こんなの初めてだろ? ※12禁注意 シンドリア国宮殿にて――。 「アリババくん、一緒に酒でも飲もう」 うっ、ついにこの日が来たか……。アリババは固まってしまった。 なんとか逃げ出せないだろうか。 「何をしてるんだい? さぁ早く早く♪」 「うわーっ!」 ジャーファルさん、マスルールさん、アラジン……モルジアナ、助けてくれ~っ!! わたわたと足掻きながら、アリババはシンドバッド――シンドリア国の王――に連れて行かれた。 いつもならジャーファルが止めるのに今日に限っていない……。 酒の席に付き合うのはやぶさかではないが、シンドバッドは酒癖が悪い。酔っ払ったら何をするかわからない。 (アラジ~ン! 助けてくれ~!) しかし、アラジンは肝心な時に現われて来なかった。 シンドバッドは酒に酔うと女だけではなく、男にも手を出すことがあるという、男にも女にもモテモテの羨ましい――いやいや、節操のない国王であった。普段は素晴らしい、尊敬するに足る王様なのだが。 こうなったら酔い潰れて寝るのを待つに限る! アリババはそう心に決めた。 「あっはっはっは。面白いね、アリババくんは」 今日のシンドバッドは上機嫌だ。これなら助かるかも……と、アリババは思った。 アリババは差し出された葡萄酒を飲んだ。ちょっと安心したのだ。 ――それがいけなかった。 シンドバッドがいつの間にかアリババの隣に座っていた。 「な……なんすか?」 「いやぁ、アリババくんは見れば見るほど魅力的だねぇ。アラジンが惚れるのもわかるよ」 「そりゃどうも……」 アリババはシンドバッドに長椅子の上で押し倒された。 「な……!」 その流れのままシンドバッドにキスされる。アリババも初めての濃厚なキスに、酸欠になりそうだった。 「アリババくん、今日は君に相手してもらってもいいかな」 何ですと?! 「いや、あの俺は……」 「昨日ジャーファルと大喧嘩したんだ。そしたら口もきいてくれなくなってさぁ……」 「あ……ジャーファルさんとそういう関係だったんですか」 やっぱり。 「今日に限ってマスルールもいない。寂しいよ、俺は」 「じゃ、じゃあ、誰か女の人呼んできましょうか? きっと相手は喜びますよ」 「私は君がいいんだよ。アリババくん」 シンドバッドの笑みにアリババの背中はぞーっと粟立った。 「いや、俺じゃシンドバッドさんを悦ばせられないですよ、きっと。だって俺童貞だし、あなたは七海の覇王ですし」 「そんなこと関係ない! 私が優しくリードしてあげるから、ね」 冷や汗が流れる。怖い。 確かにシンドバッドは手慣れてはいるだろう。 いつかはいい女をぐちゃぐちゃにしてみたい、という欲望を持っていたアリババだったが、まさか自分がぐちゃぐちゃにされる側になるなんて思ってもみなかった。 (助けて~!!) アリババは目いっぱい心の中で叫んだ。 シンドバッドは器用にアリババの服を脱がす。それこそ、喜色満面といった感じで。 「アリババくんはこんなの初めてだろ?」 「あ……は、はい……」 葡萄酒で酔ったのだろうか。呂律が回らない。 「ふふ。実は酒に媚薬を混ぜておいたんだ♪ 明日の朝には効き目が切れてるから大丈夫だよ」 嬉しそうに言うな! だからジャーファルさんにフラれたんだ! シンドバッドはまたアリババの唇に、首筋に、胸の珠飾りにキスをした。 その後、アリババは見事散らされてしまった。 「アリババくーん」 「アラジン……」 宮殿に帰ってきたアラジンに、アリババは抱き着きたくなったが我慢した。 ああ~、俺、もうアラジンに顔向けできねぇよ~! 「どうしたんだい? アリババくん」 アラジンは真っ直ぐな目でこちらを見る。 ああ……! そんな目で俺を見ないでくれ……! 俺はただれた人間なんだ、どうせ、どうせ。 シンドバッドはテクニシャンだった為、体の痛みはそれほどでもないが……心が痛い。 「どうかなさったのですか?」 アラジンに同行していたモルジアナが訊く。 ああ……俺の最初はアラジンかモルジアナって決めてたのに……。 アリババも結構多情な男である。 モルジアナ……もう俺は穢れている。他の男と幸せになってくれ。 アリババは、後ろを向いてくうっと悔し涙を流した。 「おう、アラジン、モルジアナ。頼んだ食糧買ってきてくれたか?」 「はい」 「ありがとう」 シンドバッドは食糧を運んできたアラジンとモルジアナを労う。それはアリババの耳にも届いた。 あれ? もしかして、二人が昨夜いなかったのって……。 シンドバッドさん、確信犯? アリババが涙を滲ませたまま振り向くとシンドバッドはにこやかにアラジン達と話している。いつぞやの領主より質が悪い。 「やはり餌食にされましたか……」 ジャーファルがうんざりした顔で現われた。 「ジャーファルさん!」 やっぱり知ってたんだ! この人! 「私も止めに入りたかったんですが、具合が悪くて寝込んでしまって……それに昨日はあの人に会いたくない気分でしたし」 「ジャーファルさんまでぐるだったんですか!」 「結果的にそうなりますね。すみません」 いや! いやいやいや! 今更謝られても意味ないから! それに……。 「ジャーファルさんだけが悪いわけじゃないですから」 「すみません……」 ジャーファルは心底済まなさそうな顔をしている。 いつもあの王様の相手をしているのか……大変だな……。 アリババはちょっとジャーファルに同情した。 モルジアナが傍に来てくんくんと匂いを嗅いだ。 「――シンドバッドさんの匂いがします」 バレた?! アリババは内心気が気でなかった。 だが、そこはそれ、シンドバッドは潜りぬけて来た修羅場はアリババとは比べ物にならない。七海の覇王である男はぬけぬけとこう言い放った。 「ああ。昨日、私は彼と添い寝をしたんだ」 「――それだけですか?」 モルジアナはじっとアリババを見つめた。 「うん。そうなんだ……うん」 「なんか怖い夢を見たとか言ってね。まだまだ子供だね。アリババくんも」 シンドバッドさん、怖いのはアンタです。実在しているだけに夢の何万倍も怖い。 「そうだったんだー。ねぇ、アリババくん。今度は僕が添い寝してあげるね」 アラジンの笑顔が眩しい。ああ、胸が痛む……。 「アリババくん」 シンドバッドはこそっと耳元で囁いた。 「ゆうべの君は素敵だったよ。また相手してくれるね。――断ったらアラジン達に言うから」 シンドバッドは鼻歌を歌いながら自室に向かう。アリババは密かに戦慄した。 ジャーファルが見かねたのか彼もまたアリババに同情したのか――アリババの肩に優しく手を置いた。 後書き とうとう書いちゃったよ……シンアリ。 でもベースはシンジャ。 マギにまで手を伸ばして、私はどうするつもりなんだろう……。 2013.1.18 |