ロング・インタビュー2

夕城(以下Y)「ロング・インタビュー、第二弾です。今日のゲストはこのお二方。ティラミスさんとチョコレートロマンスさんです」

チョコレートロマンス(以下C)「今回は、どうぞよろしく」

ティラミス(以下T)「まさか私達までインタビューされるとは、思いもよりませんでしたよ」

Y「私もまさか、あなたがたにインタビューしに行くことになるとは、思いもよりませんでしたよ(笑)」

T「どんな話を訊きたいんですか?」

Y「そうですねぇ……仕事上の苦労話なんぞを」

C「どーぞどーぞ。そういう話なら星の数ほどありますよ」

T「――チョコレートロマンス、ほどほどにな」

Y「お二人が総帥側近になられたのって、いったいいつ頃ですか?」

T「そう…ですね。学校卒業してから、ほどなくだったと思いますが」

C「そうそう、俺たち、シンタロー様の後輩だったんですよ」

Y「では、お二人も士官学校の卒業生なのですね。総帥側近に命じられた時、どんな気持ちでした?」

C「そうだな。嬉しいと云うより、びっくりしたって感じだったな」

T「あの時は、先輩の方々差し置いて、いきなり辞令が降りましたからね。チョコレートロマンスの騒ぎ方なんて、凄かったな。『俺、なんかしたか?!』って」

Y「まるで悪いことでもしたかのようですね(笑)」

C「だって、大した実戦経験もなしにだよ、いきなり総帥のそばで働けるなんてさあ――俺たちにしてみりゃ、マジック総帥ってのは、天の高みにいるような存在でさ、俺たちのどんな所が買われたんだか、わからないけど、それこそ、天にも昇るような気持ちって、あるじゃない。それなのに、(ティラミスを指さして)こいつときたらまるで冷静めかしてるんだもの」

T「チョコレートロマンスのあまりの喜びぶり見てたら、かえって冷めました(笑)」

Y「私、インタビューの前にお二人の話をいろんな方に聞きまして、その中に『ティラミスさんはクールな知性派』 っていうのがありましたけど、それって、チョコレートロマンスさんの存在も大きくないですか?」

T「そうかもしれませんね(笑)」

Y「お二方にとって、マジック総帥とは、どんな存在ですか?」

C「俺はさっきも云ったけど、やっぱり、神に近い存在だったな。俺たちばかりでなく、あの人に憧れて入団したって人、みんなそうじゃないかな。事実、一時期は、あの方なら世界征服も夢じゃないって云われてたし」

T「あの方は、唯一無二の存在でしたね。色んな意味で。神とまでは云わなくても、この後もう、ああいう方は出てこないと思います。私は今でも尊敬していますよ」

Y「マジック総帥が引退なされてからも、お二人は引き続き側近の仕事を続けているのですか?」

T「ええ、まあ、仕事の面では、ね」

C「でも、実質的に側近って云ったら、総帥の友人の、あの4人でしょ。俺達はほんとに仕事面からサポートしてるだけ。アラシヤマ以外あんまり有能とも思えないけど、ま、総帥にとっちゃ、生死の間で戦った仲間ですからね」

Y「見てきたようなことを云いますね」

T「――いなかったくせに(笑)」

Y「マジック総帥が引退してから、お仕事の方は楽になったでしょうか?」

C「楽に……なってもいいはずなんだけどねぇ」

T「やること、やらなければならないことがたくさんありますから」

C「まぁ、本気で何かを変える気なら、一生なんていくらあっても足りないもんだ…って、誰か云ってたな」

Y「新総帥に変わってからの困った問題というのは、ありませんか?」

T「――総帥が替わってから、団の支出が増えました」

Y「と、云うと?」

T「お金がかかるんです。シンタロー総帥の出すプランは。もちろん、前だって支出は多かったんですが、その代わりそれを埋めて余りある収入があったんで。だけど、殺し屋集団でなくなって、団も収入を得る手段がなくなりました。方向転換するつもりなら、それもいいでしょうが、将来の見通しも立ててからでないと―――近いうちに団の経営はたちいかなくなりますよ」

C「そのために、総帥だっていろいろと対策を考えてるんじゃないか。でもまぁ、無理もないよなぁ。総帥が今推し進めているプロジェクトだって、実を結ぶのは、早くて五年か十年後。ヘタすりゃどのぐらいかかるか予測不可能だもんなぁ」

Y「私、この間シンタロー総帥にお話を伺ったんですがお二人は新総帥のことをどう思ってらっしゃいますか?」

C「いい人だと思う。気さくだし、殺すの、殺さないのって物騒な話しないし、俺は好きだな」

T「期待の声も大きいけど、不安もありますね。シンタロー総帥は今はさしたる実績もないし、今ガンマ団は多くの矛盾を抱えていて―――失礼ですが、それがシンタロー総帥に何とかすることが出来るのか、わからないんです。総帥は問題に真正面から取り組むつもりでいるようですが……」

C「じゃ、ティラミス、お前は今の総帥に反対だと?」

T「そうじゃない。シンタロー総帥も、そりゃまだまだ欠点は多いけど、総帥にふさわしい人物だとは思う。ただ、我々二人が揃って『新総帥、万歳!』なんてやってたら、バランスが取れないから。辛いこと云うのも、仕事なんだ」

C「なんだ、俺はてっきり反対派かと……」

Y「なんです? 反対派って」

C「しまった!」

T「チョコレートロマンス!」

C「―――この際何でも話そうぜ。反対派って云うのは、青の一族、または今まで通りマジック総帥……じゃなかった、マジック様に総帥になってもらおうって奴らのことさ。俺はそれを反対派って呼んでる。しかし、マジック様はすでにご自身で引退を表明しておられるしな」

T「マジック様には、コタロー様がおります。シンタロー総帥はコタロー様が成人するまでの代わりだと、云う人もいます」

C「なんだろうね、それ。コタロー様よりか、シンタロー様の方がよっぽど総帥にふさわしいと思うんだけどな」

Y「マジックさんの息子ということなら、グンマ博士もいるじゃないですか?」

C「不思議なことにそういうのはない―――と云いたいとこだけど、少数ながらいる。けど、それだったらキンタロー様の方が多いな。なんたって一度は総帥の座に手を伸ばそうとした人だからな」

Y「なるほど。いろいろあるんですねぇ」

C「でも、大多数はシンタロー総帥に従っていってますよ。また、そうでないと困るしね」

T「反対派があるってこと自体、すでに問題なんだ」

C「過渡期の混乱ってやつさ。ガンマ団は変わろうとしている」

T「それはわかるけれど、その前に団が潰れてしまっては、元も子もないだろう。反対派の中には、過激なやつもいる」

Y「わ…わかりました。しかし、今はもう、敢えて総帥になろうという人も、一族の中にはいないでしょう」

C「まあ…そうですね。グンマ様はもともと、研究してる方が性に合ってるお方だし、キンタロー様は勉学中だし。あと、サービス様は、団に戻ってきたばかり。煩わしいことは嫌いだそうだし――あ、ハーレム様はどうだかわからないな。一見総帥の椅子に興味なさそうだけど……」

T「あの方も大丈夫だと思うけれど。シンタロー様が総帥に就任してからは、色々とサポートするようになったし」

C「ふうん…まあ、お前はハーレム様と仲がいいからな。しょっちゅう話してたり、喧嘩したりしてるじゃないか」

T「あれは向こうが……話しかけられたり、挨拶されたりしたら、答えないわけにはいかないじゃないか。無視するわけにもいかないだろう」

Y「あ、噂をすれば影」

***ハーレムがやってきたのである。「お前らでいいや、後で総帥にこれ渡しとけ」と手紙をティラミスに寄越したり、インタビューアーが張り切って、「いつかあなたの所にも伺います!」と云った、そういうやりとりがあったのだが、本筋とは関係ないのでパス。***

Y「なんですか、その手紙」

T「プライバシーの侵害(笑)。まあ、差し出し人の名前だけなら構わないでしょう。コタロー様からですよ。南の島の」

C「総帥にたびたび手紙を寄越すんだ。総帥の云うことにゃ、コタロー様はとっても字が綺麗で、文章も上手いんだって。自分のことみたいに自慢してましたよ」

Y「シンタローさんのブラコン、まだ治ってないんですか?」

C「ああ―――一時おさまってたようだけど、またぶりかえしたね」

Y「そうですか(何となく嬉しい)。コタロー様(あっ、うつっちゃった)は今、元気で暮らしてるんですね。お父さんと」

T「ええ。私達もよく様子見に行ってるんですよ。仕事で忙しい総帥の代わりに」

C「総帥からは、かえって羨ましがられるけどな(笑)」

Y「コタローくんが幽閉されていた時は、お二人がお世話をしてた、と聞きましたが?」

C「そうだな。身の回りの世話とか、警備とか―――あ、あと検閲」

Y「検閲?」

C「コタロー様に外の世界のよけいなこととか知らせないために、本は限られたものしか許されず、ビデオやテレビは一切禁止。今あるような、インターネットももちろん禁止。手紙類も、シンタロー様からのはもちろん通さない。あの頃は、実際ひどかったね」

T「コタロー様は、そういうことされてるってことに、気が付いてらっしゃったようですけどね。賢いですから」

C「俺達、恨まれてるだろうな」

T「かもね」

C「まあ、罪悪感はあったから、この間コタロー様に謝ったんですよ。そしたら、『仕方ないよ。パパの命令でやってたんでしょう』って答えたんだ。あの歳で、あんなふうに流すことができるなんて、いろんな特殊能力を差し引いても、ただ者じゃないかもしれないね、ありゃ」

Y「あなた方のことも、訊きたいですね。私は息の合ったいいコンビだと見てるんですが、お互いのいい所と、これはちょっとな……と思ってる所を教えてください」

T「どっちを先に答えれば……」

Y「えっと、そうですねぇ―――じゃ、ちょっとなって思ってる部分から」

C「生真面目過ぎる所かな。頭は切れるけど―――ま、切れすぎて俺はちょっと嫉妬してるんだけどさ。あと、歯に衣着せない所も。時々云うことキツイしね」

T「あまり悪いことなんて云いたくないんですが、考え方が甘い、というか、『そのうち何とかなるでしょ』という考え方が、もう少し、何とかならないかな、と思いますね。―――ほんと、こんなこと云いたくないけど、僕が“何とかしてる”部分だって、随分とあるんだぞ、チョコレートロマンス」

C「悪い! 確かにお前に押っつけてる所はたくさんあると思う」

T「短所をつつけばきりがないから、悪い所はお互い、適当に飲み込みながら付き合ってますよ。我慢がならないほどひどいというのは、今のところないですし。まあ、もう少しこうなってほしいなって思う所は、いっぱいありますが(笑)」

Y「じゃ、今度はお互いのいい所を………と、どうしたんですか?」

C「え~と……それ、本人の前で云わないと、ダメですか?」

Y「うん?」

C「や、だって、面と向かって褒めるのって、勇気いるぜ。長い間一緒にいるとさ――喧嘩や、悪い所云い合うのは平気でも、改まって褒め合うってのは―――な。ティラミスがどう答えるかは、訊いてみたい気もするけど」

Y「あ、じゃあ、一人ずつ訊きますか」

T「僕も、そうしてもらえると、ありがたいですね」

C「ちょっと喉乾いたな―――あ、なんか買ってくる?」

T「僕はいいけど、あなたは? 」

Y「私? 私も今はいいや」

C「んじゃ俺、ちょっと席外してるから」

 チョコレートロマンス、去る。

T「あれで気をつかっているつもりなんですよ、あいつ」

Y「ティラミスさんからですね。お聞かせ願えますか?」

T「―――僕はわりと、仕事もそつなく程々こなしていると思うし、周りからもそれなりに評価されているけれど、どうしても行き詰まることがあるんです。仕事だけでなく、いろいろなことに。そうなると、もう一歩も動けない。僕一人だったら、もうとっくに団を辞めていたでしょうね」

Y「それで?」

T「チョコレートロマンスが――あいつが後ろに控えていてくれると思うと、とても心強いんです。時々、言い過ぎたり、行き過ぎだったりする僕を止めてくれるのが、あいつなんだと思います。
あいつは流れを作るのがうまいから。物事でも、人との関係でも。僕が必死になって堰き止めようとしているものを、逆に流れるままにしておいて、その流れに沿おうとしている」

Y「なるほど」

T「さっき、ああは言ったけど、チョコレートロマンス見てると、「そのうち本当に何とかなるんじゃないか」って思えてきてね。そこで、ほっと息がつける。それって、何でもないことのように思うけれど、けっこう重要ですよね」

Y「ティラミスさんの緊張を、ほぐしてくれてるんですね」

T「たとえば、このインタビューを受けたのが最初から僕一人だったとしたら或いは、もっと無味乾燥なものになっていたかもしれない」

Y「それは―――あるかもしれない」

T「あいつには、感謝してもしたりないくらいなんです。僕にとっては――ほんと、本人の前じゃ、こんなことは言えませんでしたね」

Y「これ、後でwebサイトに載せるんですが」

T「いいです。言えてすっきりしました」

 そこへ、チョコレートロマンス、戻ってくる。

C「話、終わった?」

T「今終わったところ。煙草吸いたくなったから、喫煙室の方に行ってるよ」

C「煙草なんか吸うのか、悪いやっちゃ」

T「なに、一本二本くらい。高校生と違うよ」

C「イメージが合わないんだよ」

Y「そうですねぇ」

C「酒だって、一滴も飲みそうにないでしょ。ところが、そういうヤツに限って強いんだ。反対に俺、酒ダメ。すぐ青くなっちゃう」

Y「あれっ、そうなんですか。意外ですねぇ」

C「不思議なことに、みんなそう言うんだ。なんでだろう」

Y「ところで、そろそろさっきの質問の答えを―――」

C「ああ。ティラミスのいいとこだろう。そんなの、いっぱいあるぜ。あいつは、意志が強いんだ。自分の信念は絶対に曲げない。だから、人とぶつかり合うこともあるけど」

Y「どういう所で、そう思ったんです?」

C「そうだな―――コタロー様を閉じ込めた時な、いくらマジック総帥のやることでも、酷すぎると思ったよ。思ったけど、何もできなかったんだ。
その時、あいつ言ったんだ。『どんな命令を下されようと、僕達は自分の仕事をやるだけだ』って。一見冷たそうに見えるけど、言ってる当人の方が辛いことは間違いなかったよ。俺なんかよりよっぽど神経細いヤツだから。
あいつ、指令は忠実にこなしてたけど、逆に幽閉後、コタロー様に対してできる限りの便宜を図ったのも、ティラミスだったんだ」

Y「へぇ……」

C「コタロー様の面倒を見る役目も、半ば自分から志願したんだ。危険があることは、百も承知でね。責任感が強い―――というのとも、ちょっとあてはまらないだろうな。責任感だけじゃなかったろうし。あいつはさ、自分に対しても他人に対しても厳しいけど、ほんとはすごく情が深いんだ」

Y「そうなんですか」

C「あとは、もうちょっと肩の力抜けば、もっと楽に生きていけるとは思うんだけど、真剣になるあまり、ついつい肩肘張ってしまうとことかも、全部ひっくるめていい所だと思ってるから、あいつの肩の力を抜くのが、俺の役割だと思ってる」

Y「確か、ティラミスさんもそんなことを言ってたような……」

C「そうか。ティラミスがいなかったら、俺もやってけなかったから、少しでも役に立ってたなら、嬉しいな」

Y「足りない所は補い合って……ですか。羨ましい。―――あっと。ティラミスさんが帰ってきたようですね。では、ティラミスさんも戻ってきたことだし、この辺で終わりにしますか。今回、けっこう長くなりましたね。お疲れさまでした」

C「いえいえ」

Y「それでは皆様、第三弾でお会いましょう」

T「第三弾のゲストは決まってるんですか?」

Y「あ、初めて質問された(笑)。いいえ全然。リクエスト、お待ちしています」

’99.3.23
(当時の原文ママ)

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