黄瀬クンのちょっと変わった恋模様

 今日、また黒子っちにメールを送ってみる。
 と言っても、あちらからは必要な時以外返事は来ないんスけどね。
 でも、来て欲しい時には必ず返ってくるんスよね。返事。
 あ~、黒子っち好きだ~!
 でも、今のオレには他にも好きな人がいて……あ~、これって浮気っスかね。
 それは笠松幸男センパイ。海常バスケ部のキャプテン。オレのチームメイト。
 ああ~、笠松キャプテンに『黄瀬ーーーっ!!』って呼ばれてしばかれたい!
 姉ちゃんには、
「リョータ……アンタって見事に女の子には淡泊ね」
 と言われる。……まぁ、言い訳はしないよ。
 確かにオレはちょっと女の子には冷たいかもしれない。だって女ってバカだもん。
 オレに対してだって……オレがモデルで顔が良いからモテるだけであって……うっとうしいことこの上ない。モデルの仕事は楽しいんだけどね。
 あいつらはオレの中身なんてどうだっていいんだよ。
 ちょっと優しくすれば自分に気があると思ってさ。カン違いもはなはだしいっつの。ま、邪険にしてもしょーがないから適当に相手してる。
 オレは黒子っちや笠松センパイの方が好きっスね。彼らには中身があるっスもん。顔だって可愛いし。
 あ、オレも見た目で判断してるって? 顔は可愛いに越したことはないっス。でも、やっぱり中身が伴わないとね。オレはゼイタクかもしれないけど。
 さーて、そろそろ笠松センパイが呼びに来る頃かな。
「黄瀬ーっ! フラフラしてんじゃねーっ!」
 って 。
 笠松センパイは真面目で熱血っスから。眉も男らしい太眉だし。
 黒子っちとはタイプが違うけど、共通点はあるような気がする(黒子っちの眉が太いって意味じゃないよ)。
 もうすぐ来るかな~。楽しみだな~。
「あー! 笠松センパイ!」
 え? どこどこ?
 オレはつい探してしまった。
「ギャーッハッハッハッ! バッカでぇ~!」
 そう笑ったのは……。
「藤倉っち!」
「おっす。久しぶりだなぁ。黄瀬」
 藤倉っち――藤倉理奈は女では珍しくオレが尊敬している人間だ。男言葉も藤倉っちにはぴったりだ。――あ、そうそう。オレ、尊敬する人物には名前の後に『……っち』をつけるんスよね。何度か会って話をしている。
「何しに来たんスか?」
「バスケの研究」
「は?」
「この後秀徳行って誠凛寄って、桐皇回って、京都で洛山訪ねて、秋田の陽泉に足を伸ばす予定」
「はぁ……」
 秋田まで行くんだ、藤倉っち。てゆーか、見事にキセキつながりじゃないスか。誠凛は違うけど。
「研究熱心スね」
「うん。やっぱり西浦の野球部のヤツら見てるうちにどうしてもね、何かしなきゃいけないなと思うし。俺、好きなヤツがいるし、随分足繁くあいつのところに通ったけど、やっぱ俺にはバスケだなと思って」
 藤倉っちは埼玉の西浦の何とかいうピッチャーに恋してるんだって。ライバルもいるけど、そいつのことも憎めないんだって。
 藤倉っちと恋って結びつかないんスけどね……一見。
 ああ、でも、藤倉っちの恋はからっとしてるから、らしいと言えばらしい。あんまり女々しくないから。
 恋バナする時のその様子が嬉しそうで――藤倉っちを見てると、恋も悪くないかなって思える。
 オレが恋してんのはもっぱら黒子っちと笠松センパイっスけどね。
 どっちが好きかなんて言えない。どっちも好きだ。
 ……と言うと、笠松センパイに蹴られること確実だけどね。
 でも、笠松センパイには欠点があるんスよ。
 そう――女好きという欠点が。
 まぁ、笠松センパイも思春期だしぃ? 女の子が好きでも一向におかしくないけど。つーか、それが自然なのかもしんないんスけど。
 女なんてつまらんっスよ。笠松っち(一度、笠松っちって実際に呼んだら怒られた)。
 オレ、笠松センパイには、森山センパイみたいになって欲しくないっス。極度の女好きであることを除けば、森山センパイもそう悪くはないんスけどね。イケメンなのにてんでモテないけど。
 ――森山センパイのことはいいや。
「しかしなぁ……オマエ、相変わらずだなぁ」
 藤倉っちがトートツに言う。オレは訊いた。
「何が? どこが?」
「笠松サンが好きなトコ。いや~、久々にウケたわ」
「黒子っちも好きっス」
 オレは力を込めて宣言した。
「いや、それ自慢になんねぇから。黒子ってあれだろ? やたら影の薄いヤツ。一度会ったし試合も見たけど……確かに大したヤツではあるわな」
「藤倉っち……」
 オレはじぃんと来た。
「黒子っちのすごさ、認めてくれているんすね!」
「おう、まぁな。自分の影の薄さ、生かしているところがすごい。でも、マネはできんなぁ」
「藤倉っちは目立ち過ぎるっスもんね」
「まぁな」
 藤倉っちが胸を反らした。
「オマエだって目立つ方だろ」
「まぁ……ね。だってオレ、天才っスもん」
「自分でゆーか、自分で」
 オレが藤倉っちと一緒にじゃれ合っていると。
「黄瀬ーーーー!!!」
 後ろから蹴りを入れられた。この懐かしい感触は――
「笠松センパイ!」
「てめぇ、女とくっちゃべってて遅刻とはいい度胸だな……!」
 笠松センパイ、もしかして妬いてる?
 センパイはもうとっくにユニフォームに着替えていた。
「オレは早く行きたかったんスけど、藤倉っちに捕まっちゃって」
「あっ、黄瀬てめっ、んなろ! 汚ぇぞ! 大体、オマエは笠松サンを待ってたじゃねぇか!」
「オレを? どうして?」
 笠松センパイがきょとんとしている。ああ。このニブさは罪っすね。可愛いけど。藤倉っちが答える。
「んなもん、笠松サンが好きだからに決まってるだろ?」
 ああ、そこはオレが言いたかったのに……。
「黄瀬が? オレを?」
「そうそ。どんなに好きかっつーとな……」
「笠松センパイならどんなにしばかれてもいいと思うところっス!」
 藤倉っちにバラされる前に、自分からカミングアウトしてしまおう。
「うわー、引く……」
 笠松センパイはオレから離れようとした。その様が本当に可愛くって――。その時オレは自分がMに目覚めたことを知った。
「笠松センパイー! ナニ離れようとしてるんスかぁ!」
 叫んでオレは笠松センパイに抱き着く。
「うわー! うわうわ! 抱き着くな! 離れろ! 鳥肌立ってきたろーが! 死ね!」
「ナニ言ってんすかー。『死ね』は言い過ぎっスよー。それにオレが死んだら女の子が悲しむっスー」
「オマエこそなーに言ってやがんでぇ。女嫌いのくせに」
 藤倉っちが口を挟む。そのことについては違うとはっきり言い切れない。それより藤倉っち……オレが女嫌いだってよく見抜いたもんスね。
 確かに経験はあるしテクニックも上等と評判だけど、はっきり言って女を相手するのは暇つぶしかオナニーよりはマシだと思っている時か――だもんな。
 黒子っちや笠松センパイが相手の時は……想像しただけでイケたもんスけど。ていうか、この二人とオレ、マジ一緒に寝たことないっスよ。両方とも絶対いつか恋人にしたい相手なのに!
「ああ、藤倉さん。こんにちは」
 オレを引き離した笠松センパイが藤倉っちに挨拶する。ちぇー。笠松センパイったら、藤倉っち相手の時は笑顔だ。このムッツリ女好きが!
「おう。練習見てていいか?」
「ああ。藤倉さんが見てたら、森山のヤツも喜ぶと思う。――オラ、黄瀬。オマエもくんだよ!」
 藤倉っちは森山センパイとか、なんとかいう西浦のピッチャーとかとくっつけばいいと思う。――オレは笠松センパイに制服ごと引っ張られながらそう思った。

後書き
おお振りの夢小説に出てくる女丈夫のヒロイン、藤倉理奈を出演させてみました。或る意味越境コラボ?(笑)
笠松センパイも黒子っちも……うちの黄瀬君はいっぺん馬に蹴られた方がいいと思う(笑)。それと、黄瀬君は実は女はあんまり好きではないんじゃないかと思う。モテるのに……。
2013.12.18

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