こんなヤツに恋するなんて!

 1-B、火神大我! 『キセキの世代』を倒して俺が日本一になる!
 だろう? 黒子。黒子テツヤ。
『日本一にします』
 名前はなかったけど、あのミステリーサークル、おまえが作ったんだろ?
 おまえの心意気、しかと受け取ったぜ!

 今日もハンバーガーショップで黒子と向かい合っていた。
 そういや、気がつきゃこいつとここにいたな。
 なんか、それが当たり前みたいになったけど。黒子がじっとこっちを見ている。
「――んだよ」
「何が?」
「どうしてこっち見んだよ」
「火神くんを観察してました」
 う……お……。
「――おまえってヘンなヤツだな」
「どうも」
 確かに黒子は変わっている。バニラシェイクをすすりながら人間観察なんてしてるし。
 でも――今は俺のことを観察しているんだよな……。
 何となく、そう、何となくだけど、悪い気はしないっつーか……。
 はっ、黒子に毒されてんな。俺。
 確かに黒子は可愛いけれど……いやいや。そんなこと考えている場合ではない。
「俺なんか観察して楽しいのかよ」
「楽しいですよ。どのぐらいでハンバーガーの山がすっかり消えるのか」
 ちっ、その程度の興味かよ。
「おい、黒子」
「何ですか?」
「食い終わったら1on1やろうぜ」
「いいですけれど――これ飲んでからですね」
 相変わらずマイペースなヤツだなぁ。
 でも、それが黒子の魅力でもあるんだからな。
 こいつは影でいることを楽しんでいる。
 変わったヤツだ。男と生まれたからには主役を望むのが当たり前だろうと思っていたのに。
 ――いいや。
 こいつは影の主役だ。
 目が合うと――
 こいつはにこっと笑った。
 ち、畜生! 可愛過ぎじゃねぇか!
 ――て思う俺も俺だ。
 なんでこんなにこいつに魅せられているんだ?
「黒子――」
「何ですか?」
 なんでそんなに可愛いんだ。その台詞は飲み込んだ。
「なんでそんなに小せぇんだ」
「火神くんが大き過ぎるんですよ」
 こともなげに黒子は言った。
 いや、同年代の普通の男と比べても、黒子はあまり大きくない方だと思うがな……。
 だけど、俺が体格いいのは本当だ。
 アメリカでも他の選手と遜色ないくらいだったし。
 黒子は――弱いけど強い。
 矛盾してるって? けど、他にいいようがない。
 こいつの強さには匂いがない。無色透明なんだ。だから、いまいち強さがつかめない。
 こいつは影だ。光が強くなければ、影もまた濃くならない。
 俺は、こいつを存在感のある影にする為にがんばらなくてはならない。
 いや、存在感がある、というのは間違いかもしれない。だってこいつは――。
 こいつは目立ってはいけない存在なのだから。
 俺はこいつとの為にも主役という光でなければならない。『キセキの世代』を倒すとはそういうことだ。
「行きましょうか? 火神くん」
 黒子が立ち上がった。

 そういえば、前にもこいつと1on1やったなぁ。
 その時はこいつ死ぬほど弱ぇと思ったけど……。
 もしかしたらあれは演技だったんじゃないかと思わせるところが黒子の怖いところだ。
 外はもう暗くなっていた。コートに向かう道すがら、俺は言った。
「なぁ……おまえ、本当は弱くなんかなかったんだよな。実はすげぇヤツだったんだよな……」
 どんな強いヤツも敵わない……。
「そんなことありませんよ」
 と、黒子。
「僕は影だから……光である君が強いから活躍できるんです」
 嬉しいこと言ってくれるじゃねぇの。
 それにしても、なんかこいつといると落ち着かねぇな……。ただ歩いているだけなのに。
 なんか胸がどきどきして頭がぼーっとなって……。
 これってもしかしてやっぱり――
 恋?!
 アメリカでも男が好きなヤツがいて俺も告白されたことがあるが、その時は気色悪いとしか思えなかった。
 でも、こいつは――こんな気持ちは初めてだ。
 実際現役女子高生のカントクより可愛いと思ってしまう時だってあるし。
 ああ、俺は変態の仲間入りだ!
 一人でいちびっていると、
「どうしたんです? 火神くん」
 と黒子が訊いてきた。
 ああ、そんな真っ直ぐな顔で俺を見ないでくれ!
 俺は逃げてしまった。
 オナペットも最初は別の顔でも最後の方じゃ黒子に変わっていることが何度もあった。
 その時はそんなもんなんだろうなとおもってたけど――俺は気付いてしまった。
 俺は黒子のことが――
「火神くん!」
 足を止めた俺に黒子が追いついてきた。
「早くコートに行きましょう」
「黒子……」
 おまえ、嫌じゃないか? こんな、おまえに欲情する俺、嫌じゃないか?
 そんなこと訊けるわけないんだけど他のヤツに知られたら生きていけねぇ。
「どうしました? 火神くん」
「何でもねえよ。行こうか」
 頬がぽっぽっと熱くなる。バスケをやったら少しはこの熱が下がるだろう。
 コートに着くと、俺はドリブルして力いっぱいのシュートを決める。
「ナイシュッ」
 黒子が笑顔で言ってくれた。
 やっぱり俺達はバスケで語り合う人種なんだ。さっき感じた熱ももう治まった。
 ――こんなヤツに恋するなんて、と思ってもいたもんだがな。
「あんがとよ」
 俺達はハイタッチをした。

後書き
今度は火→黒です。両片思いv
2013.3.26

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