ガンダムOOコラカティ小説『幸せのコーラサワー』

 カティ・マネキンとパトリック・コーラサワーの出会いは最悪であった。
 遅刻してきたコーラサワーを、カティが殴ったのだ。しかも二発も。
 だが、それでコーラサワーに変なスイッチが入ったらしい。
「いい女だぜ……」
 確かにカティは美人だ。化粧気のない顔に、実用本位の眼鏡。軍服もきっちり着こなしている。しかし、着飾ったらさぞかし美貌の貴婦人になって人目をひいたであろう。
 カティは、コーラサワーに惚れられてしまった。それはもう、鬱陶しいほどに。

 それからというもの、カティはコーラサワーに纏わりつかれることとなった。
 ある時は、
「大佐(カティの階級)、食事持って来ましたー」
 ある時は、
「この戦いに勝ったらキッスしてください」
 またある時などは、
「大佐ー。ディナーに誘いに来ました」
 と、家にまで押し掛けてきた。白いタキシードに赤い薔薇まで持って。

 カティは、額に手をやりながら、大きな溜息をついた。
「大佐、どうかなされましたか?」
 忠実なカティの部下が訊いた。大柄な男である。
「――何でもない。下がっていい」
「はっ!」
(コーラサワーもこれぐらい扱い易ければいいのだがな――)
 今のカティの頭痛の種は、AEUのエースパイロット、パトリック・コーラサワーのことであった。
 どんなに追っ払っても、犬のようについてくる。
 見た目は悪くないし、女にもモテるのに、何故自分を。自分ももう若くはない。
(物好きなやつだ――)
 しかし、それにしても何とかして欲しい。新たな若い女に惚れるかして。
 コーラサワーは、自分を諦めるつもりはないらしいが。
(初めての対ガンダム戦でも、生き残っていたな……あのガンダム相手に入院だけで済んだとは……悪運の強い奴だ……)
 神は、最終的には強い者でも、賢い者でもなく、何の取り柄もない者を選ぶ、とどこかに書いてあった。
 コーラサワーも、エースパイロットとして活躍しているのだから、それなりに実力はあるのだろうが。
(神は寛大だ。私だったら千回は殺しているぞ。あの男)
 そして、カティは眉を寄せ、もう一度深く息を吐いた。

 だが、宇宙での戦闘での時――
「すいません。大佐ー。負けちゃいましたー」
 と、緊迫感のない声でコーラサワーに謝られた時、
「全く……心配をかけさせて」
 と、安堵した自分がいたのが不思議だ。

 そんな彼につけられた仇名は、『不死身のコーラサワー』
 何度もガンダム戦に参加しても、決して死ななかったからである。
 大切な仲間をガンダムに殺された者達からへのあてつけだと思うのだが……当の本人はへらへらしている。
「貴様……どうしていつも生き残るんだ?」
 今は、自分を追ってアロウズに入隊したコーラサワーに、カティが尋ねた。
「もう何人もの人間が宇宙の塵となって消えていったというのに」
「ああ。それはですねぇ……俺には大佐への愛があるからですよ。大佐にキッスしてもらうまで死ねません!」
(訊いた私が馬鹿だった……)
 カティはまた頭が痛くなってきた。

 激しい戦いが続いた。
 コーラサワーもいよいよ死地に赴くこととなった。
 その時、音声のみで、
「大好きです、カティ」
 という声が聞こえた。
 コーラサワーが、カティのことを『大佐』ではなく、『カティ』と名前で呼んだのは初めてだった。
 その時、ある想いがカティの全身を稲妻のように閃いた。
(私も大好きだ。パトリック)

(貴様は不死身のコーラサワーなんだろう? だから、死ぬな。私の為に……私を好きだと言うのなら……生き延びろ!)

 そして――
「そろそろお時間です」
「わかった。今行く」
 カティは、白いウェディングドレスに身を包んでいる。この時ばかりは化粧もちゃんとしている。極上の美女だ。

 ――コーラサワーが待っていた。
 彼は生き残ったのだ。『不死身のコーラサワー』という、通り名のままに。
「綺麗だよ。カティ」
 コーラサワーの言葉を、カティは初めて素直に受け入れられそうだと感じた。

 教会の外は、ライスシャワーの嵐。
「俺、パトリック・コーラサワーは、『不死身のコーラサワー』改め、『幸せのコーラサワー』になりましたー」
 コーラサワーがにやけた顔で宣言した。
 その後、カティによるブーケトス。
 コーラサワーは、カティの耳元で囁いた。
「死ぬまで護衛しますからね、大佐」
「貴様に護衛されるなら、死ぬことはないだろう。おまえは不死身だからな。それに私も――『不死身のコーラサワー』だ」
『カティ・コーラサワー』になったカティが言った。
「――一生離しませんからね、カティ」
 カティは、赤く頬を染めながら、こう答えた。
「それはこっちの台詞だ」
 ――皆は、美人の嫁をもらったコーラサワーを羨ましがったり、囃したてたり。
「ほんとに幸せになれよー」
「尻に敷かれるなー」
「大佐を泣かすなよー」
「貴様の友人には、面白い奴らが多いな」
 カティは皮肉交じりに呟いた。
「人徳っすから」
 コーラサワーは、へらっと笑った。
「貴様の生き死にが人徳の問題なら、貴様はとっくにこの世の人間ではないな」
「ひどいですよ。カティ」
「それに、結婚も――」
「それ以上言わないでください――カティ」
 コーラサワーは自らの唇で、カティの唇を塞いだ。
 人々はそれぞれ拍手をした。口笛を吹く者もいる。

 彼らは、世界で一番幸せな夫婦となった。
 後は――生まれてくる子供が夫に似ないことを祈るばかりである。
 この年で子供二人の面倒は見きれんからな、仕事もあるし――と、カティは思った。カティにかかれば、コーラサワーも大きな子供なのである。

FIN

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