黒子クンの告白

 ボクの隣で、火神君が苦虫を噛み潰したような表情をしています。どうしたというんでしょう。ちょっと訊いてみましょうか。
「どうしました? 火神君」
「どうもこうも――何でこいつがいんだよ」
 ボクの足元にはテツヤ2号。テツヤというのはボクの名前からです。背中は黒くてお腹は白い、耳のぴんととんがった――犬です。
「何でって、ついでに散歩に行こうと思って……」
「オレは、お前と二人きりで話がしたかったんだよ」
 え? 今の……どういうことですか?
「それなのにどうして2号も連れてくるんだよ」
「――仕様がないじゃありませんか。2号が散歩に行きたそうにしていたんで」
「んなもん、後でいいだろ!」
「よくありませんよ。散歩に行かなかったら、2号が可哀想です」
「全く――みんな2号、2号って……お前もどうせオレより2号の方が好きなんだろ?」
「拗ねないでください」
「拗ねてなんか、ねぇよっ!」
 そういうのを拗ねてるって言うんですよ。火神君。火神君はふんっ、とそっぽを向いた。仕様がない人ですねぇ。火神君は。
「でも、2号は悪くありません」
「あー、そりゃ、わかってるよ」
「わかってるならいいです」
「黒子、お前、最近気付いたけど生意気だな」
「別に生意気で言ってるわけじゃありません」
 ボクもちょっと腹が立ってきました。
「火神君て、ワンマンですね」
「あー、どうせそうだよ」
 それから、沈黙が流れた。ボクが何か言おうとした時、火神君に遮られてしまいました。
「なー……黒子」
「……何です?」
「オレとその犬、どっちが大切だ?」
 何ですか? それは。子供の質問ですか?
「比較はできません。2号は単純に愛くるしいと思います」
「ふーん、あっそ」
 火神君、不機嫌そうです。ボクは、火神君の質問が子供みたいで可愛いなと思っていたので、苛立ちは収まりましたが。
「火神君に対する気持ちは、2号に対する気持ちとは少し違うんです」
「へぇ……」
 火神君、何かを感じ取ったのか、少しボクの次の台詞に興味を持ったようです。
「……じゃ、どういうんだ?」
「恋です」
「はぁ? ちょっちょちょっ、まっ……」
「火神君、ボクは君に恋しています」
 気持ち悪いでしょうか……男が男に、なんて。まぁ、いいです。ちゃんと告白したんだから、悔いはないです。
 それに、ボクは火神君を信じています。気持ち悪いと思ったらはっきり口に出すだろうし、こんなことでコンビ解消なんてしないでしょう。
 空の青い闇が夜の黒に移り変わっていこうとしています。近くの街灯に光が点きました。
「好きです。火神君」
 ボクは、火神君の虎を思わせる目を見てはっきりと言ってやりました。すると――。
「ああ、もう!」
 火神君は短い赤髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。
「オレも――黒子、お前が好きだ」
 火神君の目は真剣そのものです。ボクの足元では、ボク達を祝福するかのように2号が、
「わんっ!」
 と吠えました。
「……って、いまいち決まらなかったな、オレ」
「そうですか?」
「そうですかって……」
「カッコイイと思いましたよ。ボク」
「だー! もう! そんな可愛い目すんじゃねぇよ! 黒子!」
「ボクが……可愛い?」
 少し意外でした。火神君がそんな風に思っててくれてるなんて。でも、可愛いですかね、ボク。火神君がカッコイイのは誰でもわかると思いますけど。あ、でも、可愛いところもあります。最初の頃は2号を恐れてましたし。何でも、アメリカで大きな犬に噛まれたとか。――アメリカは怖いですねぇ。閑話休題ですが。
「そのつぶらな瞳にやられんだよ。あの海常の黄瀬だって!」
「黄瀬君は友達ですよ」
「向こうはそう思ってないっつの! あいつ、黒子に手出したらブッ飛ばす!」
「黄瀬君はモテますから」
「でも、あいつのお前を見る目、見たか? いつ食おうか考えている目だぞ。あれは」
「まさか」
 ボクはついつい吹き出してしまいました。
「それから秀徳の緑間な。口で言うほどお前のこと嫌いではねぇと思うぞ」
「緑間君には、高尾君がいます」
「そうそう。オレ、高尾がいて良かったと思うぜ。ライバルが減ったからな」
「ボクは――緑間君は少し苦手です」
「そっか。はっ、ざま見ろ緑間」
「でも、悪い人ではないと思います」
「そうか……それから桐皇の青峰と桃井。青峰はお前のこと気安く『テツ』とか呼ぶんでムカつくし……桃井は、仕様がないとは思うけど」
「どうして桃井さんは仕様がないんですか?」
「ああ? 女が男に惚れんのは当然のことだと思うぞ」
「――ボク達はそんなに変ですかね」
「かもな」
「でも、安心してください。青峰君には好きな人がいるそうです」
「桃井だろ?」
「いえ、何とかいうアイドルだそうです」
「……アイドルね。でも、お前、昔あいつの相棒だったんだろ?」
「はい。ですが、恋心を抱いたのは火神君が初めてです」
「お前なぁ……どうしてそういう恥ずかしいことをさらりと言えるんだよ」
「恥ずかしいですか?」
「ん、でも、お前ってすごいと思う」
「何だかよくわからないけど、ありがとうございます」
 2号が嬉しそうにへっへっへっへっと舌を出しながら笑って(?)いました。
「あー、何でオレこんなにライバルがいるヤツ好きになったんだろうな……!」
 火神君が勝手にライバル視してるだけだと思うのですが。
「皆待ってますよ。帰りましょう」
「あ、ああ……」

「お帰りなさい。黒子君、火神君。遅かったわね。おや?」
 出迎えてくれたカントクが何かに気付いたようです。何だかニヤニヤしています。
「黒子君……もしかして何かあった? 例えば――火神君に告白されたとか」
「えええええええっ?! 何でわかったんだよ!」
「うるさいです。火神君」
「空気が違うからよ。それに、黒子君は微笑ってるし、火神君は照れくさそうだし。私にはしっかり見抜くことができるんだからね。おめでとう、黒子君、火神君。火神君の様子から見ると――やっぱり火神君から告白したの?」
「いえ、ボクの方からです。水を向けたのは火神君からですが」
「誰が水向けたっつーの!」
 それから、ボクはカントク達(人が集まって来たので)に根堀り葉掘り訊かれました。
 ボクの恋心に気付いていなかったのは火神君だけだったようです。これでもチームメイトの方々には隠していたつもりなんですが。
 火神君の恋心もばっちりバレていたようです。知らなかったのはボク達だけみたいですね。
 自分達のことって、案外わからないものなんですね。祝福されたのは嬉しいけどちょっと……複雑な気持ちになりました。

後書き
火神クン、遅くなったけどお誕生日おめでとう!
黒子クン中心の話になってしまいましたが。
火黒ちゃんこれからも仲良くね!
2014.8.5


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