上手な子供の育て方

「おーい、アーサー! また遊びに来てやったぞー!」
 バーンとカークランド邸の、両開きの立派な扉を開けて登場したのは、隣の国のフランシスである。彼はどういうわけかしょっちゅうここに遊びに来ているのだ。
 アーサー・カークランドには兄もいるが、滅多にこの家にやって来ない。仲でも悪いのだろうか。
 だから、実質フランシスが、友達で兄代わりであった。
「あら。フランシス坊ちゃま。ようこそおいでくださいました」
 質素な服装のメイド達がフランシスを出迎えた。
「ボンジュール。お姉様方」
 そう言ってフランシスは投げキッス。
 第二次性徴もまだで、女の子みたいな外見の少年、フランシスがそれをやると、あまりの可愛さに、相手は黄色い声を上げるのであるが、流石にカークランド家のメイドは教育が行き届いている為、はにかむような微笑みを浮かべるに留まった。それに、フランシスは、この家に来る度、いつもこの挨拶をやっているのである。
「アーサーいる?」
「アーサー坊ちゃまなら、お部屋で遊んでおりますよ」
 そう言って、メイドの一人が、アーサーの部屋へフランシスを連れて行った。
「おー、アーサー。元気そうだな」
「うー」
「ははは、おまえ、相変わらずちっちぇえな。そのくせ眉は極太だしよ」
「うーっ」
 フランシスは、アーサーのまだ小さい手や足をつかんでいる。
「おまえ、大きくなったら俺の子分になれよ」
「あーあー」
 アーサーは心底嫌そうな顔をしているが、フランシスは気にしない。
「ねぇ、メイドのお姉様。アーサーはまだ言葉を喋りませんか?」
「片言ぐらいはお話なさるようになりましたが」
「そうか……。早くアーサーと話ができるようになりたいな」
 アーサーの緑色の目が、きらりと光った。それは光の加減かもしれないが。
「びゃ……びゃ……」
「あら、アーサー坊ちゃまが」
「おっ、アーサー。なんか言うか?」
「――びゃーか……」
「びゃーか……って、『バカ』のこと?」
「ち、違いますよ、きっと」
 メイドも慌てて取り繕おうとした。
「いや。こいつは俺のことを確かにバカと言った」
 フランシスは怒ったわけではない。むしろ、『おもしれぇヤツ』との感想を持ったのだ。
 しかし――お兄さん、育て方間違えたかな――遠い目でそういう想いを抱いたのも事実だった。
 ああ、神様、俺に上手な子供の育て方を教えてください……。
 まだ自分も子供のくせに、フランシスは思った。
 彼にもいろいろ考えるところがあるのである。
 アーサーのツンデレは、この頃から始まっていたのだ。
「フランシス坊ちゃま……お気になさらないでくださいね」
 付き添っていたメイドが言ったが、この程度でめげるフランシスではない。翌日も、平気な顔でカークランド邸を訪れるのであった。

後書き
子フランスと子イギイギです。
子フランスがイギイギの面倒見てたんだとしたら……と思ってこの話を書きました。
「びゃーか」とチビリスが言っているのは、本家キタユメ様からです。
「びゃーか」って何?! 「びゃーか」って! 最終兵器だよ! 萌え死にしそうだったよ!
私はあるフレーズを書く為に話を拵える、という癖があるのですが、今回は、『お兄さん、育て方間違えたかな』という文章です。
しかし、私の書くフランシスはいつも可哀想なのは、気のせいではない……でしょうね。でも、フランシスはタフなので大好きです。
2010.1.22

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