ブルーローズの危機

「お疲れ様。今日も良かったよ」
 そう言ってくれたのは、新しいマネージャー。
 前勤めていた人はやめちゃったの。
「そう? ありがとう」
 あたし、ブルーローズことカリ―ナ・ライルはヒーローと歌手の二足のわらじを履いている。
 今日もお客さんのウケが良かった。嬉しい。最高!
「あ、そうだ。伝言があったんだけどねぇ。ワイルドタイガ―から」
「タイガ―から?」
 あたしの胸が踊った。
「日曜日に時計台の前に来て欲しいって」
「いつ?」
「午前十時に」
「ほんとに?」
 嬉しい……かもしれない。
 こんなにいいことが続いて、あたしって幸せ過ぎ!
 でも、ハンサムに悪いかしら……。
 いいよね。あたしがハンサムのこと出し抜いたって。ハンサムはいつでもタイガ―のそばにいられるんだから。
 トレーニングルームで汗をかいて、休憩しているタイガ―にあたしは、
「日曜日の約束、内緒にしてるわね」
 と声をかけた。

 日曜日――。
 あたしはめいっぱいおしゃれをして待ち合わせ場所に来た。
 すると――マネージャーが来た。
「あ、タイガーは……?」
 あたしが訊こうとした時だった。
 後ろから来た男にタオルで口を塞がれた。
 ふ、不覚……。
 そう言えば、タイガ―本人から誘われたわけじゃないじゃない。
 遠のく意識の中で、あたしはそう思った。

 目が覚めたら、暗い倉庫の中だった。
 港の近くかな……。
「目覚めたか」
「アンタは……マネージャー?」
「その通りだ」
 あたしは縄で縛られていた。
「どうしてこんなことするの? 何が目的なの?」
「おまえを始末する」
 何か……いつものマネージャーじゃないみたい。
「もしかして、アンタは……」
 ウロボロス!
「いずれヒーロー全員をあの世に送るつもりだ。おまえに取り入るのも、楽じゃなかった」
 男はうっすらと酷薄な笑いを浮かべた。
「おまえはワイルドタイガ―が好きだからな。利用させてもらった」
「あたしのことはいい! タイガ―には手を出さないで!」
「ほう。おまえみたいな美少女に好かれて、タイガ―も果報者だな」
 タイガ―……。
 あたし、馬鹿だった。
 ハンサム……抜け駆けしようと思ったから、こんな目にあったのかしら。
 タイガ―に、ウロボロスが狙っていることを知らせなきゃ。
 その為には――早く逃げなきゃ。
 でも――氷が使えない。
「能力が使えないように、特殊な薬を注射させてもらった」
 そんな……!
 あたしは愕然とした。
 タイガ―、ごめん。
 告白したかった。好きだと言いたかった。
 ――ううん。あたしは負けない。
 最後まで、戦うんだから!
「見張ってろ!」
「はっ!」
 人数は、三人か。
 縄抜けできないのよね、あたし。こんなことになるなら、身につけておけば良かった……。
 タイガ―……! こんな時、タイガーなら、絶対諦めない。
 あたしは戦う覚悟を決めた。
 力が……漲ってくる。
「た……隊長、この女……!」
 あなた達……許さない。
 縄を氷で切った。いつぞやの楓ちゃんみたく。
 その時だった。
「ローズ!」
 聞き覚えのある声がして、そして――。
 目の前で敵が一人、倒れた。全身擦過傷だらけになったことだろう。
「た……タイガ―……!」
 どうしよう……嬉しくて涙が止まらない。
「はっ!」
 もう一人の男も吹っ飛んだ。あれは――ハンサム? ハンサムがやったんだわ!
「大丈夫ですか? ローズさん」
「うん……うん……」
「ローズ、おまえがな……約束を秘密にしてやる、と言ったんで心当たりがないから取り敢えず張ってたんだ。バニ―にも話してな」
 タイガ―が言った。
「全く……抜け駆けしようとするから、こう言うことになるんですよ」
「抜け駆け?」
「虎徹さんには関係――ありますけどね」
「うん……」
 残るは元マネージャー。
「この男の始末はあたしに任せて」
 氷の楔で、壁に男の服を縫い止めて張り付ける。
「しばらくそうしてなさい」
「な……何故だ。俺の薬は……薬は効かなかったのか?」
「薬、薬ってうるさいわね。本気の前にはそんなもの、効果ないんだから!」
「ローズ……」
「アンタ達……」
 そして、ハンサムとタイガ―に抱きついた。
「アンタ達、来てくれてありがとう……大好きよ。二人とも」
「ああ、いや……」
「ふふっ。嬉しくないこともありませんね」
 まぁ、私一人でもやっつけられたけど。
 タイガ―が心の支えになってくれたから。ハンサムも駆けつけてくれたし。
 ありがとう。タイガ―、ハンサム。やっぱりあたし達は仲間だわ!

後書き
ブルーローズ三部作その一。続きはまた後で。
2012.6.29

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