決めるぜ今夜
※18禁なので、それでもいいよという方はスクロールしてください。






















































 虎徹さんと暮らし始めるようになってから、あっという間に二週間が経った。
 それなのに……それなのに……。何故艶めいた出来事が何ひとつ起こらない!
 僕は虎徹さんと肌を重ねたことがない。
 虎徹さんは普通の共同生活だと思っているし。僕は同棲のつもりだけど。
 駄目だ……これでは僕の方がもたない。
 想い人と毎日顔を合わせ、毎日過ごしていて、何も起こらないなんて……。
 いや、一度だけ。
 バスルームを開けた時、全裸の虎徹さんを見た。
 僕は慌てて閉めてしまったが、何故か陰毛に包まれた彼の花芯のことはよく覚えている。
 日に焼けてない、隠花植物めいたそれ。艶も色も形も良かった。
 ただ、僕のよりは小さいが、それは虎徹さんの方が標準サイズで、僕の方が大き過ぎるのだろう。
 戯れ歌にもあるではないか。
『嫌いな男のLLよりも、好きな男のSが良い』
 ……まぁ、Sという程小さくはなかったな。
 とにかくそれは嬉しいハプニングだった。
 同性の裸見て何が面白いんだという向きもあるかもしれないが、虎徹さんのは別だ。
 引き締まった体、きゅっとくびれた細腰。
 それを思い出す度、僕は虎徹さんを想像の中で押し倒したくなる。……いや、頭の中では何度も犯している。
 僕がそれを実行に移したら、虎徹さんは慌ててこの家を出るだろうか……有り得ることだ。
 僕が傷つくのは構わないが、虎徹さんが傷つくのは嫌だ。
 まさか、相棒と思っていた男が、自分をそういう目で見ていたとしたら……僕だったら嫌だ。相手が虎徹さんだったら……ちょっと嬉しいかもしれないが。
 今はまだ、いい相棒のままでいようか。このまま、このまま、何も起こさずに……。
 そう思った途端、涙が一粒、こぼれた。
 やはりそれは不可能だ。僕だって男なのだから。
 その時の為にいろいろ研究もしているし。
「バニ―ちゃん、ごめんごめん。会議が踊っちゃって……大丈夫?」
 僕は眼鏡を取って涙を手の甲で拭うところを虎徹さんに見られた。
 どうしてこの人はこういうタイミングで飛び込んでくるのだろう。
「何でもありません。眼鏡の度が合わなくなっただけです」
 僕は努めて冷静に答えた。心臓はばくばく言っていたが。
「そか……? 顔色も悪いぞ」
「何でもありませんたら!」
 僕はきつめに言って、それからしまった!と思った。
 虎徹さんは心配してくれてるのに、彼に当たってどうするんだ! 僕は!
「辛いなら……言っていいんだぞ、な?」
「…………」
 僕が黙っていると――虎徹さんの顔が近くなった。
 あれっ?と思っていると、虎徹さんの額が僕の額に当てられた。
「熱はないようだな」
 何て心臓に悪い熱の計り方をするんだ、この人は!
 でもこれは――チャンスだ!
「虎徹さん」
 僕はするっと腕を虎徹さんの背中に回した。
「……っ!」
 僕は虎徹さんと唇を合わせた。虎徹さんが動揺しているのがわかる。
「あんまり無防備にしてて……襲われても知りませんよ」
「お……おう」
 虎徹さんが真っ赤になっていた。
 中年男のくせに、初心なところも持ち合わせているんだな。亡くなった奥さんもいたし、子供だっているのに――。
 だが、拒否されなかったことはありがたかった。虎徹さんに拒まれたら――僕は……。
 ショックだったろうな、やはり。
「僕、今日食事当番ですから、作っておきますね。お風呂湧かしておきましたから、虎徹さんは入ってきてください」
「……あ、ああ」
 ゆでだこみたいな顔の虎徹さん。まるでお湯にのぼせたみたいだ。まだお風呂にも入ってないのに。
 それを可愛いと思う僕は末期なんだろう。
 さてと、今日は何作ろう……チャーハンでいいかな。虎徹さんも好きだし。
 あ、しまった。お米買うの忘れた。
 あり合わせの物で何か作るか。
 僕は虎徹さんと暮らすようになってから、他人の為に何かを作る楽しさというのを覚えた。
 虎徹さんはこまめにいろいろな料理を作ってくれる。独り暮らしで覚えたのだという。
 独りの時も手を抜かず、丁寧に生きて行く。それが僕にはできていなかった。食事なんか、サプリメントとか軽食とか、何かそんなものだ。
 ちゃんと食ってるか、と訊いて来た虎徹さんの気持ちがわかるな。当時はうるさいだけだと思っていたが。
 僕は思い出し笑いをした。
 幸せを噛みしめて、冷蔵庫を漁る。前に買ったステーキ肉があったから、それを焼こう。主食はパン。スープも添えて。スープは自分の手作りだ。
 僕の精神力は、鼻歌を歌うまでに回復していた。虎徹さんのおかげかもしれない。
 虎徹さんは長風呂だ。きっと体を隅々まで洗っているのだろう。
 そのシーンが頭の中に浮かんだ途端、僕は頬に血が集まっていた。下半身にも。
 駄目だ、バーナビー。今は夕食を作ることだけに専念しなければ。
 でも、今日はキスをした。少しは進展したかな。
 キスだったら前にもやっているが。あんまり昔過ぎて、虎徹さんは忘れたかもしれない。僕は決して忘れない。
 あの時も、嫌がられはしなかった。虎徹さんは優しい。その優しさが、人を惹きつける。
 ――誰にでも優しいから、僕は勘違いをしているのだろうか……?
 それでもいい。僕の方は本気なのだから。この恋心は無くなることはない。いつまでもこの胸に留まるだろう。
「ああ、いいお湯だった」
 タオルを引っかけながら、虎徹さんが満足そうな顔をしてやってきた。白のタンクトップにハーフパンツだ。
「気持ち良かったぞ。バニーも入ってきたらどうだ?」
 虎徹さんが『バニー』と呼ぶ度に、
「僕はバニーじゃありません! バーナビーです!」
 と、ムキになって口答えしていたが、今はそれすらも懐かしい。
 虎徹さんの低目のセクシーボイスで『バニー』と呼ばれるのは、僕だけの特権。
「僕は今、食事を作ってますので。食べ終わったら入りますね」
「冷めちゃうぞ」
「構いません。湧かし直せばいいんですから」
「勿体ねぇな」
 虎徹さんの言葉に、僕は思わずくすっと笑ってしまった。
 これが彼なのだ。ヒーローの時は街を壊しまくるくせに、小さな無駄を『勿体ない』と言う彼。
「何笑ってんだよ。後は俺がやっとくから、入って来い」
「今日は僕が当番なんですよ」
「ぎちぎちでやってると疲れるぞ。バニ―ちゃん」
「わかりました。じゃあ肉を焼いておいて下さい」
「了解!」
 虎徹さんは快諾した。
 僕はぎくしゃくしながら風呂場へ向かう。
 やはり勃っている。先にトイレに行くことにした。虎徹さんのことを考えて射精すると、頭が真っ白になった。
 それから風呂場で身を清める。お気に入りのボディソープで。
 虎徹さんもこれを使ったんだと思うと落ち着かなくなった。また勃起しかかってくる。
 いけない。お風呂場を汚しては。
 こんな時は因数分解の問題を考えるといいんだっけか。それとも、またトイレに行った方がいいだろうか。
 僕は聖書のみことばを思い出す。するとみるみるうちに鎮まった。
 何となく、神を冒涜したような気持ちになったのだが……。神とは冒涜される為の存在なんだ。
 罪悪感を誤魔化して、風呂から上がった僕は、虎徹さんと二人で食事をした。
 彼の肉の焼き具合はちょうど良かった。独り暮らしの時に得たスキルだろうか。
 ただ差し向かいで食べているだけなのに、まるで前戯をしているような緊張感があった。
「ワイン、開けましょうか?」
 僕が慌てて言った。
「おう。頼むわ」
 ロゼワインを二人で一本開けた。
 いろいろあって疲れたので、食器を片づけた後、ソファに腰掛けた僕は、隣に座った虎徹さんの肩に頭を置いた。
「バニ―ちゃん……?」
「虎徹さん……僕が貴方に何をしても、僕を嫌わないでくださいね」
「何言ってんだよ、バニ―ちゃん。嫌いだったら一緒に暮らしていないって」
 虎徹さんを見ているうちに、僕の中で情欲がまたむくむくと湧き出てきた。
「こんなことをしてもですか?」
 僕は半開きになっている虎徹さんの唇に自分の舌をねじ込んだ。
 虎徹さんも舌を絡ませて応えてくれた。
 虎徹さん、キス上手い……。
 一旦唇を離すと、彼は言った。
「もう既に、嫌いになんてなれねぇよ……畜生。それに、キスならさっきだってやったしな」
「虎徹さん……そのずっと前にもキスしたこと、覚えてます?」
「――忘れてねぇよ」
「虎徹さん!」
 何度も何度も相手の唇を夢中になって貪る。彼のも反応し始めたのを確かめると――。
「ベッドに行きましょう。虎徹さん」
 と、誘ってみた。
 虎徹さんは何も言わず、首を僅かに縦に振った。
 とろんとした目で涎を垂らした弛緩した表情……それすらも僕の劣情を刺激する。
 僕はお姫様抱っこでベッドへ虎徹さんの体を運んで行った。
「貴方を抱きたいです。構いませんか?」
「俺が抱かれる方か? まさかこの年で男に抱かれることになるとは思わなかったなぁ」
 けれど虎徹さんは拒まなかった。
「おいで……バーナビー」
 天使の表情とは、あんな顔のことを言うのだろうか。淫らなくせに清らかでもある。
 彼は公式の場や特別な時以外、僕のことを『バーナビー』と呼ばない。今は特別な時なのだ。僕は彼の誘惑に溺れた。

 ――その夜、僕は天国を見た。

後書き
久々の18禁~♪
おかしいところがあったら指摘してください。
2012.4.29

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