金の針
18禁なので、見たい方だけスクロールしてください。
































































「ちょっと待ってください。虎徹さん」
 そう言って、バーナビーは金色の針を取り出した。 
 何か嫌な予感がした虎徹は、
「バニ―ちゃん……その針、どうする気かなぁ」
「じっとしていてくださいよ」
「いや、だからどうするんだって!」
「――痛くはないはずですから。さぁ、脚を開いて」
 こういう時のバーナビーに逆らうと、怖いことになることを知っているので、虎徹は仕方なく、大人しく脚を開いた。
「そう、それでいいんですよ」
 そう言ってバーナビーは針の糸を通す方を虎徹の鈴口に宛がった。
「いきますよ――虎徹さん」
 バーナビーは金の針をゆっくり沈めた。
「ひゃっ!」
 未だかつてない感覚に虎徹は叫んだ。
 バーナビーが金の針を丁寧に動かし始めた。
「ば……バニーちゃん……はぁぁっ!」
 ――そして。
 虎徹は果てた。快感で頭が真っ白になった。
「バニ―ちゃん……これ何……?」
「あ、これ? 純金の針ですが」
 わざわざ純金の針を用意してきたんかい! というか、そもそも純金の針なんてあったのか!
 ツッコミどころは満載だが、虎徹は黙っていた。口をきくのもしんどかった。
「鉄の針でも――銀の針でさえも駄目なんですよね。純金でないと」
「……バニ―ちゃん、そんな情報どっから仕入れたの……?」
 多少落ち着いてきた虎徹が口を開く。
「ネットですよ」
 バーナビーがしれっと答える。
 おまえ、それ、ネットの活用の仕方、絶対間違っているよ!
「気持ち良くなかったですか? 虎徹さん」
「……気持ち良かったけどよ! わりぃな、畜生!」
 虎徹は開き直るように怒鳴った。
「怒らないでください」
「怒ってねぇよ!」
 バーナビーは使った金の針をベッドサイドのテーブルに置く。
「でも、やっぱり効果はあったんですね。僕もやるまでは半信半疑でしたが」
「なぁ、バニ―ちゃん……おまえ、こんな情報いつ仕入れてんの?」
「少なくとも仕事中ではありません」
 そりゃそうだろう。
「じゃあ、プライベートの時、こんなこと調べてくんのか? こんのエロ兎!」
「何でですか! せっかく気持ち良くしてあげたのに!」
「大体、何でこんな純金の針が必要なんだよ! 高かったろ?!」
「僕はただ虎徹さんに気持ち良くなってもらいたかっただけです。マンネリで飽きられると困りますから」
「バニ―、あのな。俺はマンネリでも飽きねぇよ。相手がバニ―ならな」
「ほんとですか?」
 バーナビーの眼が輝いたのは、多分気のせいではないだろう。半裸の大きな体がのしかかってきた。
「大好きです。虎徹さん」
「はいはい」
「愛してます、虎徹さん」
「うんうん」
「僕と結婚してください」
「悪いけどそれはちょっと待って」
 虎徹には死んだ恋女房の友恵がいる。
 家族だっている。娘だっている。
 虎徹がバーナビーと結婚する、と言えば、何かと問題が起こるだろう。
「ま、焦りませんからね。僕は」
「おまえ……本気で言ってるのか?」
「嫌ですねぇ。虎徹さん。本気に決まっているじゃありませんか」
 虎徹はバーナビーに呆れられた。
 バーナビーだって今人気絶頂のKOHだ。虎徹と結婚するのはデメリットの方が多いだろう。
 今までコンビ愛だ何だと持ちあげてきたマスコミだって、自分達の関係が知れたら、掌を返したようにバッシングを始めるだろう。
「…………」
「どうしました? 虎徹さん」
 バーナビーが自分の気持ちを知ったら、狡い大人と蔑むだろう。
 バーナビーはまだ若い。自分の力だけで突っ走って行ける。
 それに――バーナビーにはまだ、本当に大切なものなんてないのだろう。
 だから、口にできるのだ。虎徹と結婚する、という夢を。
(バニ―ちゃん、そんな誓いさ、本当の恋人ができりゃすぐ忘れるって。俺は――おじさんだからな。おまえの幸せ見届けてやるよ)
 気持ちが顔に出ていたのだろう。バーナビーは心配するように見つめた。
「わりぃ、何か疲れた」
「純金は効果があり過ぎるんですね。良かったなら、また使おうと思ってたんですが」
「いや、いやいやいや、針のせいじゃねぇって」
「そうですか? ――辛そうですが」
「俺は……別のこと考えていたんだよ」
「何ですか?」
「俺、この頃怖いんだよ、バニ―ちゃん――日常生活もセックスもおまえで埋まってしまいそうな気がして」
「虎徹さん!」
 バーナビーの、虎徹を抱き締めた腕に力が入った。
「それこそ僕の望むところです。僕は……もうすっかりそうなっていましたから」
「考え直した方がいいぞ、バニ―ちゃん……」
 呆れ顔で虎徹が言う。
「愛してます――十年も二十年先までも……一生」
「すっかりプロポーズみてぇだな」
「プロポーズですから」
 バーナビーは嬉しそうだ。
「針のやつ、またやります?」
「いや、今日はもういい」
 明日以降だったらいい、という意味を言外に含ませている。
「僕も、虎徹さんの満足な顔を見れて良かったですよ」
 まぁ、今のところはこれでいいかな。
 バーナビーとのセックスフレンドの関係。バーナビーはどうやら本気であるようだが。
(俺なんかより――もっと魅力的なヤツはいっぱいいるって)
 虎徹はほろ苦く思った。
 いずれKOHのバーナビーにふさわしい恋人が現れる。多分女性だろう。バーナビーはハンサムで女にモテるから。
 その恋人とバーナビーの写真が、週刊誌やテレビを賑わすようになる日が来るのだ。
 いつか、バーナビーに、
「おまえってゲイなの?」
 と訊いたら、
「そんなことありませんよ。こうなるのは……虎徹さんに対してだけです」
 とはにかみながら答えてくれたのだから、本当は女の方が好きなのだろう。
 いつ別れるかわからない。だからこそ――思い出たくさん作るんだ。
 しかし――今度針を見たらエロい妄想で頭がいっぱいになるかもなぁ、と虎徹は密かに苦笑した。それも思い出の一つなのだろう。

後書き
元ネタは『パタリロ!』の59巻からです。
バニ―はネットで調べたとのたまってますが、そういうことなのですよ、はい。
2012.2.26

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