レストラン『コウサカ』にて

「セイ。今更だけどガンプラバトル世界大会優勝おめでとう」
「――おめでとう」
「ありがとう。レイジ。アイラさん」
 イオリ・セイはにっこりと笑った。
「来年は世界大会決勝で競い合えるといいな」
 レイジが手を差し伸べた。セイもその手を取った。
「その前に私があなたをくだしますけどね」
 と、アイラ。
「おう、やってみろ」
 レイジも笑う。
「セイ、レイジ、今度優勝するのはこの私ですからね!」
 アイラは堂々と勝利宣言をして見せた。
「オレも負けねぇからな!」
「僕だって!」
 レイジとセイがほぼ同時に言った。その時――
「あの……」
 と、声がした。三人が一斉に振り向く。ピンクのワンピースを着たコウサカ・チナがそこに立っていた。
「委員長!」
 セイが嬉しそうな声を出していた。
「なんだ。委員長か。しばらく見なかったな。どう? 元気でやってるか?」
「お久しぶり。チナさん」
 レイジとアイラもチナとの再会を喜ぶ。
「イオリ君。レイジ君。アイラさん。うちに来ませんか?」
「え? 確か委員長っちって――」
 チナの実家はレストラン『コウサカ』である。三人は言った。
「――喜んで!」

 レストラン『コウサカ』――。
 チナの両親がやっている店で、美味しいと評判である。
「好きなの頼んでいいですから」
「本当? やっりー! じゃ、オレはこれ」
「私、グラタンがいいわ。それと、サラダ『コウサカ』スペシャル!」
 料理が運ばれて来ると、レイジとアイラはもりもりといつもよりするどくなった食欲で平らげる。
「追加注文! オレ、オムカレーね!」
「私も!」
「イオリ君は?」
 チナがセイに訊く。
「僕はこれでいいよ」
 セイの頼んだのはAランチ。
「そう? イオリ君ももっと食べてもいいのよ」
「ありがと、委員長。それよりもレイジ、もっと遠慮した方がいいんじゃ……」
 このままでは『コウサカ』が食いつぶされるんじゃないかと、セイは密かに心配した。
「金ならあるぜ」
「ううん。今日はお金はいいの。いつかレイジさん達がこの世界に来たらご馳走しようと思ってたから」
「聞いたか? セイ。いい嫁さんじゃねぇの」
「嫁なんて、そんな……」
 セイはそう言ったチナの方を見た。チナもセイの方に顔を向けたのでつい視線がぶつかり合う。チナは真っ赤になって俯いた。
「可愛いな、お前ら」
「か、からかわないでください……」
「そ、そうだよ。……ごめんね、委員長」
「イオリ君となら――構わないけど」
「え? 何が?」
「セイ。ニブイなもう。委員長はお前のことが好きなの!」
 レイジが叫んだ。
「ニブイのはアンタも同じだけどね」
 アイラがもっきゅもっきゅとリスのように食べながらツッコむ。
「え? オレが? どこが?」
「――レイジもセイもニブイところは一緒よね。どうせガンプラバトルのことで頭がいっぱいなんでしょ?」
「アイラ、お前だってガンプラバトル好きだろ?」
「まぁね。でも、この場合の『好き』っていうのは意味が違っててね」
「――それぐらいオレだってわかってるよ」
 レイジが本気の顔で隣の席のアイラをじっと見つめた。
(レイジもアイラさんが好きなんだな)
 それぐらいはいくら鈍いセイにもわかる。でも――
「な、何よ」
 焦るアイラに、
「いや、よく食うなぁと思って」
 と、言うだけで――。
 本当に、不器用なんだから――レイジ。イオリは思った。
「でも、これだけ美味しそうに食べてくれると嬉しいです。それにしても、アイラさん、こんなに食べるのにどうしてそんなに細いんですか? 羨ましいです」
 と、チナが言った。
「エンゲル係数がかかって大変だぞー」
「アンタだって人のこと言えないじゃない。レイジ」
 今、レイジとアイラはイオリ家に寝泊まりしているのだ。しかし、もうすぐ一度帰ろうと思っている。
 早く、もっと簡単にレイジの住む世界と自分の住む世界が行き来できるようになればいい、とセイも願っている。
「セイ。ビルドストライクコスモス、オレにも貸してくれよ」
「うん、いいよ」
 食後のコーヒーを飲みながらセイ達は話し合っている。チナはセイの隣に座っている。そうすると、チナはセイの彼女に見える。
「だーめよ。レイジなんかに貸したら、すぐ壊れるんだから」
 アイラが憎まれ口を叩く。
「――いいよ、壊れても」
「いいの?」
 些かびっくりしたようなチナの声。
「壊れたの修理するのも時間かかるでしょ?」
 アイラは湯気が立っている熱いコーヒーを息を吹いて冷まして一口飲んでから言った。
「その修理するのも楽しいんだ」
「へぇ……」
 セイは根っからのガンプラ職人だ。きっと父親に似たのだろう。
 チナは眼鏡の奥からセイを暖かく見守っている。チナの視線に気づき、セイがチナの方を向くと彼女は可愛らしい笑みを浮かべた。
(委員長……やっぱり、僕、委員長が好きだな)
 そして、チナもセイのことを憎からず思っている――というのは、考え過ぎではないのだろう。セイはそう感じる。
「委員長も新しいガンプラ作ってるんだよね」
「うん。すっかりハマっちゃった」
 チナは嬉しそうだ。レイジが言った。
「へー、あのクマみたいなのか?」
「うん。今、バージョンアップしている途中なの。またキャロちゃんとも対戦したいな」
「私もチナさんと対戦してみたいな――ここのコーヒー、美味しいわね」
「ありがとう、アイラさん」
 レストラン『コウサカ』は、暖かい雰囲気に包まれていた。セイは、この日のことも忘れたくないなと思った。レイジ、チナ、アイラ――優しい仲間達。
 けれど、毎日が楽しいのは、やっぱりガンプラのおかげ。

後書き
ガンダムビルドファイターズが終わってからしばらくが経ちました。
ガンダムビルドファイターズ(通称ビルファイ)を私達は毎週手に汗握りながら楽しく観ていたものです。
この話をビルファイを教えてくれた風魔の杏里さんに捧げます。
2014.7.17

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