アリババの恋バナ

※12禁注意

「つーわけでだ、これからアリババの脱童貞会議を行う」
 と、霧の団の幹部ハッサンが仕切っている。
「おまえらなぁ! 勝手になぁ! 余計なお世話なんだよ!」
 ぎゃあぎゃあ言ってるのは霧の団の首領アリババであった。
「何でだよ。俺達のリーダーがチェリーボーイじゃ格好がつかねぇだろ?」
「そうそう」
 ドレッドヘアーのカシムとザイナブが頷き合う。ちなみにハッサンもドレッドヘアーだ。
 ちなみにザイナブはハッサンの女だ。カシムはどうだかよくわからないが、この男にも恋人がいるらしい。
「アリババ。おまえちゃんと男だよな」
「え……うん、まぁ……」
「じゃあ話ははえぇや」
 そう言うとカシムはアリババを押し倒した。
「ぎゃー! 何すんだー!」
「決まってんだろ? 童貞卒業だよ」
「やめな、カシム」
 ザイナブがカシムを止めた。
「ちっ」
 カシムが舌打ちをした。
(助かった……)
 アリババはほっとする。
「それだとアリババが処女を失うだけで童貞を喪失することにはならないだろ」
「あ、そっかー」
(こいつら……本気で言ってんのか……?)
 アリババはカシム達を殴りたくなってきた。
 仕切り直して――。
「なぁ、アリババ。恋とかはしたことないのか?」
「えっと……」
「ないない。こいつ恋に夢見過ぎているもん」
 アリババの台詞を遮ってカシムが笑った。
「ハッサンがいなけりゃあたしが相手になってやっても良かったんだがねぇ……アリババ結構いい男だし」
「なにー! それは許さんぞー!」
「ほらね」
 ハッサンとザイナブは喧嘩ばかりしているがそれなりにラブラブらしい。時々隣の部屋から聴こえてくる悩ましい声からもそれがわかる。
「でもさ、少しはいいな、と思っている奴とかいるんだろ?」
 ハッサンの疑問に一番に思い出したのは――
(モルジアナ)
「え? あ? その……」
「この反応はいるな、確実に。女が」
「ま、片思いかもしんないけど」
「そうみたいだな。でもとにかく、アリババもあっちの方は大丈夫だとわかって良かった良かった。後はドーンと強気で押し倒せ! さっきのカシムみたいにな!」
 ハッサン達が豪快に笑った。
「俺が相手になってもよかったけどなー」
 カシムは本当に残念そうだった。
「なぁ、アリババ。気になるのは一人だけかい?」
 ザイナブが訊く。
「う……」
 もう一人の相手。それは……。
(アラジン)
 アラジンも可愛い。女の子だったら恋していたかもしれない。アリババはロリコン趣味なのかもしれない。
「わはは。動揺してるぜー。こいつ」
「ほら。やっぱアリババは気が多いんだよ。あたしの言った通りだったろ?」
「そうかそうか。まぁ、がんばれ」
 ハッサンが大きな手でアリババの肩を叩いた。
(ぐぇっ!)
「初めてでも失敗しない方法、教えてやるからな」
「ハッサン!」
 ザイナブがハッサンをたしなめる。
「じゃ、俺達はもう寝るよ」
「おう」
「おやすみなさーい」

 夜も更けて来た。
「あん……アンタ……」
「ザイナブ……」
 くそっ。隣であんな声出されちゃ眠れねぇよ……。
 確かに今は決まった相手はいないけど、こっちは健全な男子なんだから。
「ああもうっ!」
 アリババは飛び起きるとカシムの部屋に向かった。
「カシム、いるか?」
 もしカシムもお楽しみの最中だったら、アリババはしばらく立ち直れなかったかもしれない。
 カシムは一人で酒を呷っていた。
「カシム。一人か……良かった」
「おっ。俺の寝込みを襲いに来たのか?」
「んなわけねーだろ。ちょっと話したくてさ……」
「話? おめーの女のことか」
「ん。まぁ……」
「おまえが惚れたんならさぞかしいい女なんだろうな」
「まぁな……」
「こいつ……隅に置けねぇな。んで、どっちがより好みなんだ?」
「え?」
「気になる女が二人いるんだろ? おまえ」
「え? その……一人は女っつーか、その……」
「はっきりしろよてめー……はっ、まさか! おめー男が好きなんじゃねぇだろうな!」
「ま、一人は少年なんだ……」
「へぇー。今流行りの男色ってヤツか。童貞のくせに進んでんな、おい」
「い、いやぁ……」
 アラジンは声変わり前だし、何といっても可愛い。長い髪を三つ編みにして、女の子と言っても通用するぐらいだ。
 だから、男色と言っていいかわからない。もし男が好きだったらカシムに押し倒された時にもっと気を引くように抵抗する。
 尤も、カシムも途中で止められることを見越してやったんだろうけれど。
「わかったよ。おまえの恋、全力で応援してやる。――おまえも飲め」
 カシムが葡萄酒を勧めた。
「いや、俺は今日は――」
「いいから。俺は嬉しいんだよ。おまえが恋の相談相手にハッサンでもザイナブでもなく、俺を選んでくれたことにな」
「あー、あの二人ね……」
「なんだ? ヤッてんのか? あの二人」
「うん、まぁ、なぁ……」
 カシムの表現にアリババは少し照れた。
「ははは、しようがねぇやつらだなぁ」
「うん。でも、ちょっと羨ましくもなってきたな」
「そうだな。俺も女いるけど――あそこまで続いたことはねぇな」
 酒を酌み交わしながら友達と恋愛の話をする。話相手が昔馴染みのカシムであったことがアリババにも嬉しい。
 こんな話をするようになったんだなぁ。俺達。
 アリババは朝になるまでカシムと語り合った。そして――いつの間にか酒瓶をいくつも空にしてしまっていた。

後書き
カシアリです。
マギ7巻のおまけマンガから妄想を広げてみました。
うちのアリババはいい加減多情ですが、それでもシンドバッドには負けます(笑)。
しかし、『霧の団』って何やってんでしょうねぇ……。
2013.3.11

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