのつかないことをしてしまった、という思いからかな。ある筈の物がない、あんなに美しい眼だったのに……と、サービスの傷口を見返す度に思い出すから。

Y:自分の罪が、はっきりと目に見える形で現れたのは、あれが初めてだったんですね。

L:ああ。サービスは、特に可愛がってた弟だったからね、罪の意識もひとしおだったよ。

Y:ハーレムさんの小鳥を殺した時は、何も感じなかったのにですか?

L:そうだね。あっと、今は違うよ。だけど、あの当時はね…
ハーレム、あの子には、可哀想なことをしてしまったと思うよ。しなくてもよかった怖い思いをさせてしまったんだろうね。

Y:可哀想なことを、してしまった、で済まされる問題でしょうか。たとえそれが、その人の生き方に影響を及ぼしたとしても?

L:それは、責められてしかるべきだと思う。ハーレムに、謝れるものなら謝りたい。たとえ、遅きに失していたとしても。当時、どうしてあの子は僕には妙に反抗的な態度をとるのかと悩んだものだったけど、無理もないよね。あんなことをしておきながら。

Y:関心があったからじゃないですか、なんて(笑)
いや、私、本当はハーレムさんはルーザーさんのこと、嫌いじゃなかったと思うんですよね。

L:本当? だとしたら嬉しいな。僕はあの子のこと、愛してたからね。

Y:あ、愛してた?!

L:うん。兄さんのことも愛してたし、サービスのことも愛してたよ。僕の助手だった高松君のことも愛してたし。

Y:(驚いた私がバカだったよ)高松さんが聞いたらさぞお喜びになるでしょうね。
だけど、罪の意識も知らないルーザーさんが、よく人を愛するなんて、できましたね。あ、失礼でしたか?

L:失礼だよ(苦笑)。愛してたんだ。僕なりに。たとえ、その方法は間違っていたにしても。

Y:なぁに。愛し方に間違いなんてありませんよ。間違っていたと思ったら、反省してやり直せばいいだけだし。

L:ありがとう。そう考えると、気が楽だね。

Y:ハーレムさんは時々あなたのお墓参りに来ているみたいですが。

L:ああ。こんな僕のために来てくれるなんて、本当にいい子だよね。そういえば、双子達ももう僕の倍以上の年齢になったんだ。もう、子という年ではないか。

Y:あの、白シンタローさんや、グンマさんも一緒に?

L:来ることもある。この前なんか三人で来たよ。とっても賑やかだったな。

Y:高松さんなんかは?

L:高松君はいつも一人で来るよ。いつも大きな花束を抱えてくるんだ。

Y:ルーザーさんは白シンタローさんが自分の息子だってしってましたか?

L:ああ。息子の体の中にアスの影が入ってるってことも知ってたよ。ここにいてはどうしようもなかったけれど。
まぁ、運命だと諦めていたよ。だから、対面できた時は、嬉しかった。
アスを演じなければならない所は、辛かったけどね。

Y:アスを演じなければならない…て、途中でばれてたじゃないですか(禁句?)

L:まぁ、それはそれとして。他に質問はある?

Y:暁ひさぎ様からメールが届いております。えっと…奥さんのことはどう思われていますか?

L:普段は特に意識していないけど、とても大切な人だよ。
兄さんさんから離れて妻と二人で暮らしていた頃は、とても幸せだったね。ここでもまた一緒に暮らしているんだ。

Y:幸せですか? 今。

L:もちろん!

Y:では奥さんとの馴れ初めは?

L:初めは兄さんの紹介。色々話しているうちに、気が合ったんだ。

Y:ルーザーという名前で、いじめにあったことはありませんか?

L:別に。子供の頃は、同年代の友達があまりいなかったんだ。それに、 僕は兄さんに守られていたからね。
大人達の間では、いろいろ言われていたようだったけど。

Y;どうしてルーザーって名前なんですか?

L:それは親に訊いてください。

Y:パプワ島へ行ってみて、あそこの生物を研究したいと思いましたか?

L:そりゃ、してみたいね。できればまた、高松君と一緒に。
高松君は有能な助手だから、そばにいてくれると、何かと助かるんだ。
あの島にあるのはみんな、興味深いサンプルだね。

Y:生物(と書いてナマモノと読む)も研究したいと思いますか。

L:僕は研究対象を選ばない主義なんだ(笑)。

Y:高松を世に送った人として、チャンネル5の高松の研究をどうお思いになりますか?

L:…そうだね。高松君の能力を見いだし、育てたのは、他ならぬこの僕だ。

Y:多貴様から質問が届いております。「林家ぺー」の「ぺー」はひらがなだと思いますか? それともかたかな…

L:知らないよ、そんなこと。(間)かたかなじゃないかな。何となく。
ひらがなという可能性も、捨て難いけどね。

Y:奥様はどんな方だったんですか?

L:そんなにおしゃべりではないな。見た目は華奢でおとなしいけど、芯の強い人だよ。
案外、剛毅な所もあるかもね。

Y:益田圭三様から質問が届いております。ガンマ団では、どういった役職についておられたのですか?

L:科学や医療の研究に携わっている中で、僕はそれらを束ねる役だったんだ。

Y:つまりトップということに。

L:まぁ、そういうこと。

Y:エーと…ブラコン、又はホモだというのは本当ですか?

L:…………僕はその質問にはいったい何と答えればいいのかな?
………僕は違うと云いたいね。

Y:エイやマンボウを食されたことはありますか?

L:エイはあるよ。マンボウはないな。
マンボウはね、僕の中では食べるものじゃなくて見るものなんだ。
一度海の中で泳いでいるマンボウを見たことがある。壮観だったよ。

Y:早くに亡くなってしまいましたが、心残りはおありですか?

L:たくさんあるね。特に、ハーレムがちゃんと兄さんやサービスと仲良くしているかと思うと、僕は心配で夜も眠れませんよ。

Y:あと、翡翠萌黄さんからのメールから思いつきました。グンマさんとシンタローさんのことについては、どう思われます?

L:あの二人――あの二人のことを考えると、僕はどうしてもふくざつな気分になってしまうね。さっきも云った通り、僕は、全て見ていたのだから。グンマが僕の息子に間違われていたことも、シンタローくんが息子の体にいたことも。
もちろん、彼らは何も悪いとは思わない。だって、知らなかったのだから。

Y:グンマとシンタローさん自体のことは、どう思われてますか?

L:彼らは、いい子だよね。シンタローくんは正義感が強くて、真っ直ぐで、グンマは――くせで、ついに呼び捨てにしてしまうけれど――素直で、純粋な子だね。可愛いし。二人とも、愛されて育ったということがよくわかるよ。これから、息子と仲良くしてくれるといいな。

Y:ここから、また私自身の質問に戻りますけれど、白シンタローさんには、どうなってほしいですか?

L:あの子には、強く、自分の道を真っ直ぐに行ってほしい。これはすでに、息子に直接云っていることだけど。それから、いろんな経験を積んで、いろんなことを吸収していってほしいな。世界は驚きと謎に満ちた場所だ。辛いことや悲しいこともあるけれど、その分新たな発見や感動もある。

Y:白シンタローさんは、あなたとほぼ同じ道を歩まれる――研究者としての道を選ぶようになると思いますが、あなたはそれについてどう思いますか?

L:うーん…それがシンタロー自身の選択だったら、僕は何も云わないよ。ただ、今のあの子は、僕に似させ過ぎている。親子といっても他人なんだから、親の影として生きるのは、ある程度までは仕方ないとしても、ずぅっとそれで行ってしまうのは――一人の存在として生まれてきた意味がないんじゃないか。

Y:白シンタローさんは、親の影から脱しきれていないと?

L:うん。もしかして、僕が現れてしまったことで、かえって彼の行く手を変えさせ、決定づけてしまったのではないだろうか。

Y:そんなに心配しなくても……あ、ほら、近くに高松さんやグンマさんなどの研究者がいたから、影響受けたんじゃないですか?

L:だといいけどね。

Y:もしかしたら、白シンタローさんには、別の道に進まれた方がよかったと、思ってます?

L:実はそうなんだ。だって、その方がおもしろいじゃないか。

Y:なかなか親の期待通りには進まないものですねぇ。でも、ぜいたくな悩みですよ。子供に同じ道を進ませたくて、悩んでいる人もいるというのに。

L:かつてのマジック兄さんの様にね。

Y:話は変わりますが、サービスさんと高松さんが、あなたの息子とマジックさんの息子を取り替えた事件がありますよね。あれについて、どう思います?

L:どうって…(しばし考える)。僕には、彼らを責めることはできない。彼らのやったことは確かに、あまりよくないことかもしれない。でも、それは僕のためにしてくれたんだと思う。少なくとも、よからぬ企みの産物でないことはわかっていたから。二人とも、本当に僕のことを慕ってくれていたし。

Y:でも、複雑ではないですか?

L:それは、無論。でも、まさか僕が出ていって諫めるわけにもいかないでしょう? 「君達、そんなことしちゃいけないよ」って。

Y:出ていけばよかったじゃないですか。高松さん、涙(&鼻血)流して喜びますよ。

L:騒がれたくなかったんだ。それに、どのみち無理だったよ。僕はあの島――僕が戦死した島にとどまっていることしかできなかったんだから。
見つからないように姿を消していたけれど、ハーレムが僕の気配に気づいたようだったね。図太いようでいて、意外とナイーブな所のあるのは知っていたけど、霊感があることまではしらなかったね。

Y:自縛霊ですか。パプワ島の。でも、じゃあどうして諸々のことが見通せたわけですか?

L:幽霊は千里眼なんだ(笑)。

Y:おお。もうこんな時間だ。行かないと。長いこと幽体離脱していると、本当に死んでしまうのでね。最後になりましたが、何か一言ありましたら。

L:そうだね。恐れないで。真っ直ぐに前だけを見据えて。迷ったり、悩んだりしても、諦めさえしなければ、いつだって、必ず、どうにかなっていくんだから。

Y:ありがとうございました。

(当時の原文ママ)

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