パプワ小説『こんにちは、Gです(はあと)』

 俺はG。勿論本名ではない。コードネームだ。俺が決めたわけじゃないが。
 今日、特戦部隊に配属になった。
 そこのハーレム隊長とやらには会ったことはないが、いい噂はあまり聞かない。
 まぁいい。ここガンマ団では強ければいいのだ。弱肉強食の世界である。
 俺はハーレム隊長の部屋に行ってみた。
「Gです。遅れました」
「ほう……しょっぱなから遅刻とはいい度胸だ。気に入ったぞ」
 部屋の調度品はほどよく整理されていて小奇麗になっている。しかし、金ぴかが目立つのは気のせいだろうか。
 この部屋の主も趣味が悪いだろう。まだ顔は見ていないが。
「……頭を上げろ」
 俺はこれからの主人の言う通りにした。そうしなければ生きて行く術がないから。
 金髪の豪奢な髪、段々になっている黒い眉毛。切れ長の目。
 それ以上に、オーラが格段に人と違う。
 人の注目を集める何か。それは、金色のたてがみのような髪型や、おきて破りのようでいて整った顔立ちのせいばかりではないであろう。
 つまり……。

 私好みのイイ男ッ!

 ん? 今、何か聞こえなかったか? 気のせいか?

 ともかく俺は、この主人に全てをあずけてみたくなった。それは……。

 だって私、この人に恋しちゃったんだもん(はあと)。

 え? え? 俺か? 今のは俺が心の中で喋ったことか?
 それにしても、何と女性らしい……いやいや。俺みたいなのが女の子喋りなんて、気味が悪いだけだ。
「どうした?」
(きゃっ! 渋いお声)
「どうも、しません……」
「んじゃー、今回の作戦は……」
 そんな声も、俺の耳には届かなかった。

(あー、恋しちゃった)
 黙れ。偽物の俺。
(あらぁ、これが私の本当の姿よ。昔のことを思い出してごらん……?)
 俺は、もう一人の俺が言う通りに過去の記憶を手繰り寄せた。
 あっ、そういえば!
 子供の頃の俺は鏡を見ていた。ふりふりの綺麗なドレスを着て。
 その服のメーカーも覚えている。ピンクハウス。母親の服を借りたのだ。
 そこから先は覚えていない。母が何か叫んだような気がするが。
 きっと、面白くない記憶だろう。
(ねぇ、女の子の服着た時、気持ち良くなかった? 別の人間になれた気、しなかった?)
 う……それを言われると……。
(男の子見た時、ドキドキしなかった?)
 それは何度か……いやいや、そんなことあるわけがない。
(でも、隊長見た時、魂奪われたでしょ)
 それは、まぁ……。
 外見もいいし、実力もまぁあるのだろう。曲者揃いと評判のガンマ団特戦部隊を束ねているくらいだから。
「おお、そうだ。隊員に紹介しておかないとな」
「そっすよー。みんな待ちくたびれてたんすから」
 亜麻色の髪とラベンダー色の瞳を持つ男が言った。
 イタリア人か……この軽いノリは。
「みんな。今日から俺達の仲間になるGだ」
 宜しくな、と、隊長がどんと俺の肩を叩く。心臓が飛び出そうだった。
「あ、おGちゃん? 俺、ロッド。よろしく。イタリアから来たのよん」
 やはりイタリア人か……。
 隣の底意地の悪そうな黒髪の吊り目の男は……。
「私はマーカー。国籍は中国。宜しく頼む」
 そう言って、にやりと笑った。顔はいいのに、一癖ありそうな人物だ。
「そして俺はハーレム隊長様様だ。英国人だから紳士だぞ」
 いや、そうとも限らないと思うんだが……。
(そうよね! そうよね! ハーレム隊長が世界一ィィィィ!)
 うるさい。何だ? この声は……。
「頭痛いのか? G」
 ああ。心配そうな声を俺に投げかけないでくれ……。
「仕方ない。今日のミッションは中止だ」
「ええ?! マジっすか?! 楽しみにしてたのに」
「文句言うな! それは俺だって同じだ。けど、病気の隊員放っておくわけにはいかんだろ」
(ああ、隊長。私の健康を気遣ってくれてるの? 優しいわ。優し過ぎるわ)
「それに、はっきり言って、今日片付けなきゃいいって戦いでもないしな」
「はっきり言い過ぎです」
 マーカーが諭した。
 この男が一番部隊の中ではまともらしい。
「医務室行ってこい」
「えーーーーーっ?!」
 金切り声を上げたのはロッドだ。
「新入りにあの医務室は酷では……だいたい隊長、アンタあの医務室に行くのが自分だとしたらどうするんすか?」
「死んでも嫌だ。逃げて帰る」
「でしょう。だからGも……」
「お……私は大丈夫ですから……」
「本当かー?」
「本当です」
「だ、そうだ。いっぺん怖い思いしてこい。肝が冷えるぞ」
 マーカーがおちょくる。
 怖いと言っても医務室だ。大したことはあるまい。
 実際恐ろしいことなど何もなかった。ただ、話をしてきただけだ。
「そうですか……もう一人の自分がねぇ……」
 ドクター(高松という名前らしい)は、カルテに何事か書き込んでいた。ドイツ語だったので、少し俺にも読めた。
『もうひとりの自分。女性人格? もう少し様子を見てみよう。それ以外は異常なし』
 薬をもらって帰って来た。
「おう。無事に生還してきたな」
 ハーレム隊長が拍手しながら言う。
「ええ、まぁ……」
「高松の野郎、加減しやがったな」
 ああ、そんな微笑み浮かべないでください。ワイルドでますます気に入りそう――というか、薬、薬……。
「ここじゃ何だな。まだ顔が赤いぞ。俺らは作戦会議してるから、おまえは庭でも散歩してこい」
 隊長に促され、俺は外に出てみた。風が気持ちいい。
 ぶらぶら歩いている間に、街に出てしまったらしい。俺は、ある店に気付いた。
『PINK HOUSE』
 俺は通り過ぎようとして……戻ってきて店内に入った。

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