黒バスオリジナル小説『高尾の妹がこんなに可愛いわけがない』

 今日は学校もバスケ部の練習も休みだし、カワイイ妹ちゃんをどっかに遊びに連れて行くか。
「なっちゃん」
「なぁに? お兄ちゃん」
「一緒にどっか行く?」
「いいよ――どこ行く?」
「ほら、この間できた何とかパークランドって……岩ノ手だったか山手だったか……」
「うん、わかった! 行く行くー!」
 でも、二人きりではちょっと味気ない。
「真ちゃんも誘っていい?」
「うん! お兄ちゃんの話聞いて、前から会ってみたいと思ってたんだよねー」
 そか。なっちゃんは会うの初めてだったっけ。
 なっちゃんは支度を始めるのか部屋に行ってしまった。

「もしもし、真ちゃん?」
「――ああ、高尾か。どうした?」
「今度近所に遊園地できたでしょ……一緒に行く?」
「それは構わんが……」
「オレのカワイイ妹ちゃんも一緒だぜ」
「オマエ妹がいたのか?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 超カワイイんだぜー」
「……まぁ、オマエの妹ならオマエに似てないことを祈るな」
「あーっ! 失礼な!」
「あまり大声で叫ぶな……」
 電話は切れた。さあってと、オレも着替えて来よう。

 遊園地入口――。真ちゃんより先に来たオレ達はそこで待っていた。
「ねぇ、緑間さんてどういう人?」
「どういう人って――あ、来た」
 目立つ緑色の髪の男女が一組。長身の方は真ちゃん。もう一人の方は――あれ?
 柔らかそうな髪。長過ぎず短過ぎず。真ちゃんと同じアンダーリムの眼鏡をかけている。もしかして真ちゃんの血縁? うん。そうに違いない。
 それほど真ちゃんに似ていた。睫毛の長い清楚な超美人ちゃん。
「ちょっと遅くなったか?」
「いいよ。オレ達が早く来過ぎたんだもん。ね、なっちゃん」
「うん」
「高尾。そいつがオマエの妹か?」
「うん」
 なっちゃんはピンクのワンピースを着ていた。肩につくかつかないかぐらいの黒髪。目元はオレと似てるんだけど、オレのような険しさはない。大きな瞳が潤んでいる。
 やっぱりなっちゃんはカワイイな。真ちゃんと一緒にいる子が美人なら、なっちゃんはカワイイ。
「高尾夏実です。今日はよろしくお願いします」
 なっちゃんが軽くお辞儀した。
「あ、ああ……」
 真ちゃんはいささか動揺しているようであった。さては惚れたか?
 でも、だーめだーめ。なっちゃんは真ちゃんにも渡すもんか!
「で、あなたは?」
 なっちゃんが真ちゃんの隣にいる女の子に訊いた。こういう時は女の子同士だよな。
「緑間春菜です。春夏秋冬の春に菜の花の菜です。よろしくお願いします」
 へぇー。綺麗なソプラノ。透明感があって空気に溶けて行くみたいだな。
「いくつ?」
「え? 私ですか? ――中二です」
「そう。あたしも中二なの。同い年だね」
 なっちゃんが積極的に話しかけていく。それにおっとりと返す春菜ちゃん。
 んー。美少女二人。絵になるなぁ。
「おい、何しまりのない顔してる」
「真ちゃん……しまりのない顔って、失礼だな」
「あ……そちらの方は、高尾和成さんですよね」
「うん。そうだけど?」
「うちの兄がいつもお世話になってます」
 春菜ちゃんがなっちゃんより丁寧に頭を下げた。
 かーわいい!
 思わず惚れてしまいそう……。あ、浮気するわけじゃないからね。真ちゃん。
「はー……」
 あれ? 真ちゃん溜息? もしかして美少女ちゃん達にあてれられたとか?
「早く行こ。ほら、お兄ちゃん達も」
「あー、先行ってて。ちょっと真ちゃんと話があるから」
「わかった。じゃ。行こ、春菜ちゃん」
「ええ」
 なっちゃんと春菜ちゃんは手を取り合って去って行った。
「……で? 真ちゃん。真ちゃんも妹ちゃんと一緒に来たってことは、ダブルデートを画策したとか?」
「そういうこっちゃないんだよ……」
「へぇー。じゃあどういうわけ?」
「――オレは春菜を連れて来たくはなかったのだよ」
「じゃ、どうして……」
「連れて行かなきゃおは朝占い観るの妨害する、と言われたのだよ……」
「うはぁ……」
 オレは思わず声をもらした。
 春菜ちゃん、顔に似合わず案外過激なのかな。真ちゃんがおは朝占い信者なのは知ってるだろうに。
「結構……やること大胆だね」
「……あいつは鬼なのだよ」
 真ちゃんがまた溜息を吐いた。オレは慰めようと背中を叩いた。

「見て見てー、お兄ちゃん!」
 なっちゃんが春菜ちゃんと一緒にメリーゴーランドに乗りながら手を振る。
「はーい。こっち向いてー」
 オレはデジカメでパシャパシャと二人の写真を撮る。
 真ちゃんは終始浮かない顔だった。
「しーんちゃん。機嫌直して。ほら、可愛いよ二人とも」
「ああ――そうだな。特に、オマエの妹がこんなに可愛いとは思わなかったのだよ」
「だって。オレの妹ちゃんだもん」
 真ちゃんに自慢の妹ちゃんを褒められ、オレはちょっと得意になった。
「可愛いからこそ――心配なのだよ」
 真ちゃんは意味不明の言葉を呟いた。

 ジェットコースターとお化け屋敷を征服した後は観覧車へ。
「わー。すごーい。すごーい。見てよ、お兄ちゃん!」
「人が豆粒みたいだよな。見ろよ。真ちゃんも」
「ふん。煙と何とかは高いところに昇りたがるとと言うのは本当だな」
「お兄様、失礼よ」
 春菜ちゃんが執り成す。
「ふん。高尾はこの程度じゃ何とも思わん。やわな神経はしてないのだよ」
 褒められてんだかけなされてんだかわかんないんですけど……。
「夏実さんに対して失礼と言ったんです」
 あらら、春菜ちゃん。君まで――。
「気にしないでいいよー、春菜ちゃん」
 なっちゃんは笑顔を見せた。つられたのか春菜ちゃんも微笑む。
「高尾。オマエはいいな」
「何で?」
「――あんなにいい妹がいて」
「ああ、そゆこと。うん。なっちゃんカワイイよー。でも、真ちゃんにだって美人さんの妹がいるじゃね? あー! 誰かに取られること心配してるとか」
「誰が……!」
「オレはいっつも心配してんだけどー」
 真ちゃんはまた、はーっと溜息を吐いた。これで何回目だろう。
「真ちゃんもさ、そんな仏頂面しないで楽しもうよー」
「オマエは何も知らないからそんなことが言えるのだよ」
 ふーん……そういうもんかね。
「あら、ステーキハウスがあるわ」
「何? 春菜ちゃん好物なの?」
 オレは訊いた。
「ええ。結構好きなの」
「へぇー。お肉好きなんだー。なんかイメージと違うけど」
「お兄ちゃん!」
「構わないわ夏実さん」
 春菜ちゃんが花の開いたように微笑む。なんか……やっぱり惚れそう。
「じゃ、降りたら飯にしようぜ。オレのおごりでいいからさ」
「フン……」
 真ちゃんが腕組みをしたまま鼻を鳴らした。

 ステーキハウスではなっちゃんと春菜ちゃんが仲良さそうに話している。話の好きななっちゃんは春菜ちゃんをリードしていた。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
「真太郎さん、かっこいいね」
「ああ――うん、そうだね」
「やっぱり噂は本当だったんだ」
「噂?」
「秀徳高校のエースは超イケメンて話。まぁ、お兄ちゃんの話からも想像できたけど」
「ああ」
 それにはオレも賛成するが――なっちゃんからそう聞かされると何となくフクザツだなぁ……。
「夏実さん」
 ちょっと尖った春菜ちゃんの声が飛んできた。兄を取られそうで不機嫌なのだろうか。しかし、なっちゃんはいつもの通りのんびりした声で、
「なーにー?」
 と春菜ちゃんに訊いた。
「このステーキ、美味しいわよ。――そっちのも食べさせてくれる?」
 春菜ちゃんの機嫌は一瞬にして直ったようだ。
「いいよー」
「春菜、あまり我儘を言うもんじゃないのだよ。夏実くんに失礼なのだよ」
「あら、お兄様には関係ないでしょ」
「いいんです。緑間さん。うちのお兄ちゃんなんかしょっちゅうあたしのもの取るし」
 ここでオレを引き合いに出すことないだろう、なっちゃん。しかし――。
「真ちゃん……今、なっちゃんのこと、夏実くんと呼んだよね……」
 オレは笑いを堪えていた。
「何が変なのだよ。他に呼びようも考えつかなかったしな」
「お兄様は変ですわ。語尾も変だし」
「なにーっ?! オレのどこが変なのだよ」
「いい年になって占いを本気で信じ込むなんて女の子みたい」
「何だと?! オレは人事を尽くしているだけなのだよ!」
「その人事の尽くし方がおかしいって言ってるの!」
 きょうだい喧嘩をし始めた緑間達。
 ふーん。緑間達もきょうだい喧嘩するんだなぁ。なんか新鮮。宮地サンなんかこの事実知ったら大ウケだろうな。
「緑間さん、春菜ちゃん。喧嘩しないで」
 ほっときゃいいのに。なっちゃん。きょうだい喧嘩は犬も食わないってね。……あ、ありゃ夫婦喧嘩か。
「は。すまん、夏実くん」
「ごめんなさい。夏実さん」
 二人が同じタイミングでなっちゃんの言うこと聞いたので、かえってなっちゃんの方が恐縮したらしい。
「あ、いえ……生意気言ってすみませんでした……」
「いや、夏実くん。君は悪くない」
「そうですわ。夏実さん。――みっともないとこお見せしてしまいまして……」
「あ、いいのいいの。考えてみればあたしもお兄ちゃんとしょっちゅう喧嘩してるんだし、人のコト言える立場じゃないのよね……あはは」
「そう言ってくださると――」
「気が楽になるのだよ」
「あら。それ私の台詞よ。お兄様」
「――そうか」
 気が合うんだか合わないんだかわからない緑間きょうだい。
 真ちゃんと春菜ちゃんは顔を見合わせ、オレとなっちゃんは声を揃えて笑った。

「楽しかったなぁ。来て良かった♪」
 食事してから数ヶ所回ってもう夕方だ。なっちゃんはご機嫌だ。
「私も今日は楽しかったわ。夏実さん」
 春菜ちゃんがなっちゃんに手を差し出した。
「うん……」
 なっちゃんが春菜ちゃんの手を取った、その時――
「やめろ、春菜!」
 真ちゃんが叫ぶ。春菜ちゃんがなっちゃんの手を引っ張って唇を奪った。
「……あー、遅かったか」
 と、真ちゃんの台詞。オレは頭が真っ白になっていた。
「い……今、春菜ちゃん、何を――」
「ああ……春菜は女好きなんだ……さすがにキスまでいったのは初めてだが――」
「いっ……」
 いやああああっ! なっちゃんの絶叫が辺りに木霊した。
 ――なるほど。真ちゃんが何となく浮かない顔をしていたわけがこれでわかった。いくら美人でもレズの妹じゃなぁ……。なっちゃんが普通の妹で良かったよ、ほんとに。

 それから、
「もう春菜ちゃんと二人きりで会わないように」
 とのオレからの厳重な注意になっちゃんが神妙に頷いたのは言うまでもない。

後書き
緑間と高尾の妹ちゃんの設定はもう公になっているのでしょうか……。まだ知らない今のうちに勝手に書いとこーかと。

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