黒子も火神に恋してる

 今日もマジバで彼とデート。彼――火神君と。
 ボクは火神君と向かい合わせに座る。不満なんて何もない。ただ、黙って二人で座っているだけでほっとして――。勿論、それはボクだけかと思ってたけど。
「黒子」
「何でしょう」
「オマエといると……ほっとする」
「…………」
 幸せ過ぎます。ボク。
 だから、そんな殺し文句吐かないでください。そういうところも彼のいいところですが。
「黒子、おまえが好きだ」
 そう言われてはや数ヶ月。何の進展もないけど、ボク達はこのままでいい。
 ああ、でも、その前から好意的な言葉は言ってくれてたんでしたね。
 誠凜の皆さんも祝福してくれた。
「良かったわね。黒子君。その調子で火神君のハートを狙い続けなさい☆」
 そう言ったのは男より男らしいカントク。バスケ部の中では最強かもしれない。
「あー、まずは何はともあれ、恋が実って良かったな。でも、練習に支障きたすなよ」
 これは主将の日向センパイのセリフ。日向センパイも早くカントクに告白すればいいのに。ボク知ってるんですよ。日向センパイがカントクを好きなこと。
「火神……オマエ黒子が好きだったのか。知らなかったぜ」
 木吉センパイが生真面目な顔で繰り返したので、火神君は顔を赤くしていた。汗もかいている。何となくボクも恥ずかしかった。
「火神。汗かいてるぞ。焦って汗をかく。――キタコレ!」
 伊月センパイはダジャレを考えるのが好きだ。毎日そればかり考えているんではないでしょうか。ネタ帳をいつも持ち歩いています。日向センパイには呆れられているけど。
「水戸部も『おめでとう』だって」
 小金井センパイの通訳に水戸部センパイはこくこくと頷いた。小金井センパイ、よく水戸部センパイの言ってることわかりますよね。彼の特技のひとつなのかもしれません。
 土田センパイは、
「火神、黒子、仲良くな」
 と、無難なコメント。彼女いる人は違いますね。
 ボクと同じ一年の降旗君達もやんやの大喝采。
「お幸せに」
「結婚式には呼べよ」
「元気な赤ちゃん産めよ」
 なんて祝われて(最後のは冗談ですが)、すっかりボク達は誠凜バスケ部公認のカップル。
 それがちょっとした喧嘩の後だったので、こういうのを『雨降って地固まる』っていうんでしょうね。
 取り敢えず、ボク達は今とても上手く行ってます。そりゃもう、怖いくらいに。
 でも、人は欲深いもの。
 今度はキスとかしてみたいなぁ……とか思っているんです。
 でも、火神君がどう思っているかどうか知りたいですね。
 ボクには彼の心が読めない。他の人だったら或る程度読めるのに。
 きっと、火神君が好きで、好き過ぎて、だからボクは彼の心を読むのを知らず知らずのうちにセーブしているのかもしれない。
 火神君の前にはハンバーガーの山。毎度のことながらよくあんなに食べられますね。もうお馴染みの光景ですが。
 バスケやってなきゃメタボになってたかもしれません。気をつけないと。
「おう、黒子」
 火神君が紙に包まれたハンバーガーを投げて寄越す。ボクは慌ててキャッチした。
「それ食え。腹減ってるんだろ?」
「いえ、別に……」
「いいから食べろって。オマエハンバーガーじーっと見てたじゃねぇか」
 ボクが見ていたのはハンバーガーではなく、火神君なのですが……言ったところで仕方がないし、第一照れくさ過ぎるから。
「ありがとうございます」
 ボクはバニラシェイクを啜りながらハンバーガーを食べる。美味しい。
 火神君と食べるから余計おいしいのでしょうか。
 一人より二人の方が食事は美味しい。好きな人と食べるハンバーガーは美味しい。
「――良かった」
 火神君が笑み崩れている。
「え?」
「幸せそうな顔してるぞ。黒子」
「そうですか……」
 そうだとしたら、それはひたすら火神君のおかげ。
「うぁー、ちょっと喉乾いたな」
「火神君、これ」
 ボクはバニラシェイクを差し出した。
「おー、サンキュ」
 そして火神君はボクの使っていたストローでバニラシェイクを口にした。
「ああ、うめぇ。ありがとな。黒子」
「は……はい」
 バニラシェイクは感じとしてまだ半分くらい残っている。
 ボクはストローに口をつけた。さっき火神君も使ったストロー。間接キス……でしょうか。
 そのバニラシェイクはさっきより甘い味がした。さしづめ恋の味、でしょうか。何だかボクも充分恥ずかしい男ですね。
 火神君は満足そうにハンバーガーを頬張りながらボクの顔を見てる。
「何だ? 今日は人間観察しねぇのか?」
「はい。人間観察より好きな人の顔を見る方が楽しいですから」
「好きな人……か」
 火神君の目元が和んでいる。
「オレも好きだぜ、黒子」
「はい」
 火神君とボク。男同士の実りのない恋。
 でも、誠凜のみんなは祝ってくれた。火神君は優しい。ボクも本気だ。近くにいられるとドキドキする。
 火神君にばかり好きだと言わせるのはフェアではないと思うので、ボクも告白する。
「――好きです。火神君」
「……お、おう」
 火神君は照れて汗を飛ばしている。可愛いですね。ボクの相棒――いえ、恋人は。
 火神君はいつか女の人と恋をして離れて行ってしまうかもしれない。でも、ボクはぶれない。もし火神君にふられても、一生火神君との思い出を大切に抱きながら生きて行こうと思う。
 同じ光と影でも、青峰君との時とは違った感情を味わう。青峰君はボクの元相棒だったけど、恋心を感じたことは一回もない。
 一方、火神君相手の時は――
 火神君と同じ空気を吸っている事実。それだけでボクは倒れそうになります。――火神君に心配かけるといけないから、何とか我慢して倒れないようにしてるけど。
 恋に落ちた、というやつでしょうかね。
 ボクは黙って火神君の顔を見つめ続けた。
 赤い髪。はだけた学ランの黒い上着。ちょっと吊り目。二本に分かれた眉。旺盛な食欲。見ていて飽きません。――特に眉が。
 ハンバーガーも残り少なくなってきた。
「今度は2号の散歩にも付き合ってください」
「え?」
 ――途端に火神君は鼻に皺を寄せて嫌そうな顔になる。その表情が面白くてつい笑ってしまった。
「まだ犬嫌いですか? 火神君」
「――いや、2号は平気だけどよぉ……あいつうぜぇぜ。バスケで失敗したらテンション下げてタメイキ吐くしよ」
「頭がいいんですよ」
「……オレは1号の方がいいぜ」
「それは冗談のつもりですか?」
「冗談だ。――でも、本気の冗談だ」
 ボクはそれを聞いて苦笑した。
「どっちなんですか」
「だから、本気の冗談だって。――もう出るぞ」
 火神君はあのハンバーガーの山を全部平らげていた。尤も、驚くには当たらない。彼の胃袋は人間離れしているのだから。
 月が出ていた。満月より少し欠けていた。ボクと火神君は手を繋ぎながら一緒に空を見上げていた。

後書き
えへへ。火黒ちゃん大好き!
2013.10.20

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