ヘタリア小説『俺の気持ち』

「ルートー。ハグしてハグー」
 俺がそう言うと、ルートはハグしてくれる。
「ルートー。ちゅーしてちゅー」
 求めるとルートは苦い顔で応えてくれる。
 でもね、でもね……。
 ほんとはその先までして欲しいんだー。俺ってインランかなぁ。でも、恋人同士だったら当たり前だよね。
「隊長! ちゅーして欲しいであります」
 この場合の隊長とは、ルートのこと。
「仕方ないな。フェリシアーノ」
「フェリと呼んで欲しいであります!」
「……わかった……フェリ……」
 そしてルートはこめかみにキスをする。
「そこじゃないのであります!」
 俺は不満をぶつけてみる。
「じゃあ、どこならいいんだ?」
「唇にちゅーして欲しいであります!」
「それはちょっと……」
 うーん。ぼくにんじん……じゃなかった、朴念仁のルートにはちょっとハードル高かったかな~。
 でも、俺、ルートと恋人なんだよね。
 恋人……なんだよね……。
 そう思っているのは俺だけかなぁ。ルートは何とも思ってないのかなぁ。
 俺はだっと駆け出してその場を離れた。
「あっ、フェリ!」
 ルートの呼ぶ声を背にして――俺は走った。
 俺、馬鹿みたい。一人で馬鹿みたい。
 ルートのせいなんだ。どれもこれもみんな。
 ルートの馬鹿ー!!
 えーんえんえんと盛大に泣いていると――。
「どうしました。フェリシアーノ君」
「あ? 菊?」
 恥ずかしいとこ、見られちゃった……。
「ルートと喧嘩しちゃった……」
「はあ……でも、あれは喧嘩というよりは、フェリシアーノ君が我儘言ってただけじゃ……」
「あれ? 菊、見てきたように言うね」
「そりゃそうですよ。実際に見てきたんだから……ごほんごほん。ほら、ルートヴィヒさんが探してますよ」
「ヴェー。ほんとだ。じゃ、俺逃げる」
「逃げてどうするんですか。この後仲直りのイベントでしょうが」
「俺、今ルートと会いたくない。心の準備が……」
「はいはい、わかりましたよ。今回の新刊は長くなりそうですね……」
 菊が、何だかよくわからないことを呟いている。俺は木陰や草むらに隠れながらルートを撒いた。
 俺はかくれんぼだったら得意だもんね。えっへん。
 え? 威張れるようなことじゃないって?
 だから俺、ヘタリアって呼ばれるのかなぁ……。
 いつの間にか、湖に来ていた。
 夏になると、神聖ローマとこんな湖でよく遊んだなぁ……。神聖ローマ、すぐに遊んでくれなくなっちゃったけど。
 俺が大人になる前に……。
 神聖ローマ……。
 会いたいよ、神聖ローマぁ……。
「フェリシアーノ!」
 ウヴェッ! ルート! どうしてここがわかったの?
 俺はまた逃げ出そうとした。でも、ルートに捕まっちゃった。
「何突然逃げたりする。おまえは」
「だって、俺、俺、ルートと恋人なのかすっごい不安で……それに……ここに来たら神聖ローマのことも思い出して……」
 俺は泣いた。ルートの前だと素直になれるんだよね。
 それが、怖い。
 ルートが本当の俺を知ったら、離れていっちゃうかもしれない。それが、怖い。
 俺……神聖ローマも好きだったんだ……。
 馬鹿だよね。今になって気付くなんて。
 ほんとに……。
「泣いてんのか。フェリシアーノ」
 ルートは俺の涙を吸い取った。
「ルート……しょっぱくない?」
「ああ。この暑さで塩分が欲しいとこだったからな」
 違う。そうじゃない。
 ルートだって、もっと違うことを言いたそうだ。不器用だね。俺達。
「俺は……神聖ローマに嫉妬してるんだぞ……」
「ウヴェッ?!」
 何よりも聞きたかった言葉。ルートから一番聞きたかった言葉。
「ルートー!」
 俺はルートの背に手を回した。
「帰るか」
 ルートは俺の頭をポンポンと撫でた。
 そんなんじゃ足りない……もっと、もっと……。
「じゃあ、唇にちゅーして欲しいであります!」
「……キスだけじゃ足りん……」
「え……?」
「フェリシアーノ……俺はこういう経験が全くなかったからな……どう言っていいのかわからんが……だから、時々フランシスが羨ましくなる」
「フランシス兄ちゃん? ルートはフランシス兄ちゃんになりたいの?」
「いや、ああはなりたくないが……」
「フランシス兄ちゃんにならなくていいよ」
「おまえ……人の話は最後まで……」
「ルートはムキムキのルートでいいよ」
 いや、ムキムキのルートがいいよ。ハンサムでマッチョで、頼りになって逞しくて……そのままのルートがいいよ!
「隊長ー、好きなのであります」
「わっ、ひっつくな、こら」
 ルートってあったかいね。でも、ちょっと暑い……かな。考えてみると、今夏だもんねぇ。
「ルート……もう一度、もう……」
「ああ……むっ!」
 ルートが何かを感じ取ったらしい。
「菊、出て来い!」
「……見つかってしまいましたね。いいですよ。お二人さん。私のことは壁かなんかだと思って続きやっても」
「ネガを寄越せ」
「嫌です。私の新たな秘蔵のコレクションを」
 ルートと菊は追いかけっこを始めた。
 どういうことかわからないけど……ルートは菊とも仲が良いってことなのかな。
 でも、ルートの恋人の座は渡さないから。誰にも、譲らないんだから。
 ごめんね。神聖ローマ。俺、想い出の中の小さな君より、ルートの方が好きになっちゃったみたい。
 神聖ローマに会ったら、謝らなくちゃ。謝って済む問題じゃないけど。
 ……だって俺、神聖ローマのことも大好きだったから。今でも、大切だから。
 今はもうルートの方が大好きになっちゃったんだけど。俺って、浮気者かなぁ……ヴェ。

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