黄瀬クンと緑間クン

 荻原家の近くの公園――。
「はい。緑間っち。おしるこ」
 黄瀬涼太が緑間真太郎に彼の大好物のしるこの缶を渡す。勿論、あったかい。
「どうもなのだよ」
「いえいえ」
 黄瀬は、自分はコーラを飲んでいる。
「ふ……」
「何スか? 緑間っち。急に笑ったりなんかして」
「別に……」
「嘘っスね。緑間っち、嘘つくのヘタっスもん」
「いや……おかしなもんだと思ったのだよ……」
「オレが優しいのがそんなにおかしいんスか?」
「いや。……まぁ、それもあるのだが――オマエまでこの公園にやってくるとは思わなかったのだよ。だが、確かに笑い事ではないな。オレは荻原に酷いことを言ったのだよ」
 緑間の顔が途端に厳しくなった。
「仕方ないんじゃないんスか? 緑間っち、弱い者いじめするヤツ大嫌いだったっスもんね。ショーゴ君ともよくそれでモメたっスよね」
「灰崎か……ふ」
「何また笑ってんスかぁ! 人が珍しくいいこと言ったと思ってたのにぃ!」
「灰崎なら、虹村先輩のところにいたのだよ」
「は?」
 黄瀬は、自分の目が点になっているのではないかと思った。
「灰崎のヤツ……虹村先輩のところに居候になってて……夫婦みたいに見えたのだよ」
「夫婦って……ショーゴ君と虹村先輩がっスか?」
 緑間がこくんと無言で頷いた。
「あーっはっはっ! 何それ! 緑間っち、ジョーダンキツイっスよ~!」
「オレは嘘は言わん」
 緑間が真顔で宣言する。
「はーっ、笑った笑った。てか、嘘っスよね! あの二人じゃ釣り合わないというかなんというか……」
「だから嘘ではないと……かなり似合いの二人だったのだよ。見ればわかる」
「あーっ! じゃ、オレもいつか虹村先輩のところに強襲かけてみようかな。灰崎っちは何してたんスか?」
「――料理をしていたのだよ。時間がなかったからご飯は食わずに来たのだよ。なかなか食わせそうだった」
「それって嫁としては桃っちよりユーノーなような……灰崎っち、幸せそうだったっスか?」
「ああ――ていうか、灰崎っちって……」
「えー、虹村センパイの嫁サンにケーイを表さないわけにはいかないっしょー」
「……かえって馬鹿にされたような気がするのだよ。取り敢えず人の名前の後に『~っち』をつけるのはやめるのだよ」
「えー、オレ超ショックー」
「ふん」
 緑間はおしるこを啜る。取り敢えず灰崎は無事更生したらしい。
「戻らないっスか? 緑間っち」
「嫌なのだよ」
「ガンコっスね」
「うるさい」
「高尾っちもよくこんな我儘男に付き合ってられるっスね」
「――そうだな」
「えっ?! 認めちゃうんスか? そこは否定するとこっしょ! 昔の緑間っちだったら絶対そうするっス」
「――そうだな」
 緑間の表情がどことなく緩んでいるような気がした。
「緑間っち……アンタさぁ、オレの目が変って言ったことあるけど……今の緑間っちの目の方がよっぽど変っス」
「だろうな」
「ひゃー、それも認めちゃうわけ」
「少なくとも自覚はしているのだよ。視力も下がったしな」
「視力関係ねぇっス!」
「荻原のことは……黒子と桃井がいるから大丈夫なのだよ。オマエも戻っていい」
 ふぅん……何だかんだ言って緑間っち、黒子っちのこと認めてるっスねぇ……。黄瀬はコーラを口に含んだ。
 ――青峰の名前が出てこなかったことは、気にはなったが。
 だって、昔は青峰のことを尊敬していた黄瀬だったのだから。
「赤司っちと紫っち、結局来なかったっスね」
「当たり前だろう。赤司は京都、紫原は秋田にいるのだからな」
「まぁ、あの二人が来ても、素直に荻原っちに謝るかどうかはわかんないっスけどね」
「赤司は謝らんと思うし、紫原に至っては『謝る』という概念があるかどうかさえ疑わしい」
「ひっど! それ、紫っちに対する暴言っスよ!」
「ヤツなら気にしないだろう。お菓子を与えれば大人しくなる」
「……緑間っちの言う通りかもしれねっスけど~……」
「あ、しるこがもうないのだよ」
「人の話聞いてるんスか?」
 緑間はそれには答えずにしるこの缶を高く放ってゴミ箱に投げ捨てた。
「ふぇ~。3Pシュートだぁ~。はずさないっスね、緑間っち」
「当たり前だ。オレのシュートは落ちないのだよ」
「でも今のは完全なる『ムダな成功』でしたね」
「うぐっ……!」
 今の黄瀬の台詞は緑間の痛いところを突いたようだった。
「すまないっス! 緑間っち! あ~、こんなムダにセンサイな男の扱い方、高尾っち以外わからないっスよね~!」
「オマエはもう黙れ、黄瀬……」
 その時、道の向こうから見慣れた姿が三つ。
「きーちゃーん、ミドリンー、おーい」
 桃井さつきが手を振る。彼女は元帝光中バスケ部のマネージャー。青峰と同じ桐皇学院へ進み、バスケ部の情報収集の為に働いているのであるが……。
「なぁ、桃井」
「何? ミドリン」
「何故、オマエも荻原の家に来たのだよ」
「だってぇ、私にも他人事ではないでしょ? 青峰君がバカやったせいで一人の男の子が道を踏み外しかけてると言ったらさぁ……」
「はは、オレにも紫っちにも赤司っちにも一応責任はあるんだけどさぁ……」
 黄瀬が苦笑しながらぽりぽりと頬を掻く。
「おーい、走るなよ。さつき」
 青峰大輝が仕方なさそうに言う。黒子テツヤはそんな青峰を見て微笑んだ。
 しばしの間、五人で歩いたが、みんな何も言わなかった。黒子にも、さっきの微笑みがもうない。
 トイレに行ってくる、と言い置いて青峰は戦線から外れた。そこから少し進んだ後、黒子が言った。
「僕もちょっと行ってきます」
「何? 黒子っちもトイレ?」
 と、黄瀬。
「いいえ。青峰君の本当の目的地に」
「あ、私も行く」
 桃井は付き合いが長いからか、青峰の行きそうなところに思い当たったらしい。片恋の相手、黒子と一緒にいたいから、というのもあるかもしれないが。
「いえ、桃井さんは帰ってください。黄瀬君達と合流もできましたし」
「ううん! 私も行く!」
「はぁ……」
「連れてってやれば? 黒子っち」
「ですが、桃井さんは女の子ですから……夜道は危ないかと」
「きゃー。テツ君から心配してもらった~」
 これはとめどないっスね……黄瀬はふとおかしく思った。
「黒子っちがいれば大丈夫っスよ。ね、黒子っち」
「でも、変な人とかが現れたら……僕、勝ち目ありません。火神君にも力こぶないと言われました」
「青峰っちに少しでも早く会えればいいことっスよ、ね☆」
 黄瀬は女殺しのウィンクを黒子にした。黒子はどう捉えたのか、「はぁ……」と呟いた。
 桃井がきゃ~、と目を輝かせながら叫んだ。
「きーちゃんサンキュー! で、きーちゃん達はどうするの?」
「――オレは先に帰っているのだよ」
 緑間の答えに、
「オレもっス~」
 と、黄瀬も同意した。
「んじゃ、お疲れ~」
 黄瀬は黒子達に手を振った。
「いいのか? 黄瀬」
「ん? だってオレ、明日学校あるし。黒子っちと桃っちがいれば大丈夫と言ったのは緑間っちでしょ~」
「……まぁ、後日また様子を見に行くのだよ。もし荻原がまた母親に暴力を振るうようだったら……」
「ふるうようだったら?」
「荻原をリングに向けて撃つ!」
「あーっはっはっはっ! 荻原っちは黒子っち達が可愛がっている犬と違うんですよ!」
「その話はもうするな」
「わかった、わかったっス! ――緑間っち、家族思いっスからね。家庭内暴力も許せないんでしょう?」
「――……ああ」
 緑間は不承不承ながらも頷いた。口は悪い時もあるが、決して冷たい男ではないのだ。
「緑間っち~。そんな緑間っちがオレ好きっス~」
「抱き着くな! 重い!」
「緑間っちって男にモテるんじゃないっスか? 紫っちも『いつもアイスくれるから好き』って言ってたし」
「あれは紫原が勝手に食うのだよ!」
「高尾っちも緑間っちのこと好きでしょ? ま、オレも本命は別にいるんスがね。それはそれとして、緑間っちも好きっスから!」
「えーい、重い、離れろ~!」
 黄瀬と緑間はお互いにじゃれ合いながら(黄瀬にとっては完全にじゃれ合いである)ここから最寄りの駅へと向かった。
 青峰から電話がかかってきたので、ちょっと話をして切った後、黄瀬が「あ」と声を上げた。
「赤司っちと紫っちのメールのこと、荻原っちに伝えるの忘れてたっス」
「あ……!」
 どこがどうとは言えないが、やはりどこかが抜けている黄瀬と緑間なのであった。

後書き
荻原君シリーズ『すまない・・』の番外編です。
黄瀬と緑間のコンビが好き。
2014.1.31


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