ことえしにっし

「だ……ダメだべ、お兄ちゃん……急に何か書けなんて言われても」
「だって、皆が人気絵師kotoeのことを知りたがっているんだぜ。それに、原稿料も高かったしな」
「やっぱりお兄ちゃんは変わらないべ……」
 絵はいっぱい描いてるけど、そんなに文章なんて書いたことないからどうしたらいいかわからないべ……。
「取り敢えず何か書くんだ!」
「お兄ちゃん……」
「日記でもつけるような感じで」
「オラ、日記書かないだ」
 でも、今回何かは書かないといけないような気はする……。
「わかったべ。取り敢えず書くべ……」

 オラ、橘ことえ。
 趣味は絵を描くことだべ。
 デジタル絵とか描くようになったのは、お兄ちゃんが、『桃乳戦士モーモーピンク』の絵を描くことを勧めてくれたのがきっかけで……。
 
「うう、三行で終ったべ……」
 やっぱりオラには文章を書くことは向いてないべ……。

「ダメそうか? ことえ」
「うう……」
「わかった。――おーい! 青梗菜先生ー!」
 お兄ちゃんが山田青梗菜先生を呼んだ。
 スターン!
「何でしょうか?」
「ことえが悩んでいる。助けてくれ」
「……わかりました。困っている女性を放ってはおけませン。それに、ことえサンは僕の恩人とも言うべき人ですしね」
「うう……ありがとう、青梗菜先生……」
「何を悩んでらっしゃるので?」
「雑誌にコラムを書くことになったんだべが、どう書いていいかわからなくて……」
「そう言う時はね、大切な人にメッセージを書くつもりで執筆するといいンですよ」
「でも、オラ、文章なんてろくに書いたことねぇだ! イラストならいくらでも描けるけど……」
「困りましたネ――イラストを描く時にはどうやって描いてますか?」
「その――頭の中のイメージで……」
「それを文章化すればいいンです。ただ、慣れないと大変かもしれませんが。大事なのは、肩の力を抜いて、文章を書くことを楽しむことです」
「でも、オラ、上手く書けなくて……」
「上手く書こうとしなくていいンです。――誰もあなたの文章に期待はしてませンよ」
「うう……」
「ちょっ、ちょっと先生……!」
 お兄ちゃんがうろたえる。
「僕は文章をたつきとして生きている人間です。文章を書くのはお手の物ですが、絵は正直上手くありませン……。でも、ことえサンも創作者でしょう? あなたには絵があるではありませンか」
 そうだべ……オラには絵があっただ……。
 絵を描いていたおかげで、たくさんの人と知り合えただ……。
 青梗菜先生の言葉で、オラ、ちょっと心が軽くなっただ……。
「わかったべ。青梗菜先生。オラはオラの書きたいことを書くべ!」
「元気になりましたネ。ことえサン。それでいいンですよ。――でも、これを機に文章の勉強をすることも悪くはないかもしれませンネ」
「だべなぁ! 文章を書くことを楽しめたら、楽しみが何倍にもなるべ。ありがとう! 青梗菜先生!」
「文章を書く時の辛さは僕にもわかります。何度スランプに陥ったことか……。でも、それを救うのは、誰かの作品だったり、相手の何気ない一言だったりするんですよネ。がんばってください」
「うん、オラ、がんばるべ!」
 オラの文章が載る雑誌、姫星さんも見てくれるべか……。
 姫星さんは大事なオラの親友。ミユユさんやゴローさんも……。
 それから、お父さんやお母さん……お兄ちゃんも。
 お兄ちゃんがモーモーピンクの絵を描くことを勧めてくれなかったら、今日のオラはなかったべ。
 いろんな人との繋がりが、いろんなチャンスを与えてくれたべ。
 だから……みんな大好きだべ!
 本当はイラストで語りたいし、その方がオラの得意分野だべが……。
 文章もなかなか悪くないもんだべなぁ。
 あ、そうだ。これ書き終わったら、店の手伝いしなくては。
 モーモーピンク、お兄ちゃん録っているところだべか……。
 お兄ちゃん、こっちでもモーモーピンクが観られることになって喜んでるべ。良かっただなぁ。
 それに、コミケに行ったこともオラの人生を変えたべ。あんなにアニメ好きな人達が集まっているところだと知らなかったから、最初はすごいびっくりしたべ。
 でも……楽しかったべなぁ。
 東京でも、話せる人ができて……。
 でも、あのぼったくりというやつだべか? ぼったくりメイド喫茶はちょっと怖かったべ……。お兄ちゃんが何で行ったか今でも謎だべ……。
 コミケで会った榊庵さんが、オラのことをラノベを出してる会社のえらい人に推してくださったと聞いた時、すっごく嬉しかったべ。
 ――出会いって大切だべなぁ。ちなみに初めてのラノベの仕事だったべ。新鮮だっただ。
 オラのお父さんが経営しているみやまえ食堂にもアニメの好きな人達が集まってくれるようになったべ。
 ちょっとはもうかるようになっただろうか……。
 オラ、やっぱり東京よりこの村の方がええだ。
 そりゃ、東京進出の話も出てるけど……。
 んで、お兄ちゃんはすごい乗り気だったけど……。オラはこの村から出たくねぇだ。
 お兄ちゃんは相変わらず、
「声優と結婚する」
 と言ってたけど。
 でも……いつかは東京に行くんだろうか。お兄ちゃんと一緒に?
 このオラがか? 東京に? ちょっと考えられねぇべなぁ……。
 そりゃ、お兄ちゃんの夢、叶えてあげたいけど、オラにだってオラの意見があるべ。
 最近はインターネットがあるから、わざわざ東京に出て行かなくともええと思うけどなぁ……。素朴村に憧れてるという人も大勢いるだ。
 そう! この素朴村の自然はこの村だけのもんだべ!
 オラはこの村にずっと住んでてもええだ。実家のそば屋継いでもええだ。
 お兄ちゃんには素朴村は物足りないみたいだべが。
 オラは、東京には年に数回行ければええだ。
 姫星さんの歌も、オラのラノベのイラストも好評のようで嬉しいだ。
 だって、今までオラの絵がお金になるなんて思いも寄らなかったから。オラ、姫星さんの歌にもイラスト描かせてもらってるだ。お兄ちゃんにも協力してもらったべ。
 そういうことがあるから、お兄ちゃんには何か恩返ししたいと思ってるだ。やっぱりお兄ちゃん、まだ東京行きたいんだべか……。
 姫星さんも素朴村はええとこだって言ってくれたべが……。
 姫星さんは、東京から素朴村に引っ越して来たべ。体の弱いお母さんと。
 すごい、優しくて綺麗な人だべ。
 オラ、いい人に恵まれて幸せだべ。姫星さんやミユユさん、ゴローさんもええ人だべ。
 以前、モーモーイエローが死んだ時、ゴローさんのことを傷つけて、悪いことしたと思ったべ。
 ……ゴローさんはイエロー一筋の人だったべ。でも、きっと許してくれたんだべなぁ。その時オラ、自分の描く絵が人を傷つける怖さも知ったべ。ゴローさんも今は嫁モンスに夢中になっているけれど。
 それから、モーモーピンクという作品や友達のおかげで萌えというやつがわかっただ。わかったというか、感じたというか……。萌えって人それぞれだべ。
 オラの友達――みんな、オラがピンチの時に助けてくれたべ。村の人達もわざわざ駆けつけてくれたべ。ネットのお友達もたくさんオラを勇気づけてくれたべ。
 最後はどんちゃん騒ぎになったけど、楽しかったべ。
 東京も素朴村も楽しいべ。
 東京の思い出もオラにとっては大切なものだべ。
 東京には東京の。素朴村には素朴村の良さがあるべ。
 オラ、さっきは東京より素朴村の方がええ、と書いたけど、東京にもええ思い出がいっぱいだから……本当は比べられないかもしれねぇべな。
 これからもオラ、がんばって絵を描くべ。
 楽しみにしているみんなのために。そして、オラ自身のために。
 なんか上手くまとめられなかったべ。これでええのかなぁ。後で青梗菜先生に見てもらうだ。

後書き
神えしにっし終わってしまいました~。好きなマンガだけに残念。
まぁ、残念がっていても始まらないですね。ちょっと古いネタですが、お蔵出しを。
2016.7.8

BACK/HOME