黒子クンとコロコロ鉛筆

 あれは、中学時代、ボク、黒子テツヤの誕生日――。
「黒子……今日、誕生日だったな」
「はい」
「これ、やるのだよ」
「これは?」
「湯島天神のコロコロ鉛筆で作ったオレ特製コロコロ鉛筆なのだよ。これでどんなテストもバッチリなのだよ」
「……どうも」
 ボクは、緑間君の真心が嬉しかったです。
「緑間君――」
 お礼を言おうとしたら、
「黒子」
 と、遮られました。
「……この鉛筆は絶対に粗末に扱うのではないのだよ。粗末に扱ったら――反撃されるのだよ」
「――どういう鉛筆ですか」
 呪いでもかかっているんでしょうか。緑間君のくれた鉛筆だから、それも納得がいく話ではありますが。
 でも、ボクは――
「くれぐれも大事に使いますね」
「ふん……その鉛筆は最後の手段に取っておくのだよ。まずは人事を尽くさねば、な」
「――はい」
 その日、ボクはいろいろな方から、いろいろなプレゼントをもらいました。青峰君からは、
「おら、テツ。お前も大人の階段昇れや」
 と、エロ本を渡されて参ってしまったのですが。しかもちょっと手ずれがしています。ちなみに黄瀬君からは彼自身の写真集。紫原君からはお菓子の詰め合わせ。
「テツヤ」
「赤司君――」
「ほら、テツヤが探していた本。それから家に花束を贈っておいたから」
「どうも――」
 ボクは花は好きですが、どうにも返答に困っていると――。
「ところで、真太郎からは何をもらったんだ?」
 真太郎と言うのは、緑間君のことです。彼のフルネームは緑間真太郎。
「湯島天神の鉛筆で作ったというコロコロ鉛筆を」
「それはいいものをもらったね。きっと霊験あらかただろう。大輝と敦も欲しがるだろう」
「ええ――」
 ボクはその様が容易に想像でき、思わず笑ってしまいました。
 でも、緑間君は言っていました。
「そのコロコロ鉛筆はお前と桃井にしかやらないのだよ」――と。
 ボクは有り難く頂戴することにしました。
「しかし、僕も真太郎との付き合いは短くはないが、彼はなかなかミステリアスなところがあるね」
「……はい」
 それが、ボクが緑間君を苦手としている要因の一つなのですが――ボクなんかに嫌われても、緑間君はマイペースに毎日を送るだけでしょう。
 ――この時、ボクは知らなかった。彼にも相棒と呼べる存在ができるとは。そして、何故かちょっと寂しく思ったことは。
「真太郎とテツヤは似ているね」
「そうですか?」
 意外なことを言われて、ボクは思わず赤司君に向き直った。
「自分の心を読ませないようにするところとか――」
「ボクは昔からこういう性格ですよ」
「真太郎が言ってたよ。嬉しそうに。『黒子のことは尊敬しているのだよ』と」
 そうだったんですか――。
 それはボクにとっても嬉しいことかもしれません。
「だから、君の為にわざわざコロコロ鉛筆なんて作ったのかもしれないね」
 ボクの為に? わざわざ? どうしてでしょう。
 まぁ、有り難いには違いありませんが――。
「あの鉛筆はボクの為に作ってくれたのですか」
 確かめるように独り言をボクは呟く。緑間君は前にもお礼だと言って桃井サンにこの鉛筆あげてたけど――その中の一本をボクは桃井サンから譲り受けたことがあります。
「真太郎は気に入った人間には、ラッキーアイテムやテツヤがもらったような特製コロコロ鉛筆のようなものをあげたがるからね」
「そうなんですか――」
「ああ。伊達に真太郎と将棋はさしてないよ」
「……関係あるんですか? それ――」
 ボクは、ちょっと複雑な気分だった。
 ボクは……正直言って緑間君が苦手でした。彼の3Pを撃つ時のフォームの美麗さや、試合に賭ける情熱、人事を尽くすところなどは正直尊敬していますが。
 ……ラッキーアイテムって、何でしょうねぇ、あれ。
 おは朝に心酔しているところを見ていると、ただの変人にしか思えません。優しいには優しいのですが、その優しさがわかりにくいところもありますし。
 帝光中No.1シューターの緑間真太郎と言えば、ボク達の間では変人の代名詞ですし――。
「テツヤ。真太郎のことはどう思う?」
「え……あ、あの……正直言って苦手です」
「そうか――」
 赤司君は溜息を吐きました。
 どうしてなんでしょう。赤司君は今日はやけに緑間君の話をします。
「テツヤ――君は大輝以外には距離を置いているね。いや、今は大輝にさえ――」
「どういうことでしょう」
「……まぁいいさ。みんな君については一目置いている」
 そうだったんですか。それでも、ボクは、バスケを楽しんでやるだけ。
 ボクのバスケを貫くだけ。
「真太郎がラッキーアイテムをくれるのは、心を開いた者だけだ。お前は真太郎に仲間として受け入れられているんだよ」
 ああ、そうか――。
 ボクがボクのバスケを貫くように、緑間君も緑間君のバスケを貫くだけ。
 その姿は孤高で美しい。
 ボクは緑間君は苦手ではありますが、嫌いではありません。
 でも――緑間君含むキセキの方々はそれぞれ孤独でもあったのかもしれません。彼らの別離の予感を感じ、いつか、キセキの方々がお互いわかり合えるといいとその頃のボクは思っていたのですが。
「邪魔したね。テツヤ。ボクはこれで帰るよ。――ああ、真太郎が来た」
「赤司――黒子」
「緑間君」
 ボクは緑間君の前に立った。このところ急激に、にょきにょきと伸び始めた彼の身長。
「鉛筆、ありがとうございます。大切に使いますね」
「……ああ」
 緑間君は相変わらず無表情でしたが、どこか目に淡い綺麗な光が宿ったような気がしました。気のせいでしょうか。
「入試の時にでも使わせてもらいますね」
「言っておくが最後の手段なのだよ。それまではがんばって人事を尽くすのだよ。人事を尽くさない者には、運命に選ばれるはずもない」
「わかってます」
 彼の人事を尽くす時の潔さは好きです。
 彼は無愛想だけど無神経ではありませんし、ボクはちょっと苦手にしていますが――
 ――悪い人ではありません。
 中学のバスケに携わる一部の人達の間ではキセキは『悪役』の別名みたいに思われていますが、みんな悪い人ではありませんでした。
 ボクも一時、キセキの方々の理念とボクの信念が違っていることを意識し、彼らと敵対していたこともありますが――。
 高校のウインター・カップで全力を出し切れたボクは、やっと、キセキの方々と仲直りができそうです――。

「よう、黒子」
 火神君です。誠凛高校に入ってからの今のボクの相棒。火神大我君。
「お前、この間キセキのヤツらとバスケしたんだって? どうだった?」
「とても、楽しかったです!」
 今は何の苦さもなくそう言える。皆、自分のバスケを、信念を捨てなかったからこそ、わかり合えた。そして、誠凛のチームメイトとも――。
 火神君にとってもコロコロ鉛筆はとても役に立ちましたし、おかげで彼もインターハイ決勝リーグにも出ることができましたし――緑間君にも感謝ですね。

後書き
過去と現在がごっちゃになってます(汗)。
赤司様がとりもちしようとしていますね(笑)。
受験シーズン真っ盛りですね。みんながんばって!
2015.2.15

BACK/HOME