ジュダ・マイヤーの帰還

「だから! どうしておまえは俺の言うこと聞かねぇんだよ!」
「それはこっちの台詞なんだぞ!」
 世界会議、アーサー・カークランドとアルフレッド・ジョーンズの言い合いに司会進行役のルートヴィヒはげんなりしていた。
「――やれやれ、相変わらず騒がしいヤツらだな」
 突然耳に入った聞き覚えのある声に、アーサーとアルフレッドは喧嘩をやめた。
「ジュダ!」
「ジュダ・マイヤー!」
「本当に……本当に君かい?」
「――ただいま」
「わぁっ! ジュダ!」
 アルフレッドはジュダに抱きついた。ジュダは仕方なさそうに眉を八の字にした。
「おまえも変わらないな。アルフレッド――アル」
「それはこっちの台詞なんだぞ! もう帰って来ないかと思ってたんだぞ! 大体君は消えたんじゃなかったのかい?」
「うん。そうなんだけどさぁ……なんか、生き返れちゃったみたい? ワルハラからも追い出されちゃったしさ。キリスト教の天国でも神様は俺のこと嫌っているし。あ、ちゃんと許可もらって甦ったから、世界に悪影響は及ぼさないはずだよ」
「よし! じゃあ、今日は君が返ってきたお祝いをしよう! いいだろ、アーサー」
「ああ。ジュダは仲間だからな」
「耀さん!」
 アルフレッド達をあっさり無視し、ジュダは王耀を呼んだ。
「我あるか?」
「耀さん、俺帰って来ましたよ! あなたの為に」
「何があなたの為なんだぜ! アポローニャはどうしたんだぜ!」
 イ・ヨンスが噛みつく。
「アポローニャはいつでも俺のそばにいるさぁ。俺の心の中に」
 ジュダは首に下げた団員票を大切そうにぎゅっと握った。
「うっわ。くっさいセリフなんだぞ。よく言ってて恥ずかしくならないんだぞ」
 アルフレッドが茶々を入れる。
「ジュダさん。お帰りなさい。我々みんな、あなたの帰りを喜んでいますよ」
 菊がそう言いながらぺこりとお辞儀をした。
「こいつがジュダというヤツなのか? 軽薄そうなヤツなのである」
 バッシュが鼻で笑う。
「君はそう言うけど、ジュダはいろいろすごいんだぞ」
「ふん。こんなヤツにころっと騙されたくせに。仕様がないヤツなのであるな。アルフレッドは」
「何だと?!」
 アルフレッドとバッシュの仲が険悪になっているその頃――
 フェリシアーノは気持ちよさそうに眠っていた。
「こんな中でよく眠れるな……おい、起きろ、フェリシアーノ」
 ルートヴィヒが丸めた冊子でフェリシアーノの頭を叩く。
「ん……ヴェ……パ……パ……」
「パ?」
「パスターーーーーーーーーーー!!!!!」
 フェリシアーノの起きぬけの一声は建物を揺るがした。
「あ、あれ……? みんなどうしたの?」
 皆は呆気にとられている。ルートヴィヒなど腰を抜かしている。
「フェリシアーノさん……あの、あなたの声にみんなびっくりなさってますよ」
「ああ、ごめん。つい……」
「おまえは起きる時はいつでもあんな声を出すのか?」
 ファンクションを取り戻したルートヴィヒが言った。
「ヴェ……うん、まぁ、時々」
「まぁいい。ジュダが帰ってきたぞ」
「ジュダ?」
 フェリシアーノはまだぼうっとしているらしい。ジュダの姿を見て、やっと思い出したようだ。
「やぁ、ジュダ」
「よっ、フェリシアーノ」
 彼らは十年の知己の如く挨拶を交わしている。
「どうしました? ルートヴィヒさん」
 頭を抱えているルートヴィヒを見て、菊が訊いた。
「いや、たまにフェリシアーノの能天気さが羨ましくなってくる……」
「あはは。私もですよ」
 菊も同意する。ジュダはいろんな国に囲まれていた。
「ジュダ。お兄さんのこと覚えているかい?」
「ぼ、僕のことは?」
「ああ。フランシスにマシュー」
「よく覚えていてくれましたね、ジュダ。アルフレッドなんかよく会ってても僕のこと忘れているのに」
「悪かったって言ってるじゃないか。それに、君が存在感薄いのが悪いんだぞ」
「ううっ……」
「まぁ、そう言うなよ、アル。それがマシューのいいところじゃないか。控え目でさ」
「物はいいようだよな」
 アーサーが二ヨ二ヨと笑っている。
「いいの! お兄さんはそんなマシューが好きだから!」
「おいおい。お安くねぇなぁ。おまえら」
 ジュダも苦笑いをしている。
「まぁ、俺達は俺達で仲良くしましょ。ね、耀さん」
「待つんだぜ! 兄貴は俺のものなんだぜ!」
「我は物ではないある!」
「ああ、懐かしいな……このやり取り」
 ジュダの目元に光るものがあった。
「何泣いてるんだぜ、ジュダ」
「う……うるさい! ちょっと目にゴミが入っただけだ!」
「下手な言い訳なんだぜ」
「ところで、ガンマ団のヤツらはどうしてる? 元気かい?」
 ジュダは近くにいた、比較的まともそうなルートヴィヒに訊く。
「ああ。よく手紙やはがきが送られてくるぞ。みんな元気みたいだな。尤も、あいつら相手では悪運の方が逃げ出して行きそうだが」
「へぇー、珍しいこともあるもんだ。ルートが冗談を言ったぞ」
 フランシスの言葉にルートヴィヒは赤くなる。
「満更冗談だとも思えませんよ。ねぇ、フランシスさん」
「――ん、そういやそうだな」
 フランシスとマシューは明るく笑う。アーサーが言った。
「マシュー、あまりフランシスと仲良くするな。そいつはカナダの領土を狙っているぞ」
「坊っちゃん……そりゃないでしょうが」
「ふん!」
「あ、もしかして坊っちゃん、俺とマシューの仲を焼いているとか?」
「だーれが! マシュー、フランシスなんざおまえにのしつけて送ってやる。でも、もしフランシスの野郎をぶん殴りたくなったら俺に言いな。いつでも応援にかけつけてやる」
 アルフレッドがどしっとアーサーの頭に顎を乗せる。
「――マシュー。俺も応援するんだぞ」
「あ、アル……重いからどけてくれ」
「やれやれ。こいつらと来たらいつも騒がしいんだからな……騒ぎの種をわざわざ探しているとしか思えん……」
 ルートヴィヒはやりきれない、といった態で溜息を吐いた。これでは会議になりそうもない。けれど今回は仕方がない。消えたと思っていたジュダが帰ってきたのだから。
「今日はパーティーなんだぞ! ジュダ・マイヤーの生還を祝って!」
 アルフレッドのアイディアに皆が歓声をあげた。ジュダ・マイヤーはみんなにもみくちゃにされながら、最高の笑顔になっていた。
 ――フェリシアーノは一人マイペースに、パーティーにパスタは出るかなー、と呟いていた。

後書き
ジュダは好きなので、復活編書けてよかったです。
確かジョン・フォレストが壊滅編で「ジュダはもう戻ってこない」みたいなことを言っていたのですが……まぁ、ジョン・フォレストも万能ではなかったということで。
2013.9.19


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